僕(ぼく)が家に帰ると、妻(つま)は上機嫌(じょうきげん)で僕を迎(むか)え入れた。いつもなら、そっけないくらいなのに、今夜はどうも様子(ようす)がおかしい。何かあったのか…。僕は訊(き)いてみた。
「何もないわよ」妻はあっさりそう言うと、「早く着替(きが)えてきて。夕食(ゆうしょく)、できてるから」
明らかにいつもと違(ちが)う。妻はウキウキと鼻歌(はなうた)まで飛び出していた。今日は、何かの記念日(きねんび)か――。いや、そんなはずはない。僕は、手帳(てちょう)を取り出して確認(かくにん)してみた。
食卓に着くと、テーブルには奇麗(きれい)な花が飾(かざ)られていた。それに、夕食はいつもより豪華(ごうか)で――。これは、一体(いったい)どういうことだ? 僕はあれこれと考えてみた。宝(たから)くじを当てたのか? でも、彼女が宝くじを買ってるなんてことあるのかな? それとも、まさか、子供(こども)――。それは、あり得(え)るな。もしそうだとしたら……。僕は、どうしても確(たし)かめたかった。
「だから、何もないってば」妻はニコニコしながら答(こた)えた。
「まさか…、子供ができたとか?」こういうことは、男には自覚(じかく)がもてない。
「いないわよ」妻はお腹(なか)をさすりながら言った。「子供、欲(ほ)しくなったの?」
「いや、そう言うわけじゃ…。でも、何かあったんだろ? だって…」
「どう? 今夜の料理(りょうり)は上手(うま)くできたと思うんだけど…」妻は嬉(うれ)しそうに言った。
確かに今日の夕食は美味(おい)しいよ。でも、僕が訊きたいのはそういうことじゃなくて…。
<つぶやき>何か良いことでもあったんでしょうか。知りたくなる気持ちも分かります。
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