彼は始めて彼女の部屋(へや)を訪(たず)ねることになった。身(み)だしなみを整(ととの)えて、チャイムを鳴(な)らす。扉(とびら)が開いて、彼女が顔を出した。彼を見た彼女は言った。「どなたですか?」
こんなことを言われるなんて、思ってもいなかった彼は戸惑(とまど)った。それを見て彼女は、
「ああ、もしかして、さよりと付き合ってる彼(ひと)? そうなんだぁ。どうぞ、入って」
彼女に促(うなが)されて部屋の中へ入った彼。何だかよそよそしい彼女を見つめて言った。
「さより…だよね? 何だか、いつもと違(ちが)うような…」
「さよりよ。でも、私、もう一人のさよりなの。よろしくね」
「もう一人って…。えっ、双子(ふたご)ってこと? すごく似(に)てるんだね。驚(おどろ)いたよ」
「まぁ、ちょっと違うけど…。身体(からだ)は同じなのよ。この中に二人の人格(じんかく)がいるわけ」
彼は、彼女の言っていることが理解(りかい)できないようだ。彼女は構(かま)わず続(つづ)けた。
「いまね、あなたのさよりは出てきてないのよ。どうする? 私でよければ…」
「えっ? …ごめん。どういうことか、よく――」
「あっ、心配(しんぱい)しなくてもいいのよ。私、誰(だれ)とも付き合ってないから。それに、もう一人のさよりには黙(だま)っててあげる。いいでしょ? 同じ身体なんだし、何の問題(もんだい)もないはずよ」
「いや、それは…。やっぱり、問題があるんじゃ…」
「いいじゃない。私とも付き合えば、ずーっとさよりと付き合えるのよ。最高(さいこう)じゃない」
<つぶやき>う~ん、これはどうしたものでしょう? 何だか混乱(こんらん)してしまいそうです。
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