「わぁ、その帽子(ぼうし)、素敵(すてき)じゃない。あなたにとっても似合(にあ)ってるわ」
「そお? ありがとう。そんなに良いかなぁ」
友だちにほめられるのは、ちょっと嬉(うれ)しいよね。でも、その友だちは――。
「ちょっと、あたしにもかぶらせて。ねえ、いいでしょ?」
私は言われるままに彼女に帽子を渡(わた)してしまった。彼女はまるでモデルにでもなったようにポーズをとりながら、「どお? 似合ってるかしら?」
「ええ、とっても。すごく良いと思うわ」
「ありがとう! じゃあ…、これ、あたしに貸(か)してくれない? ねえ、いいでしょ」
「ええ…。でも、それ買ったばかりだし…」
「いいじゃない、あたしたち友だちでしょ。ねえ、おねがい!」
彼女は懇願(こんがん)するよに私を見つめた。そして私が迷(まよ)っていると見ると、すり寄(よ)ってきて、
「じゃあ、今日はあなたが使っていいわ。明日は、あたしね。その帽子に似合うお洋服(ようふく)を着てくるから、楽しみにしてて」
こんなことまで言われたら、ますます断(ことわ)れなくなってしまった。彼女は帽子を私に返すと、私の方を見てニッコリ笑ってさらに続けた。
「昨日、一緒(いっしょ)にいたのってあなたの彼氏(かれし)よね。とっても素敵な人じゃない。あたし――」
「ダメよ、ぜったいダメだからね! 私の大切(たいせつ)な人なんだから」
<つぶやき>友達だから何でも貸(か)し借(か)りできる、ってわけじゃないよね。こればかりは…。
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