共にフィンランド出身の指揮者サカリ・オラモとソプラノのアヌ・コムシを迎えたお国物を中心としたコンサートである。エイノユハニ・ラウタヴァーラの「カントウス・アルクティクス」(鳥とオーケストラのための協奏曲)作品61である。自ら収録したフィンランド中部の湿地帯に生息する鳥たちの鳴き声をソリストとするユニークな「協奏曲」だ。2chで収録された鳥の声のテープ音がホール天井から舞台に降り注ぐ中、オケがそれに呼応する3つの楽章から成る佳作だ。幾種類かの鳥の声とオケが北国の自然風景を描き、最後はフィンランドの国鳥オオハクチョウの群れが春を告げる。まことにシーズン幕開けに相応しいスターターではないか。続いてはカイヤ・サーリアホの「サーリコスキ歌曲集」(管弦楽版)の日本初演だ。ペンッティ・サーリコスキの詩集から採られた人生と自然についての詩をコムシが独特の歌声で歌い上げたが、それは声を超越してオーケストラと同化し大きな感動を誘った。休憩を挟んでシベリウスのソプラノ独唱付きの交響詩「ルオンノタル」作品70だ。ルオンノタルは「カレヴァラ」に登場する大気の精で、空虚のはざまで激しい風や波と交わり受胎の末に水の乙女となり700年もの歳月孤独に海を漂流する話が題材である。詩は禁欲生活の中で絶望した作曲者が共感した自然も超越した峻厳な内的世界を描くが、ここでもコムシは他の誰にも達し得ないような共感でその世界を浮き彫りにした。いったい彼女以上に説得力を持ってこの曲を歌える歌手はいるのだろうかと思わせるほどの絶唱に会場は大いに沸いた。シベリウスはこの作品を「間違いなく私の最良の作品の一つだった」と語ったそうだが、この演奏はその言葉を裏付けるものだった。そして最後に置かれたのはアントン・ドヴォルザークの交響曲第8番ト長調作品88である。ここまでは峻厳な自然を描く趣の曲を連ねておいて、ここで郷愁を誘うドヴォルザークを締めに置いた意味はどうしても不明であるが、演奏自体は、所謂ボヘミアの哀愁のようなものとはハッキリと訣別した、極めて闊達明快な秀でたものだった。オラモの強力な統率力の下でオケもその機能を十二分に発揮し、胸の空くような輝かしく爽快な演奏を展開した。それでもやはり連続性の謎は聞きながらも脳裏を行き来していたのだが、「ドヴォ8冒頭のフルート・ソロとラウタヴァーラとの鳥繋がり」というのが今の所辿り着いた唯一の答えである。
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