快進撃を続けるコンビ10年目に突入した常任指揮者高関健と東京シティ・フィル。2024/25年のシーズンは、華々しくR.シュトラウスの楽劇「ばらの騎士」より第一幕および第二幕より序奏とワルツ集で幕を開けた。これは作曲者自身が編曲したヴァージョンだそう。原曲を超えた想像力豊かな展開も聞き取れる興味深いピースではあったが、やはり日頃聞き慣れているロジンスキー編曲の「組曲」の方が本編のオペラを素直に感じることができて聞き心地はそちらの方がよろしい。二曲目は南紫音を迎えて大変珍しいシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番作品35。これは高音が続く超絶技巧の単一楽章の協奏曲風幻想曲といった趣だ。怪しげというか、耽美的というか、独特な音色と色彩感を持ったガラス細工のようなソロのフレーズを南は見事に弾き切った。大オーケストラを巧みにコントロールして繊細極まるソロを見事に浮き立たせた高関の手腕も見事の一語に尽きた。長く続く大きな拍手にアンコールは無かったが、この曲の後に弾くべき曲なんて見つかりそうもない。最後は定期では2017年以来7年ぶりになるベートーヴェンの交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」だ。数多の名演が音盤に記録されているこの曲であるが、この日の高関は珍しく快速、そして基本ノンビブラートで勝負に出た。更には裏の旋律を引き出して立体感を添える造作。しかし音自体はピリオド流の尖ったところはなく重めでズッシリと響くのだ。そうした独特のスタイルが全体的な感銘を生んだかというと、個人的には微妙だったと言わざるを得ない。確かに常套的な表現が洗い流されていて面白かったが、その先に心に響くものが希薄なのだ。会場は大層沸いていたので気に入った聴衆も多かったようだが、私個人としては、やはり広々とした「大交響曲」を聞いて勇気を貰いたかった。10年目を迎えて機能的に目を見張るように成長を続けるシティ・フィルだが、ある意味ではこんな実験的な演奏も事も無げに出来る「実力」を見せつけたとも言えるかもしれない。
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