地面の目印 -エスワン-

さまざま、気の向いたとき
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2つの立方数の和を3とおりに表す多項式

2020-05-05 17:27:00 | 数学

 2つの立方数の和を2とおりであらわす恒等式はラマヌジャンのものがよく知られています。3とおりのバージョンはないか、いろいろやってみたところ、次のu.vの恒等式を見つけました。残念ながら、これらの6つの数が同時に正整数となることはありません。

 2つの自然数の3乗和を3とおりで表せるケースはなかなかないので、簡単なパラメータ解はないのかもしれません。

   ( 15*u^2 + 77*u*v + 112*v^2 )^3 + ( 9*u^2 + 31*u*v + 14*v^2 )^3 

= ( 18*u^2 + 91*u*v + 126*v^2 )^3 + ( -12*u^2 - 67*u*v - 84*v^2 )^3

=   ( 16*u^2 + 77*u*v + 105*v^2 )^3 + ( 2*u^2 + 31*u*v + 63*v^2 )^3

=  (342) * (u^2 + 4*u*v + 7*v^2) * (3*u^2 + 18*u*v + 28*v^2) * (4*u^2 + 18*u*v + 21*v^2) 

 

 


メモ12 タクシー数と楕円曲線:rank 2以上の楕円曲線がどんどん出てくる

2020-02-09 15:47:04 | 数学

 タクシー数と楕円曲線の有理点が関係するだろうと前から思っていた。3次曲線


   

が、x,yの入れ替え以外の異なる2つの有理点を持てば、m×(ある整数の3乗)を2とおりの仕方で 整数の3乗 の和として表すことになるし、ランクが2以上の楕円曲線が得られるのではないかと思った。しかし、どのようにWeierstrass標準形に変換するのか考えたことはなかった。今回、その変換を求めてみたのでメモしておくことにする。
 但し、改めてSilverman・Tateの”Rational Points on Elliptic Curves”(以下[Sil]とする)をみると、その変換式やタクシー数についていろいろ書いてあることが分かった。

  
  なので、x+y=z , x-y=wとおくと、(*)は

 
  
となる。これから両辺に12をかければ

 
  
次に両辺を zの3乗で割って

 
  
さらに両辺に12mの2乗をかけて

 
  
12m/zと36mw/zを改めてz,wとおくと

 
  
であり、(*)は

 

とWeierstrass標準形に変換される。このとき逆変換は

 
 
で与えられる。

 ここで(*)の整数解と(**)の有理数解の間に何か関係ないだろうか。例えば(*)の整数解の個数、すなわち、自然数を異なる整数の組であらわす数Nと(**)の楕円曲線の有理点群のランクに関係があれば面白いと想像した。

gcd(x,y)=1 に限定した場合の解について[Sil]には以下が書かれている。

N= 2で自然数解とした場合の最小数m=1729がいわゆるラマヌジャンの逸話で有名なタクシー数
N=3 の場合、最小のmの整数解の場合と自然数解の場合は次のとおり。
 
N=4の場合は、そのような自然数解の存在は知られていないとのこと。
但し、wikipedia に2003年に発見された以下の例が示されている。
  
 
また、[Sil]のP151に以下の定理がある。
定理 mをm≧1なる整数。Cmを  なる3次曲線とするとき
mによらない定数κ>1があり、以下が成り立つ

  

 この定理により、(*)を満たす整数解(x,y)でgcd(x,y)=1を満たすものが多ければ,(**)のあらわす楕円曲線の有理点群のrankも大きくなることがわかる。

 この定理からは、gcd(x,y)=1が満たされなければ、いくら(*)を満たす整数解が多くてもランクが大きくなるかどうかわからないが、例えば、ランク2以上になるためには、互いに素という条件がなくとも整数解が何個以上あればよいという数はないものかと考えた。一番安易な考えとして、mが異なる整数の3乗の和で表されれば、対応する楕円曲線(**)の有理点群のrankは2以上でないかと予想した。

 

であるので、試しにm=91,152,189,1729, 4104 についてCoCalcで計算してみると、189のときはランクが1となるが、それ以外では2となった。2016年10月29日に書いた本ブログの「タクシー数」で整数の3乗の和で2通りに表せるパラメータ解を示したが、これを用いてこの問題を部分的に解決したので以下に示す。

 


【説明】
恒等式

 

がなりたつので、

 

とおくとき、

 

に注意すれば

 
 

であるので、

 

は、u,vを有理数(整数)とすれば、楕円曲線Cの有理点(整数点)である。
もともとの恒等式がu,vに関する対称式であることに注意すれば

 

もCの有理点(整数点)である。したがって、P1 、P2が有限位数でなく、Z上で1次独立であることがいえればCの有理点のなす群のランクが2以上であることがわかる。

また    とすると

 

である。

今、 2*R=0 (原点)となる点は0以外ないことに注意すれば、整数k1、k2について 
k1*P1+k2*P2=0 (原点) とするとき、k1 ,k2 はともに0、もしくは ともに偶数ではないとして良い。
今、k1,k2がともに偶数ではないとすれば、n1*P1+n2*P2=2*R ここでn1,n2は0または1でともに0ではない、となるCの有理点Rが存在する。したがって、P1、P2、P1+P2が有理点Rの2倍になることはないことがいえれば, k1=k2=0 となり、P1,P2は独立であることがいえる。

P=n1*P1+n2*P2=2*R、 P=(z,w), R=(x,y)とすれば2倍の式より
  
 
これを整理して
   (A)

が整数解をもつことになる。このような整数解xが存在すると矛盾することを以下の順序で示す。

(1) 素数q≠2,3について、xのqべき指数eq(x)はzのqべき指数 eq(z)に等しいか大きい、もしくは、eq(12m)及びeq(z)は3の倍数、eq(x)は2の倍数である。

(2) 素数7 について、xの7べき指数e7(x)はzの7べき指数 e7(z)に等しいか大きい、もしくは、e7(z)は3より大きい。

(3) 素数q=2 または 3について、xのqべき指数eq(x)はzのqべき指数 eq(z)に等しいか大きい。

(4) (1)、(2)より mの7のべき指数が2以下であり、2、3以外にべき指数が3の倍数である素因子を含まない場合、xはzの倍数であるが、x=z または2z,3z でなければならない。

(5) (4)と同じ条件のとき、xはz,2z,3zではありえない。

【(1)の説明】
P=P1、P2、P1+P2のとき,12mはそれぞれ

   

である。q≠2, 3なので、eq(12m)≧eq(z) としてよい。

 

より、 

 

である。
  eq(z) > eq(x) とすると 3eq(z) > 2eq(z)+eq(x) なので
  4eq(x) ≥ min(eq(z)+3eq(x),2eq(z)+eq(x))
 さらに、
  eq(z) ≥ 2eq(x) とすると、 eq(z)+3eq(x) ≤ 2eq(z)+eq(x) なので
    4eq(x) ≥ min(eq(z)+3eq(x),2eq(z)+eq(x))=eq(z)+3eq(x) より
    eq(x) > eq(z) となり矛盾。
  eq(z) < 2eq(x) とすると eq(z)+3eq(x) > 2eq(z)+eq(x)  なので
    4eq(x) ≥ min(eq(z)+3eq(x),2eq(z)+eq(x))=2eq(z)+eq(x) より
    3eq(x) ≥ 2eq(z) 
 以上より、 常に eq(x) ≥ 2/3*eq(z)  

 また、

 

であるので、

 2eq(12m)+eq(x) ≥ min(4eq(x),eq(z)+3eq(x),e(z)+2eq(12m))
ここで、 

 eq(z)+3eq(x) < e(z)+2eq(12m) とすると、eq(x) ≤ 2/3*eq(12m)となる。

 eq(z)+3eq(x) ≥ e(z)+2eq(12m)とすると 
  2eq(12m)+eq(x) ≥ min(4eq(x),eq(z)+3eq(x),e(z)+2eq(12m))
         = min(4eq(x),e(z)+2eq(12m))
 ここで 

  4eq(x) > e(z)+2eq(12m) とすると 2eq(12m)+eq(x) ≥ e(z)+2eq(12m) より 
   eq(x) ≥ eq(z) 
  4eq(x) ≤ e(z)+2eq(12m) とすると 
     2eq(12m)+eq(x) ≥ min(4eq(x),e(z)+2eq(12m))
           = 4eq(x)
よって、 eq(12m) ≥ 3/2*eq(x) ≥ e(z)

したがって、eq(x) ≥ eq(z) もしくは  eq(12m) ≥ 3/2*eq(x) ≥ e(z)    である。

次に、

 eq(z) > eq(x) のとき、
 zの素因子qについて、12mのqべき指数は、zのqべき指数に等しい   (B) 

ことを示す。
 以下、背理法で(B) が成り立たつことを示す。
(B)が成り立たないとすると  eq(12m) > eq(z) 
P=P1のとき、
 

したがって、q≠2,3,7のとき、zがqを素因子にもつので、
 または   は 
と共通素因子qを持つ。
 
であるので、  と  がqで割り切れれば、 u、vはqで割り切れる。これはu,vが互いに素に矛盾。また、
 
であるので、 と  がqで割り切れれば u,vはqで割り切れ、矛盾。

 

 次にP=P2のときは、u,vの対称性を考えて、(B)は成立しないとすると矛盾。

 

P=P1+P2のとき、
 
したがって、q≠2,3,7のとき、zがqを素因子にもつので、
   または  は  
と共通素因子qを持つ。 これは上に述べたことと同様に矛盾。

以上より、(B)がいえた。
 つまり、 eq(z) > eq(x)  とすると、zの素因子qについて
eq(12m) = 3/2*eq(x) = eq(z) である。これは、eq(12m)及びeq(z)が3の倍数、eq(x)が2の倍数であることを示す。
                                        【(1)の説明終】

【2】の説明
 q=7のとき、上の説明で e7(x) ≥ 2/3*e7(z)   はいえる。
したがって、e7(z)=0,1,2 のときは e7(x) ≥ e7(z) である。  
                                        【(2)の説明終】

【(3)の説明】
q=2のときは、u,vは互いに素なので、u,vともに奇数か、どちらか一方が奇数。
このとき、,  ,    はすべて奇数。
したがって、e2(z)=e2(12m)=2
 
より、
 
したがって、e2(x) ≥ 1 である。e2(x)=1 とすると、 この不等式より 4e2(x) ≥ 7
したがって、e2(x) ≥ 2 = e2(z)

q=3 のときは、

 

よって、これらが3で割れないとき、
 e3(z)=e(12m)=1   P=P1またはP2のとき
 e3(z)=0, e(12m)=1  P=P1+P2 のとき
これらが3で割れるとき u≡v≡0,1,2 (mod3) である。u≡v≡0 (mod3)の場合は,u,vが互いに素に矛盾するので除外してよい。
u=3s+1, v=3t+1 とすると
 
したがって、 の3べき指数は1である。
  の3べき指数が3以上であるためには
  でなければならない。
 これは、mod3で考えると、(s,t)=(0,2), (1,0),(2,1) に限る。
これらの場合でも 3べき指数は4にはならないことを示す。
 mod3で(s,t)=(0,2)の場合、s,tをそれぞれ3s, 3t+2で置き換えると
 u=9s+1, v=9t+7 であるので、


 
  
 (s,t)=(1,0)の場合、 s,tをそれぞれ 9s+4, 9t+1 として

 
 

  (s,t)=(2,1)の場合、 s,tをそれぞれ 9s+7, 9t+4 として

  
 

次に、 について考える。この3べき指数が3以上であるためには、
  でなければならない。
mod3で考えると、(s,t)=(0,1),(1,2),(2,0) でなければならない。
 この時も  の場合と同様に 3べき指数は3となる。
以上q=3のときの ,  ,   の3べき指数は次のとおりとなる。


したがって、e3(z)は6以下である。

今、e3(z)>e3(x)とすると


 


以上より、 3e3(z)>3e3(x) ≥ 6+2e3(z)
したがって、e(z) > 6 これは矛盾。ゆえに e3(x) ≥ e3(z)            【(3)の説明終】

 

 【(4)の説明】
(1)、(2)、(3)より、(4)の条件下で、xはzの倍数である。

次に、(A)式の左辺をf(x)としそのグラフを考え、xのとりうる範囲を考える。
 
   

よりf''(x)=0となるのは x=0 または 2z であるので、zは必ず正であることに注意すれば、f’(x)はx=0で極大、x=2zで極小となる。 

 


であるので、f’(x)は -zと0、0とz、2zと3zの間で実根を有する。これらをα, β, γ とすると
f(x)について、x<α で減少関数、α<x<βで増加関数、 β<x<γで減少関数、x<γで増加関数となる。

 

 


であるので、(A)の根xはz, 2z, 3zのいずれかである。
                                     【(4)の説明終】

 

【(5)の説明】

 

であるので、z,2z,3zが(A)の根であるためには、

 

でなければならない。
次に、これらが成り立つのは u+2v=0 または u+v=0 のときに限ることをP=P1,P2,P1+P2の場合に分けて示す。

P=P1のとき、

 

であるので、u+2v=0のときに限り、3zは(A) の根となる。

P=P2の場合、u,vに関する対称性より 2u+v=0のときに限り、3zは(A)の根となる。

P=P1+P2の場合

 

 

 

であるので、u+v=0のときに限り、3zは(A) の根となる。
                                     【(5)の説明終】
 以上で命題の説明は終わり。                          (説明終)


メモ11 ランク2以上の楕円曲線

2019-12-22 09:02:52 | 数学

 メモ8と9、10で  q≠0,1の非負整数 

の位数∞の整数解、有理数解について考えた。メモ10では、q=38089のときにこの楕円曲線の有理点のなすアーベル群のランクが4以上であることをみた。これらの結果を踏まえ、ランクが2以上となる条件について検討したので、備忘録としてメモしておくこととした。

 

今、qを整数として

   

 C(Q)、C’(Q)をそれぞれ楕円曲線C,C'の有理点群 とする。 

また、メモ10の命題1と2より以下の①、②が成り立つ。

① T=(1,0), T'=(-2,0) とし、O, O'をC(Q), C'(Q)の零元とするとき

(a) 以下で定義される準同型 ψ:C’ → C があり、その核は{O’, T’}である。

② αを以下で定義される準同型 α: とすれば、

   

   完全系列  が得られる。

 

メモ10の最後に「ψ(C'(Q))の元が2C(Q)に含まれないことと上の4次方程式が2次方程式の積に分解することが同値であることを意味するのかもしれない。」と書いた。C(Q)のねじれ元のなす群がZ/2Zとすれば、

    ここでr はC(Q)のランク

なのでrが1以上であれば、 がいえれば、ψ(C'(Q))も2C(Q)も位数無限大の元を有するのでrは2以上と考えた(しかし、後でみるように、C(Q)={ψ(C'(Q))+Tの生成する群}の可能性もあるのでこれは成り立たない)。

 最初に、 を示すうえで有用と考えた以下の命題を示す(結局、あとで使わなかった)。

命題 qを非平方数とする。また、C,C’及びψ、αを上に示したとおり、φを以下で定義される準同型 φ:C → C’ とする。 また、T=(1,0) とする。

  

このとき、u≠1 とすれば

   かつ  ⇔   

    (u,v)の2等分点(x,y)を求めるためのxの4次方程式が既約2次式の積に分解される。

(説明)

 ⇒ (u,v)=ψ((w,z)) ∈ ψ(C'(Q))、(x,y)を(u,v)の2等分点とすると、

  であるのでメモ4より

 

一方、上に記したことより

 

よって、

 

分母を払ってxの多項式として整理する。

xの3乗、2乗、x及び定数項は、それぞれ

 

となる。w=-2とすると(u,v)はC(Q) の零元となるのでw≠-2 よって、xは

 

を満たし、2次式の積に分解される。xが有理解を持てば、メモ4の2倍公式よりyも有理数。よって、(u,v)∈2C(Q)) となり矛盾。したがって、xの満たす4次方程式は既約2次式に分解される。

⇐ (u,v)=2(x,y)=ψ・φ(x,y) である。(w,z)=φ(x,y)とおくと (u,v)=ψ(w,z) である。よって、(w,z)がC'の有理点であることが示せればよい。

 メモ10の命題1より

 

1番目の式より  よって 

2番目の式より  よって

  

wが有理数でないとすると、w'=w+2 も有理数でない。仮定より xはある2次体の元であるので x∈Q(w') としてよい。

  ここでa,b,c,d∈Q

と分解とすると、

 

xの係数、定数項を比較して

 a+c=0,  b+d=1

 ac-4bdq=-q,   bc+ad+4bdu=1

これら4式から、c,dを消去すると

      ①

  ②

qは非平方数なので、①より a=0,b=1/2 となる。

したがって、②より u=1 となるが このときz=0、v=0

つまり、(u,v)=(1,0) となり矛盾。よって、wは有理数である。

 より w≠-2であれば zも有理数。w=-2のときz=0    (説明終)

 

次に、q≠0,1の非負整数とし、C(Q)のねじれ元はT=(1,0)のみ、かつ、ランクrが1以上の場合、つまりCが位数無限大の有理点を持つ場合、ランクが2以上となる条件を考えてみよう。このとき、α(T)∉ker(α)=ψ(C'(Q))なので、以下のいずれかが成り立てばよい。

 

 1.ψ(C'(Q))/2C(Q)の位数が4以上 

 2.C(Q)⊋ψ(C'(Q)とTで生成される群 かつψ(C'(Q))/2C(Q)の位数が2 

 3.C(Q)/{ψ(C'(Q)とTで生成される群} の位数が4以上 

 

さて、メモ8(ある楕円曲線の整数解) より、

楕円曲線C:   q≠0,1の非負整数 の位数∞の整数解はqが以下のときに限り存在する。

     l,k: 自然数、n:0でない整数

このとき、 は位数∞の整数解。また、T=(1,0)は位数2の整数解であり、

 

以下、簡単のためにl=1としよう。  である。

同じqを生成する異なる組  について、上で求まる位数∞の有理点をとすれば、

   であれば

の代表するC(Q)/{ψ(C'(Q)とTで生成される群} の元は独立であるので、上の条件3よりランクは2以上である。

 であるのでが平方数でなければ  はψ(C'(Q))に含まれない。

  

であるので、これらが平方数にならないようなを求めればよい。

今、2以上の自然数a,nbについて、(ak,n)と(k,nb) が同一のqを与えるとする。すなわち

 これを整理してnで割ると

    

簡単のためにさらにk=1とすれば、

 が平方数でない  (*)  かつ、

  (**) 

が成り立てばよいことになる。

(**)式は 

 

となる。

このa,bに関する不定方程式は,a=b=1という解をもつので、無限の有理数解をもつ。そのうちa≠bとなるともに1以上の整数の解a,nbを求めれば、同一のqを与える組(a,n),(1,nb)が得られる。

以下、具体例を2つの場合に分けて考えてみる。

【1】 nが平方数の場合

今、とすると、上式は

 となる。

 を解くと

 を得る。

つまり、組 

同一の   を与える。かつ、n>1であれば (*)を満たす。よって、以下が成り立つ。

 

ちなみに、hが小さい時のC(Q)のランクをCocalcで求めると以下の通り。

   h= 2, q=         73 ランク 2

   h= 3, q=      4033 ランク 2

   h= 4, q=     50401 ランク 2

   h= 5, q=    331201 ランク 2

   h= 6, q=   1499401 ランク 2

   h= 7, q=   5306113 ランク 3

   h= 8, q=  15748993 ランク 3

   h= 9, q=  40953601 ランク 2

   h=10, q=  96049801 ランク 4

   h=11, q= 207345601 ランク 3

   h=12, q= 418141153 ランク 3

   h=13, q= 796565953 ランク 2

   h=14, q=1445862601 ランク 3

   h=15, q=2517580801 ランク 4

 

【2】 nが平方でない正整数の場合

 これまでの考察から

   は、解 X=2n-1,Y=2 を有するので、

 a=Y/2, nb=(X+1)/2 に注意すれば、Xが奇数、Yが偶数となるような解を求めれば、

(1,nb)と(a,n) は同一の をあたえるので、ランク2以上の楕円曲線が得られることになる。X0=2n-1, Y0=2 はそのような解なので、Q(√n)のノルムが1となる単数c+d√n (c:奇数、d:偶数)について  より a,nbを求めれば、ランク2以上の楕円曲線が無数に得られる。

 なお、Q(√n)のノルム1の単数c+d√n についてnが正であればc,dが自然数となるものは必ず存在し、c,dともに偶数ということはなく、c:偶数,d奇数であれば  をとればよい。c:奇数、d:奇数の時はn=2のときは2乗、それ以外のときは4乗をとればよい。

 上で述べた条件1、2、3は排他的ではないが、今回は条件3の場合について具体例をみた。【1】、【2】で尽くされないランク2の楕円曲線も数多くあることに注意したい。例えばq<200以下でランク2以上となるのは以下のqである。

 31,51,73,79,90,119, 121, 130, 147, 166, 168, 179, 196 

 


メモ10 楕円曲線の有理数解の独立性

2019-08-25 14:19:11 | 数学

 メモ8と9で  q≠0,1の非負整数 

の位数∞の整数解について考えた。q=38089のときCoCalcでgens()により生成元を求めると、以下4つの整数解が得られる。

  P1=(-195,112)  

  P2=(-183,920)  

  P3=(-161,1404)  

  P4=(-91,1656) 

また、ねじれ元は 位数2の Q=(1,0) のみである。

 

 これらのP1,P2,P3,P4 及びQは、この楕円曲線の有理点群の生成を保証しているのだろうか?

 

これまでそう考えてきたが、CoCalcのマニュアルの gens の説明によると

 

Contrary to what the name of this method suggests, the points it returns do not always generate a subgroup of full rank in the Mordell-Weil group, nor are they necessarily linearly independent. Moreover, the number of points can be smaller or larger than what one could expect after calling rank()or rank_bounds(). 

(出典:http://doc.sagemath.org/html/en/reference/curves/sage/schemes/elliptic_curves/ell_number_field.html)

とあり、有理点群の生成どころか、フルランクの部分群の生成も保証していないし、得られたこれらの有理点の独立性も保証していない。

  では、与えられた有理点が独立かどうかはどう判断すればよいだろうか?

 Q上の楕円曲線の有理点の独立性について、WEB上の論文などをみると、次のようなことが書かれている。(例えば、Elliptic curves with high rank, MICHEL ARTHUR BIK, Technische Universiteit Delft, 2014)

・Q上の楕円曲線  の有理点P=(x,y) x=p/q  gcd(p,q)=1 について、 高さ関数 h:E(Q) → R を h(P)=log(max{|p|,|q|}) で定義するとき、 

   n → ∞ のとき  は収束する

 とし、 ペアリング <・,・>:E(Q)×E(Q) → R を

        

 と定義するとき、ペアリング <・,・> はE(Q)上で双一次形式である。

・P1,・・・・・,Pm ∈ E(Q)に対し、行列  が逆行列を持てば、P1,・・・・・,Pmは一次独立である。

 

 これをそのまま適用するのも大変そうなので、もっと簡単に有理点の独立性が確認できないか考えてみた。

 メモ5(楕円曲線のランクの計算例)にSilvermanとTateによる”Rational Points of Elliptic Curve”(1994年第2版。 以下、[Sil]と記述する。)に紹介されているランクの計算法を記した。そこで記したφ、ψ、αなどの性質を利用して、冒頭に紹介した楕円曲線の有理点が一次独立であること、したがってランクは4以上であることを以下に示したい。

命題1:CとC'を以下で与えられる整数係数の楕円曲線とする

   

    T=(a,0), T'=(-2a,0) とし、O, O'をC,C'の有理点群C(Q), C'(Q)の零元とするとき

       (a) 以下で定義される準同型 ψ:C’ → C があり、その核は{O’, T’}である。

       

 (b) (a)と同じプロセスをC’に施すと、ψ’:C’’ → C' があり、C''は(x,y)→(x/4,y/8)によりCと 同型である。したがって、以下で定義される準同型 φ:C → C’がある。

 

  

        また、  は2倍写像である。

【説明】:これはメモ5(楕円曲線のランクの計算例)で紹介した[Sil]のP79にある命題を3次式の定数が0でない場合に書き変えたものに過ぎない。つまりa=0とすればP79の命題が得られる。

C上の点のP=(x,y)に対し、

        

とおくと

     

である。ここで  とおくと

     

である。この式を本ブログの「4次楕円曲線」で紹介した方法でWeierstrass標準形に直すと

                         

に注意すると

       

となり、(X,Y)と(μ、ν)の関係は

                     

で与えられる。したがって、

       

これより

      

(y=-ABかもしれないが、その時は-yをyとすればよい) 

ここで X'=X+b とおくと

       

となる。また、X' と Y の関係は

      

である。したがって C' の有理点 (X', Y) から C の有理点 (x, y) への有理写像 

     

が定義される。あとは、これが準同型であることを示せばよいが、

     

であることに注意すれば ψ は

     

と分解される。

ここで 

                 

としたときの、「Sil]P79のψ、同じことであるがメモ5の命題1のψに相当する。

また、 

      

より、 が Cへの写像であることが分かる。また、 はy軸を平行移動させただけであるので準同型である。したがって、 の合成であるψも準同型である。これで(a)が示された。

(b)については、

  とおくとき

      

より (a)を楕円曲線C'と に適用して、以下に示す準同型ψ’’:C’’→C'が得られる。

   

C''上の点(x,y)について

    

より、(x,y)→(4x,8y) によりCはC''と同型である。よって、この写像をψ''と合成して

     

を得る。

  及び が2倍写像であることは、上記、φとψの組み立て方から[Sil]のP79の命題の結果を用いて得られる。                           【説明終】

 

命題2: Cと C'を以下で与えられる整数係数の楕円曲線とする。

        

また、C(Q),C’(Q)をそれぞれC,C'の有理点のなすアーベル群、ψを命題1に記したC'→Cの準同型とする。このとき、以下の完全系列が得られる。

     

ここで、αは以下で定義される準同型である。

    

【説明】: ψは準同型なのでψ(C'(Q))はC(Q)の部分群である。したがって、ψ(C'(Q))=ker(α) であることを言えばよい。

 命題1のψの式より ψ(C'(Q)) ⊂ ker(α) はよい。また、α(x,y) ∈ ker(α) であれば 

    

とかけるので、命題1の説明より α(x,y) ∈ ψ(C'(Q))  がわかる。        【説明終】        

 

命題3: Cを以下で与えられる整数係数の楕円曲線とする。

        

 C(Q)をCの有理点のなすアーベル群、αを命題2に記した準同型とする。また、C(Q)がねじれ元は位数2の元Tのみであるとする。このとき、

  位数∞のの有理点Pi, Pj ∈ C(Q) に対し、α(Pi)≠α(Pj)かつ1に等しくないならば、PiとPjは独立

【説明】: mPi+nPj=0とする。 かつ  なので

m,nともに偶数である。したがって、2(m/2*Pi+n/2*Pj)=0  よって、C(Q)の唯一の位数2の元をTとすれば、m/2*Pi+n/2*Pj=0 または T である。

 このとき、m/2*Pi+n/2*Pj=T とすると m/2またはn/2は奇数としてよい。双方ともに偶数とすると

 m/2*Pi+n/2*Pj=2(m/4*Pi+n/4*Pj)=T となり m/4*Pi+n/4*Pjは位数4の元となり矛盾。

したがって、m/2*Pi+n/2*Pj=0 となる。

 これより、m,nともに0でなければ、mPi+nPj=0 について最初から、m、nのどちらかは奇数としてよい。今、nを奇数とすると、

 m:偶数のとき、mPi+nPj=0 なので となり矛盾。

   m:奇数のとき  となり 矛盾。したがって、m=n=0である。                                       【説明終】

 

命題4:CとC'を命題2と同じ楕円曲線とする。また、C(Q),C’(Q)をそれぞれC,C'の有理点のなすアーベル群、ψを命題1に記したC'→Cの準同型とする。C(Q) のねじれ元は位数2の元T=(a,0)のみであるとする。GをC(Q)の部分群とするとき、以下が成り立つ。

(1) 

    特にG=C(Q)とすれば 

     したがって、 rはC(Q) のランク

(2) 

(3) 

(4) 

(5) 

【説明】

(1) ψ(C'(Q))⊃2C(Q) に注意すれば準同型定理を適用すればよい。

   G=C(Q)のとき C(Q)/2C(Q)は r+1 個のZ/2Zの直和になる。

(2) g,g' ∈ G∩ψ(C'(Q))について g≡g’ mod 2C(Q) であればg-g' ∈ 2C(Q)∩G

   また G∩ψ(C'(Q))+2C(Q)の元 h は G∩ψ(C'(Q))の元 g により h≡g mod 2C(Q)

    したがって、両者は同型

(3) (4)は(2)と同様

(5) (1),(2),(3),(4)よりすぐに得られる。                   【説明終】

 

 ここで冒頭の楕円曲線 C:  q=38089 に戻る。

命題1、2の記号に従えば、a=1, b=0, c=-q=-38089 である。また、C'は

      

で定義される楕円曲線である。

よって、 において α(P1)=α(-195,112)=-195-1=-196=-14*14=-1

             α(P2)=α(-183,920)=-184-1=-2*2**2*23=-2*23

             α(P3)=α(-161,1404)=-161-1=-2*9*9=-2

             α(P4)=α(-91,16569=-91-1= -2*2*23=-23

             α(T)=α(1,0)=(-38089)-1=-2*2*2*3*3*23*23=-2

これより、P1,P2,P3,P4は、命題3の仮定を満足することに注意する。

 

 C'の有理点をCoCalcにより求めると、4つの位数無限大の整数解

   R1=(0, 552), R2=(23, 1955), R3=(80, 3608), R4=(322, 9108)

と位数2のねじれ元 (-2,0) が得られる。

 命題1より、C'の有理点(x,y)が零元及び(-2,0)でなければ、a=1, c=-38089 に注意すれば

     

  R1,R2,R3,R4のψによる像と、その像のαによる像は以下のとおりであり、確かにψ(Ri)がαの核に含まれることがわかる。

   ψ(R1)=(19045,-2628072)                     α(ψ(R1))=19044=138の2乗

 ψ(R2)=(152981/100,-59326821/1000)  α(ψ(R2))=152881/100=(391/10)の2乗

 ψ(R3)=(485,-9768)                              α(ψ(R3))=464=22の2乗

 ψ(R4)=(64333/324,-2996785/5832)      α(ψ(R4))=64009/324=(253/18)の2乗

 

また、計算により

 ψ(R1)=-P1-P2-P3+P4

   ψ(R2)=2P2

   Ψ(R3)=-2P2-P3+T

   ψ(R4)=2P4

 

今、GをP1, P2, P3, P4で生成される群とする。P1, P2,P3,P4が線形独立であることを示すには、この群のrankが4であることをいえばよい。

まず について考える。 

  であるためには、k1、k2、k3とも偶数でなければならない。したがって、は8以上である。

次に について考える。

  ψ(R1)=-P1-P2-P3+P4, Ψ(R3)=-2P2-P3+T, ψ(R1-R3)=P1-P2+P4+T が 2C(Q) に含まれない (*)

とすれば、

TはGに含まれない。なぜなら、 とすると、

  

より、k1,k2,k4の偶奇が同一でk3とは偶奇が逆となる。

   k1,k2,k4が偶数、k3が奇数のときは、P3-T∈2C(Q) これは仮定(*)に矛盾

   k1,k2,k4が奇数、k3が偶数のときは、-P1-P2+P4+T∈2C(Q) これも仮定(*)に矛盾

は2以上、  は8以上なので

命題4(5)より、 は16より大きい。また、G+2C(Q)もTを含まない。仮に 

g=∈G, h∈2C(Q)についてg+2h=T とすると k1,k2,k4の偶奇が同一でk3とは偶奇が逆となる。

   k1,k2,k4が偶数、k3が奇数のときは、P3-T∈2C(Q) これは仮定(*)に矛盾

         k1,k2,k4が奇数、k3が偶数のときは、-P1-P2+P4+T∈2C(Q) これも仮定(*)に矛盾

よって、G+2C(Q)は自由アーベル群である。 は16より大きいのでG+2C(Q)のランクは4以上。Gのランクも4以上。

あとは、仮定(*)を示せばよい。

 

命題5: を有理数係数の楕円曲線とする。Cの有理点P= (x1,y1)について P=2RなるCの有理点R=(x,y)が存在するためには、

   が有理数解をもつことが必要十分である。

 

【説明】: 本プログのメモ4(楕円曲線の加法公式)より、2R のx1座標について

  

分母を払って、xの多項式として整理すると

              【説明終】

また、楕円曲線 C: q=38089 に戻る。

CoCalc により、計算すると

 ψ(R1)=-P1-P2-P3+P4=(19045,-2628072)

 Ψ(R3)=-2P2-P3+T=(485, -9768) 

 ψ(R1-R3)=P1-P2+P4+T=(29341/100,3746439/1000)

これらに命題5を適用すると、A=-1, B=-q, C=q に注意し

x1=19045, 485, 29341/100 について

  

が有理数解をもたないことがいえれば仮定(*)が成り立つ。CoCalcにより、これらの4次方程式は2次方程式の積に分解され、有理数解はないことがわかる。

 以上でこのメモは終了であるが、最後に記したことは、ψ(C'(Q))の元が2C(Q)に含まれないことと上の4次方程式が2次方程式の積に分解することが同値であることを意味するのかもしれない。

 


メモ9 (ある楕円曲線の整数解 その2)

2019-07-15 14:59:03 | 数学

メモ8で   q≠0,1の非負整数 

の位数∞の整数解について考えた。その時、整数解の数が少ないことと、2倍すると整数でなくなることが多いと感じていたが、一般的にはまったくそのようなことはなく、自然数nを与えた時、n以下の自然数kについて整数解のk倍がすべて整数解となる有理数体上の楕円曲線が存在する。考えてみればあたりまえのことであるが、忘れないようにメモしておく。

 

(命題) 自然数nを与えた時、n以下の自然数kについて整数解のk倍がすべて整数解となるQ上の楕円曲線が存在する。

 

(証明)楕円曲線  上の点 について、は、

楕円曲線  上の点である。

なぜなら、 の両辺にAの6乗をかけると

      

となることより明らかである。

 ここで  を楕円曲線  (a,b,cは整数)の整数点とし、n以下の自然数kについて、k*Pを求め、そのx座標の分母の最小公倍数について素因数分解したときの各素因子の指数が偶数のときは1/2、奇数のときは(指数+1)の1/2とした自然数をAとする。この時、k*Pのx座標にAの2乗をかけると、Aの作り方より、整数となる。y座標にAの3乗をかけた数も上に述べたことより整数となる。                                  (証明おわり)

 

 具体的な例についてみてみよう。

楕円曲線  を考える。

Cocalcで有理点を求めると 生成元が (-1,17)と(0,24)、ねじれ元が(-2,0) である。

P=(0,24) とすると

2P =(34 ,-228 ) 

3P=(5472/289,571560/4913) 

4P=(37009/12996,-56131883/1481544) 

5P=(2215366560/4739329,104563839488088/10317519233) 

6P=(-263062196894/163907571025,710981873309736396/66358799667326375) 

である。ここで5倍まで整数点とすることを考える。

 2Pのx座標の分母= 1

 3Pのx座標の分母= 

 4Pのx座標の分母= 

 5Pのx座標の分母=  

なので 

 A=

とする。この時楕円曲線の方程式は もとの方程式が  であることより 

   

であり、   とすると、

Q=(0, 1802386172748339589824)

2Q=(605206133214984,-17122668641109226103328)

3Q=(337033173310848, 8736785406880054413120) 

4Q=(50689971991729, -2845323577113009195707) 

5Q=(8320571202176640, 761101959228782272595136)

6Q=(-16202610927870599861496/567154225,  10867968464008588070428992637629792/13506777868375)

 

となり、Q, 2Q,3Q,4Q,5Q が整数点となる。

 ここではn=5としたが、nを任意の自然数として、n個以上の整数点を有する楕円曲線を同様に構成できる。