「ねえ、亜利沙(ありさ)って、何か癒(い)やされるものってあるの?」
京子(きょうこ)の質問(しつもん)に、ぽっちゃり系の良江(よしえ)が横から割(わ)り込んできて、「あたしは、甘(あま)い物を食べてるときかな。もう、イヤなこと全部忘(わす)れて、幸せな気持ちになれるの」
「はいはい、それはみんな知ってるよ」京子は頷(うなず)きながら言った。
ちょっと謎(なぞ)めいた雰囲気(ふんいき)がある亜利沙は、おどおどしながら答えた。
「わたしは、そういうのは…、別に…」
「何かあるでしょ? 亜利沙って、美人(びじん)だし、きっとモテるんでしょうね」
「そ、そんなことないよ。わたしなんか…。あの、ちょっと違(ちが)うかもしれないけど…、わたしの好きなものはね。でも…、これ言うと、みんな笑(わら)うわ。だから…」
「笑わないよ、約束(やくそく)する。あたしたち、友だちじゃない。ねえ、教えてよ」
「じつはね、わたしの好きなものはね……、にのうで…、なの」
二人はきょとんとして亜利沙の顔を見つめた。亜利沙は自分の二の腕(うで)を見せて興奮(こうふん)したように、「ここの、ぷにゅぷにゅ感(かん)がたまらないの。これは猫(ねこ)の肉球(にくきゅう)にも勝(まさ)るとも劣(おと)らないわ。だから良江の二の腕を見たとき、わたし、震(ふる)えたの。触(さわ)りたくてうずうずして…」
良江は戸惑(とまど)いながらも言った。「あ、あたしのでよかったら、いつでも…」
「ありがとう。夏の間ね、わたし、ずっと我慢(がまん)してきたの。だって回りには二の腕だらけじゃない。もう毎日が拷問(ごうもん)って感じで…。だからわたし、なるべく出かけないように――」
<つぶやき>やっと願(ねが)いがなかったみたいで良かったです。嗜好(しこう)は人それぞれなんですね。
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