川相初音(かわいはつね)と水木涼(みずきりょう)は公園(こうえん)を出ると、住宅街(じゅうたくがい)を抜(ぬ)けて駅前(えきまえ)の方へ向かった。まだ早い時間なので、外を歩いている人は少なかった。初音は歩きながら、辺(あた)りをキョロキョロと見回(みまわ)していた。涼は、そんな彼女を見て言った。
「ねぇ、さっきから何してるのよ。まさか、道に迷(まよ)ったんじゃ――」
「違(ちが)うわよ。目印(めじるし)を探(さが)してるの。きっとどこかに…」
初音が急(きゅう)に立ち止まった。ビルとビルの間(あいだ)の細(ほそ)い隙間(すきま)、その中に――。初音は、人の目がないことを確認(かくにん)すると、涼の腕(うで)をつかんでその隙間へ飛(と)び込んだ。涼はビルの壁(かべ)にぶつかりそうになるのを必死(ひっし)に回避(かいひ)した。初音が立ち止まると、涼は、
「もう、危(あぶ)ないでしょ。壁にぶつかるところだったじゃない」
初音は下に置(お)かれていたピンクウサギの縫(ぬ)いぐるみを拾(ひろ)い上げると呟(つぶや)いた。
「もう、センスなさすぎ…。そう思わない?」
涼はわけが分からないまま、相(あい)づちを打った。初音は、また涼の腕をつかんでビルの壁に向かって突(つ)き進(すす)んだ。涼は、思わず目を閉じた。
涼が目を開けると、そこは真っ白な壁の通路(つうろ)になっていた。それがどこまでも続いていて、突き当(あ)たりがまったく見えない。涼が呆然(ぼうぜん)としていると、初音が言った。
「ようこそ。ここがあたしたちの秘密(ひみつ)の場所(ばしょ)よ。さぁ、行きましょ」
<つぶやき>いつの間にこんなものを…。きっと、いろんな人がサポートしているのかも?
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