ウェーバー作曲の歌劇序曲と言えば、「魔弾の射手」だって「オベロン」だって、勿論今晩の一曲目の「オイリアンテ」だって、ドイツ臭に満ちていて、分厚く重厚でロマンティックでドイツ音楽好きには堪らないナンバーであると思うのがクラシック音楽界の”一般常識”ではないだろうか。しかしトレヴァー・ピノックの手にかかると、それがクリアーで風通しの良いメチャメチャ明るい音楽に変身するから不思議である。勿論キリリと仕上がるためには紀尾井の精緻なアンサンブルの力量が大きく貢献していよう。とにかく明快極まりないウェーバーで、ここまでやってくれれば文句の言いようがない。二曲目はラトヴィア生まれの新鋭クリスティーネ・バラナスを迎えてドヴォルジャークのバイオリン協奏曲イ短調作品53。ピノックもバラナスもとりわけボヘミヤ風を意識することなしに純音楽的に捉えた演奏。ここで聞く限りバラナスのバイオリンは技は十分で美音ではあるが、取り立てた個性を感じることはなかった。しかしアンコールのBachの無伴奏第3番のAllegro assaiに至ってその繊細にして滑らかな運弓から夢のような音楽が溢れ出して、これには聞き惚れた。休憩を挟んでシューマンの交響曲第1番変ロ短調「春」作品38。これも推進力に満ちたピノック流の明快にして闊達な演奏。彼も今年で78歳になるというが、老いの影は舞台に登場する姿にも音楽にも皆無である。
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