みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1016「彼の口癖」

2021-01-17 17:52:25 | ブログ短編

〈嫌(きら)いじゃない〉っていうのが、彼の口癖(くちぐせ)だ。たぶんテレビに出てた人が言っていて、それを格好(かっこ)いいと思ったんだろうけど、ことあるごとに連発(れんぱつ)してくる。
 例(たと)えば、何かを初(はじ)めて食べたとき。〈これ、嫌いじゃないなぁ〉
 買い物のとき、彼に「これ、どうかな?」って訊(き)いたとき。〈まぁ、嫌いじゃないけど…〉
 それは、どっちなんだい? あたしは訊き返したくなるのをグッとこらえた。こっちは真剣(しんけん)に訊いてるのに、気に入ったのか、気に入らないのか、はっきりしてよ。
 あたしは唐突(とうとつ)に訊いてみた。「あたしのことは? どう思ってるの?」
 彼は迷(まよ)うことなく言ってのける。〈もちろん、嫌いじゃないよ〉
 これって、何なのよ。そういえば…、彼から好きだって言われたことあったかしら? そもそも、何で彼とつき合い始めたのか…。あたしは、彼の顔をまじまじと見つめた。
 彼は、そんなあたしを見て訊いてくる。「なに? どうしたんだよ」
 あたしは思わず呟(つぶや)いた。「あたしたちって、恋人同士(こいびとどうし)なのかなぁ?」
 彼は一瞬(いっしゅん)かたまった。あたしは真顔(まがお)で訊いてみた。「あたし、あなたから付き合おうって言われたことないよね。好きだって告白(こくはく)されたことも……」
「なに言ってんだよ。あるだろ。忘(わす)れちゃったのか? 初めてデートに誘(さそ)ったとき…」
「ああ…、そんなこと…あったようなぁ? もう、記憶(きおく)の彼方(かなた)に行っちゃってるわよ」
<つぶやき>自分の気持ちはちゃんと伝え続けないといけません。見つめるだけでは…。
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