memory of caprice

浮世離れしたTOKYO女子の浮世の覚書。
気まぐれ更新。

うるわしき4月~テ―ト美術館所蔵「ラファエル前派展」

2014-04-03 06:47:24 | ART
朝日夕刊文化面2014年4月2日
高階秀爾先生の「ラファエル前派展」@森アーツセンターについての「美の季想」

ミレイの「オフィーリア」やロセッティの「受胎告知」といった有名作品を差し置いて(笑)
取り上げられているのはアーサー・ヒューズの「4月の恋」。

ヒューズはラファエル前派兄弟団のメンバーではないが、ロセッティなどその仲間たちとは極めて親しく、オックスフォード・ユニオンの壁画制作にも参加しているので、広い意味でラファエル前派の1人とみなされている。「愛」をテーマとした物語的内容と、緑、紫を主調とする清澄な色彩表現で、早くから多くの愛好家を得た。
 なかでも、蔦の生い茂る東屋風の小屋のなかで、おそらくごくささいなことから喧嘩をしてしまった恋人に背を向け、心を静めるかのように胸に手をあてて憂いに沈む若い娘の姿を描き出した「4月の恋」は、ヒューズの代表作として現在でも人気が高い。テート美術館で最もよく絵はがきが売れる作品のひとつだと、かつて館長からきいたことがある。発表当時ラスキンの絶賛を浴び、その頃まだオックスフォード大学の学生であったウィリアム・モリスが購入したという曰くつきの来歴を持つ。
 だがこの作品の高い人気を支えるものとして、「4月の恋」というどこか優艶な情緒を誘う題名が一役買っていることも見逃せないところであろう。
「4月」とか「春」と言えば、日本では賑やかな花見の季節であり、また入学式、新学期、年度の始まりなど、新しい生活への期待を孕んだ言葉である。だが、その一方で、春には「春怨」「春愁」などに見られるように、どこか哀感を伴う恋の思いを暗示する語感もまとわりついている。月形半平太の台詞ではないが、「春雨」といえば、いっそう艶な感じが強い。英語でも、音もなく静かに降る春の雨を「4月の雨」と呼ぶことがあるから、「4月」は内面のひそやかな感情と結びつきやすいのだろう。
 題名からの連想かどうかはわからないが、ラスキンもこの絵について、「若い娘の心は歓びと苦しみのあいだで激しくうち震え、その表情は4月の空のように不安定で何とも定めがたい」と述べている。

 ヒューズ自身、この題名がいたく気に入っていたらしい。この絵の制作中、友人の詩人ウィリアム・アリンガムがアトリエに訪ねてきたことがある。その時詩人は、恋人同士が互いに背を向け合っている図柄を見て、「隠れんんぼ」という題名にしたらどうかと提案した。その後しばらくしてから、ヒューズはアリンガムに宛てて、「君も憶えているだろうが、あの『隠れんぼ』の絵がようやく完成した。今では『4月の恋』というもっとうるわしい題名で、僕は大いに喜んでいる」と書き送った。多くのラファエル前派の画家たちと同じく、詩人の心の持ち主であったヒューズは、この一句に深い詩情を見出したのであろう。それとともに4月は「恋の月」となったのである。
 なお、この清楚な娘のモデルを務めたのは、ちょうど同じ頃結婚した愛妻トライフィーナであったという。








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