夜が開けようとしていた。川相初音(かわいはつね)と水木涼(みずきりょう)は公園(こうえん)のベンチに座(すわ)っていた。疲(つか)れからか、二人は黙(だま)ったままぼーっと日が昇(のぼ)るのを見つめていた。
初音がぽつりと言った。「ねぇ、大丈夫(だいじょうぶ)?」
「あぁ、ぜんぜん、平気(へいき)よ。そっちは? 何か、知り合いなの? あの――」
「琴音(ことね)のこと? ちょっとね、昔(むかし)からの因縁(いんねん)っていうか……」
「別にいいよ。話したくなかったら…。あっ、顔…。怪我(けが)してるじゃない」
初音は今ごろ気づいたのか、頬(ほお)に手をやり、「ほんとだ。でも、これくらい…」
「ダメよ。手当(てあ)てしないと、傷跡(きずあと)が残(のこ)ったらどうするのよ」
「ねぇ、その竹刀(しない)。どこから持ってきたの?」
「ああ、これ? これは、落(お)ちてたのよ。あそこに…。これさえあれば、私だって…」
「助(たす)かったわ。ほんとに助かった。ありがとね」
「ふん、なに言ってんのよ。そんなこと…。それより、お腹(なか)すかない? 何か食べないと」
「もう、やめてよ。こっちまでお腹(なか)すいてきたじゃない」
二人は見つめ合い、どちらからともなく笑(わら)い出した。初音は立ち上がって言った。
「さあ、行きましょ。あなたのご両親(りょうしん)が待ってるわ」
「あっ! 忘(わす)れてた。ねぇ、ほんとに無事(ぶじ)なんでしょうね? 早く行こ、ね」
<つぶやき>公園に竹刀が落ちてるわけないでしょ。きっとこれは、彼女の仕業(しわざ)かもね。
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