「誰(だれ)か、お客(きゃく)さんにコーヒーを出してくれないか?」
課長(かちょう)が女子社員(しゃいん)たちに声をかけた。すかさず返事(へんじ)をしたのは、一番若(わか)い百花(ももか)だった。
「大事(だいじ)な得意先(とくいさき)だから、一番上等(じょうとう)なやつで頼(たの)むよ」
そう言うと、課長は書類(しょるい)を抱(かか)えて応接室(おうせつしつ)へ急(いそ)いだ。
課長を見送りながら百花が答える。「はい、よろこんで!」
その様子(ようす)を見ていた他(ほか)の女子社員たち、仕事(しごと)の手を止めて、
「ねえ、あの娘(こ)、変だよね。何であんな返事をするわけ?」
「みんなで居酒屋(いざかや)に行ったじゃない。その時、妙(みょう)に気に入っちゃってたからねぇ」
「でも、大丈夫(だいじょうぶ)なの。あの娘(こ)に任(まか)せちゃって」
「私、コーヒーの淹(い)れ方なら教えておきましたけど…」
「あたし見ちゃったわよ。あの子、湯呑(ゆの)みにお茶(ちゃ)の葉(は)入れてるとこ」
「ほんとに? あり得(え)ないでしょ。もう、今の娘(こ)はどうなってるの」
「あたしさ、驚(おどろ)いちゃって。お茶の葉は急須(きゅうす)に入れないとダメだよって注意(ちゅうい)したけど」
「ねえ、本当(ほんと)に大丈夫かな? なんか、嫌(いや)な予感(よかん)しかしないんだけど」
「いくら何でも、子供(こども)じゃないんだから……」
みんなは顔を見合わせると、一斉(いっせい)に立ち上がり給湯室(きゅうとうしつ)へ駆(か)け出した。
<つぶやき>若い時には失敗(しっぱい)をしてもいいんです。そこから、学べることがきっとある。
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