氷川冷子(ひかわれいこ)。我(わ)が社(しゃ)にとって、もっとも優秀(ゆうしゅう)で有能(ゆうのう)な社員(しゃいん)のひとりだ。だが、それ以上(いじょう)に彼女の美しすぎる顔立(かおだ)ちと姿(すがた)は、何人もの男性社員をとりこにした。彼女を射止(いと)めようと、無謀(むぼう)にも挑戦(ちょうせん)し散(ち)っていった熱(あつ)い男たちは数知(かずし)れず。
彼女の氷(こおり)のような眼差(まなざ)しは、胸(むね)に突(つ)き刺(さ)さるほどの激痛(げきつう)をあたえ。また、彼女の手に触(ふ)れるだけで、身体中に悪寒(おかん)が走り入院する騒(さわ)ぎにもなった。我が社では憂慮(ゆうりよ)し、特別対策(とくべつたいさく)チームを結成(けっせい)した。彼女に近づこうとする熱い男を排除(はいじよ)し、減少(げんしょう)しつつある男性社員を保護(ほご)しようというのだ。そのチームのリーダーには、女性にまったく興味(きょうみ)を示(しめ)さない温水(ぬくみず)があたることになった。温水は、我が社にとって何の利益(りえき)も生み出さない男だった。だが、その温厚(おんこう)な人柄(ひとがら)で不思議(ふしぎ)と窓際(まどぎわ)で踏(ふ)みとどまっていた。
数日後、冷子に近づこうとする男性社員は激減(げきげん)した。これで、彼女も仕事に専念(せんねん)することができて、我が社の業績(ぎょうせき)も向上(こうじょう)するはずだった。だが、ここにきて異変(いへん)が起こった。彼女の仕事に対する熱意(ねつい)が、別の方向(ほうこう)へと向いてしまったのだ。
彼女の眼差しには氷のような冷たさはなくなり、頬(ほお)はわずかに紅潮(こうちよう)して表情(ひょうじょう)も穏(おだ)やかになった。そして、彼女の見つめる先には、いつも温水がいた。彼女がなぜこの男を選(えら)んだのか、それは未(いま)だに謎(なぞ)である。今後、この男の評価(ひょうか)を再検討(さいけんとう)する必要(ひつよう)にせまられている。
<つぶやき>いつもクールな彼女にとって、彼は特別(とくべつ)な人に見えたのかもしれませんね。
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