2021年11月定期以来二度目の登場となるピアニストのピョートル・アンデルシェフスキ迎えた2024/25年シーズン開幕公演である。スターターは指揮者無しでグノーの小交響曲変ロ長調だ。名前は「交響曲」だが、木管7本のアンサンブルの滅多に演奏されない曲である。私も生で接するのは多分生涯二度目だと記憶するが、今回は紀尾井の名手達の卓越した表現力がグノーの魅力を十全に引き出した。フルート相澤政宏、オーボエ神農広樹・森枝繭子、ファゴット福士マリ子・水谷上総、クラリネット有馬理絵・亀井良信という顔ぶれ。続いてアンデルシェフスキの弾き振りでモーツアルトのピアノ協奏曲第23番イ長調K.488。のっけから水際だった玉井菜採率いる弦の美しさに心を奪われたが、どうしてか肝心のピアノの方は余り印象に残らず。もちろん均整がとれた心地よく美しい響きなのだが、前回の来日時のようなアゴーギクは影を潜めていた。ここまでが前半で後半はルストワフスキの「弦楽のための序曲」で始まった。全体にバルトークを感じさせる雰囲気の漂う音楽だが、ピチカートも多いこんな曲を指揮者無しで演るのは無謀じゃないかというのが正直な感想だ。さすが鉄壁のアンサンブルを誇る紀尾井なので、目立った乱れこそ聞き取れなかったが、表現に物足りなさを残した。最後はベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15。これは実に面白く聞いた。アンデルシェフスキーのアグレッシーヴな音楽の魅力がピアノにも指揮にも表れた最高に楽しい時間だった。とりわけ「ラルゴ」での弱音表現の掛け合いの素晴らしさには息を飲んだが、一方で両端楽章で聞かせたオケのシャープな音も印象的だった。聴衆に背を向けてオケを煽りながら弾き振りする姿を観つつ、ベートーヴェンもこんな風に演奏していたんじゃないかと「妄想」を巡らせた。大拍手にアンコールはハイドンのピアノ協奏曲第11番ニ長調からの緩徐楽章。ここでも特上のピアニッシモが静謐な音楽空間を作り出していた。
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