ビッグイシュー
自分の行動範囲では、新宿でよく見かける。
フリーペーパーを配っている人たちに混じって売っているからちょっと紛らわしい
でも、オジサンたちが頭上に高々と掲げて静かに売っているので、見ればすぐ判る。
1冊300円。
売っているのは、ホームレスの人たちだ。
これは彼らに収入を得る機会を提供し、自立を支援する目的で発行されている冊子だ。
1冊売るごとに、彼らには160円の収入が入る。
その1冊の収入で、今日食べるおにぎりの一つも買えるかもしれない。
そう思ったら買わずにはいられない。
彼らには、働く意思や気力があるのに、職に就けない。
年齢的なこと、職能的なこと、身体的なこと、家庭的なこと、いろいろな事情があって仕事に就けずに、その結果やむなく路上で生活することを余儀なくされている人々だ。
彼らだって、まさか自分が部屋を借りるお金も、その日に食べるものを手に入れるお金も、明日行くべき仕事も、いつこの状況から抜け出せるのかという明るい見込みも無いような人生の負のスパイラルに巻き込まれるなんて想像もしていなかったかも知れない。
こんなご時勢、いつ、誰が彼らと同じ立場に転がり落ちてしまうかなんて誰にもわからない。
夜行バスを使った旅行をし始めて、ドキッとしたことがある。
コンサートだ、紅葉狩りだ、花見だ、温泉だと地方都市に遊びに行って、地元の美味しいものを食べて、夜遅くまで散々遊び倒して戻ってきた電車の始発前の早朝の新宿駅構内。
ものすごい数のホームレスの人々がダンボールを敷いて寝ている。
昼間の新宿駅からは全く想像も出来ないような数・・・・
彼らは、始発に向けて駅構内のあちこちの通路のシャッターが開かれると同時に巡回の警備員さん達に叩き起こされて、あちこちへとトボトボと重い足取りで消えて行く。まるで始めから彼らがその場に居なかったような普段の新宿駅が戻って来る。
まだ朝の5時前。
こんなに早くから、終電の終わる深夜1時過ぎまで、彼らはいったいどこで、何をしているんだろう?
もし、自分が彼らの立場だったなら・・・
仕事はしたいのに仕事は無い。
次にいつ仕事にありつけるか全くわからない。
お腹はすいたけど、食べ物を買うお金が無い。
お風呂に入りたいけど、お風呂にも行けない。
暖かい部屋で柔らかい布団にくるまって寝たい、と思っても住める部屋もフカフカの布団も無い。
特に冬場なんて、身を切るような冷たい北風がやせ細った骨身に染みるだろう・・・・・。
自分だったら一晩だって我慢できないかもしれない
本当に辛いだろうな・・・と思う。
「誰かに助けてもらいたい」と願っているだろうな、とも思う。
そう思ったら、彼らを見かけたら買わずにはいられない。
「たったの160円しか彼らの手元には入らない」、と思う人も居るかもしれない。
「そんな小さなことしても・・・」と思う人が居るかもしれない。
でもそんなちっぽけなことでも、自分のできる範囲で実行して積み重ねていくほうが、彼らの事を見えているのに見えないふりして目を逸らして通り過ぎるより100倍マシなのだ