彼女は運命(うんめい)というものを信じていた。きっといつか運命の人と出会(であ)うことができると。だが、いつまで待っても、素敵(すてき)な彼は現れなかった。そこで彼女は考(かんが)えた。きっと場所(ばしょ)がいけないのよ。こんな人の少ない田舎(いなか)じゃ、出会える人の数は限(かぎ)られている。
そこで彼女は、人通りの多い都会(とかい)の場所で待つことにした。ここなら、何百人、いや何千人と歩いている。ここで待っていれば、絶対(ぜったい)に出会うことができるはずだ。――だが、いくら待っても何も起きない。彼女は、また考えた。そうか、隣(となり)にこいつがいるからだ。
「ねぇ、あんた。もう少し離(はな)れた場所に座(すわ)りなさいよ」
「えっ、何だよ。姉(ねえ)ちゃんが、一人じゃ行けないって言うから、一緒(いっしょ)に来たんじゃないか」
弟はブツブツ言いながら離れた場所に座り直した。すると、たちまち変化(へんか)が起きた。次々(つぎつぎ)と弟に話しかけてくる女の子が現れたのだ。弟は当(あ)たり障(さわ)りのない会話(かいわ)で、彼女たちをさばいていく。彼女は思った。こいつ、こんなにモテていたの? 知らなかったわ。あたしを差(さ)し置(お)いて、何してくれてんのよ。彼女は立ち上がると、女の子たちを押(お)しのけて弟の腕(うで)をつかんで言った。
「遅(おく)れてごめん。さぁ、行きましょ。ぐずぐずしないで、行くわよ」
彼女は微笑(ほほえ)んでいたが、目は弟を睨(にら)みつけているようだ。弟は、姉の行動(こうどう)に逆(さか)らうこともなく、調子(ちょうし)を合わせていた。彼女は真っすぐ前を向いて歩いて行く。
<つぶやき>ちょっとやり方がまずくないですか? まずは落ち着いて、考えてみましょ。
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