みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1014「若返る」

2021-01-13 17:53:38 | ブログ短編

「やっと完成(かんせい)したのね。あなたは世界一(せかいいち)の科学者(かがくしゃ)よ。これで、あたし、若返(わかがえ)ることが…」
 女は老(ろう)科学者に抱(だ)きつくと接吻(せっぷん)した。老科学者は女を振り解(ほど)くと、机(つくえ)の上のビーカーを示(しめ)して、「これを飲(の)み干(ほ)すんじゃ。そうすれば…。ハハハハ…」
 大きなビーカーに入っていたのは、どろっと白濁(はくだく)した液体(えきたい)。女はそれを見つめながら、
「こんなに…。これを飲むと…、どうなるの? あたし、どこまで若くなれるの?」
 老科学者はおもむろに口を開いた。「これを飲むと、身体(からだ)の変態(へんたい)が始まるんじゃ。身体が縮(ちぢ)まっていき、これくらいの球体(きゅうたい)になる。それを、海水(かいすい)の入った水槽(すいそう)へ移(うつ)すと――」
「ちょ、ちょっと待(ま)って。それって…、人間(にんげん)じゃなくなるってことなの?」
「まだ説明(せつめい)は終(お)わっとらん。最後(さいご)まで聞くんじゃ。その球体が底(そこ)に定着(ていちゃく)すると、成長(せいちょう)が始まるんじゃ。まず、上に伸(の)びていき、いくつもの亀裂(きれつ)が横(よこ)に入っていく。そして、上の部分(ぶぶん)から触手(しょくしゅ)が出てくると、1枚ずつはがれるように海中(かいちゅう)をただよい始める」
「なにそれ? それって、完全(かんぜん)に人間じゃないわよね。あたしは、どうなっちゃうの?」
「何を言っとるんじゃ。これが、若返りのサイクルじゃ。若返りたいんじゃろ?」
「そうだけど…。人間の…このままの姿(すがた)じゃなきゃダメでしょ。それが、人間になるの?」
「バカなことを…。これは、クラゲじゃ。きっと、可愛(かわい)いクラゲに変態できるはずじゃ」
<つぶやき>これは無理(むり)。こんなの絶対(ぜったい)にイヤだからね。クラゲは嫌(きら)いじゃないけど…。
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