みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0167「でれでれ」

2018-02-24 19:16:56 | ブログ短編

「いいか、みんな気をつけてくれよ。くれぐれも機嫌(きげん)をそこねるようなことはするな」
 社長(しゃちょう)の家の前で、係長(かかりちょう)が部下(ぶか)たちに注意(ちゅうい)した。部下たちも社長の厳(きび)しさを知っているので、顔をこわばらせた。ここを乗り越(こ)えなければ、今度のプロジェクトの成功(せいこう)はおぼつかない。下手(へた)をすると、中止(ちゅうし)にされてしまうかもしれない。
 社長の待つ部屋に入ると、みんなを睨(にら)みつけるように社長が座(すわ)っていた。
「座りたまえ」社長の低音(ていおん)の声が響(ひび)く。「すまんな。こんなところまで」
「いえ、とんでもありません」係長はうわずった声で言った。「そ、それでですね。今回のプロジェクトの詳細(しょうさい)について、ご説明(せつめい)させて――」
 その時、部屋の襖(ふすま)が開き小さな子供が飛び込んで来た。そして、みんなの間を通り抜(ぬ)け、社長の膝(ひざ)へ飛び乗った。社長はみるみる顔をほころばせ、その子の頭をなでながら言った。
「どうちたのぉ? いま、大事(だいじ)なおはなちをしてるからねぇ。向こうで、待ってなちゃい」
 それを見た部下のひとりがつぶやいた。「いやだーぁ、赤ちゃん言葉使ってるぅ」
 まだ新人(しんじん)の女子社員が言ってしまったのだ。みんなに動揺(どうよう)が走った。でも、もう遅(おそ)い。間違いなく社長にも聞こえたはず。子供が出て行くと、社長はおもむろに言った。
「娘(むすめ)がね、どっかへ出かけると言って、孫(まご)を預(あず)けに来てね。まったく、困(こま)ったもんだ」
 社長の顔は、いつものいかめしい顔に戻っていた。
<つぶやき>この場合、見ない、聞かないふりをしておいた方がいいのかもしれません。
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コメント
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