神崎(かんざき)つくねは目を見張(みは)った。彼女の前には、どこまでも続く白くて長い通路(つうろ)が延(の)びていた。照明(しょうめい)がないのに、壁(かべ)や天井(てんじょう)からまるで木漏(こも)れ日のような光りが射(さ)し込んでいる。
つくねは、月島(つきしま)しずくの後(あと)をついて行った。しばらく行くと、突然(とつぜん)、扉(とびら)が現れた。それを開けると、そこは部屋(へや)になっている。白いソファーとテーブルがあるだけで、他には何もなかった。しずくは、「何か飲(の)み物を持ってくるね」と言って別の扉から出て行った。
つくねは、その部屋を調(しら)べてみたが、すぐに何もないことが分かった。
「ここが隠(かく)れ家(が)ってこと? 他(ほか)にも部屋があるのかしら…」
つくねが出て行った扉を見ると、そこにあった扉は消(き)えていた。つくねは不安(ふあん)になった。「もしかして、罠(わな)にかかったのは私の方なの?」
つくねは入ってきた扉を開けた。そこには、さっき歩いて来た通路があった。つくねは通路に出ると、他に扉がないか探(さが)し始めた。もう出口(でぐち)がどこにあるのか分からない。つくねは、いくつも扉を見つけて中を覗(のぞ)いて見たが、どれも最初(さいしょ)に入った部屋とまったく同じだった。同じ場所(ばしょ)をぐるぐると回っているんじゃないかと彼女は思った。
つくねは、通路を駆(か)け回った。突然、眩(まぶ)しい光が目に飛(と)び込んできた。彼女は思わず目を閉じた。次の瞬間(しゅんかん)、彼女は何かにぶつかって倒(たお)れ込んだ。彼女の目の前には、ビルの壁がそびえ立っている。いつの間(ま)にか、元(もと)の世界(せかい)に戻(もど)っていたのだ。
<つぶやき>つくねの正体(しょうたい)を見抜(みぬ)いていたんですね。それにしても、こいつは何者(なにもの)なの?
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彼は、職場(しょくば)でときどき叫(さけ)び声を上げる。周(まわ)りの人は慣(な)れているのか、いつも通りに仕事(しごと)をこなしているけど、あたしは…。転職(てんしょく)してきたばかりなので、そのたびにビクッとしてしまう。
あたしは、まだその彼とは話しをしたことはない。隣(となり)の席(せき)の人に訊(き)いてみると、何かとっても面倒(めんど)くさい仕事をしているそうだ。きっと、細(こま)かな仕事で神経(しんけい)をすり減(へ)らしているんだわ。だから、大きな声を出してしまうのね。
彼は、ときどきイヤホンで音楽(おんがく)を聴(き)いてるみたい。その時の彼の顔は、とっても穏(おだ)やかな感じに見えた。どんな音楽を聴いているんだろう? 今度、訊いてみようかな?
そんなことを何度も思うんだけど…。どうも、話しかけるタイミングがつかめない。仕事中に声をかけると睨(にら)まれそうだし。かといって、休憩時間(きゅうけいじかん)は速攻(そっこう)で部屋(へや)を出て行ってしまう。どこでお昼(ひる)をとっているんだろう。これは謎(なぞ)である。
仕事が一段落(いちだんらく)したとき、隣の人にまた訊いてみた。するとその人も、彼がどんな人なのか知らないと返事(へんじ)が返ってきた。ますます謎である。
休みの日。あたしはモールへ買い物に出かけた。CDショップの前を通ったとき、あの彼がいるのが目に入った。彼は棚(たな)をじっと見つめていた。そして、CDを取ってレジへ向かう。あたしは、彼に気づかれないようにその棚へ向かった。彼の謎がひとつ解(と)けるかもしれない。その棚を見て、あたしは唖然(あぜん)とした。その棚には、ヘビメタが並(なら)んでいた。
<つぶやき>仕事の疲(つか)れを取るには、ちょうどいい? これは彼の趣味(しゅみ)なのか…。謎です。
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彼女はキャリアウーマンとしてバリバリ働(はたら)いていた。それが、私と結婚(けっこん)して子供(こども)ができると、すっぱりと仕事(しごと)を辞(や)めてしまった。私は、仕事は続けてもいいと言ったのだが、頑(がん)として自分の考えを押(お)し通した。
彼女が言うには、子育(こそだ)ては片手間(かたてま)にできることではないそうだ。確(たし)かにそうなのだろうが…。収入(しゅうにゅう)が減(へ)ってしまうのは、ちょっと痛(いた)いところだ。しかも、彼女の方が稼(かせ)いでいるとなると…。彼女は、私の考えていることを見透(みす)かすように、私に――。
もちろん、仕事は頑張(がんば)るさ。それは、家族(かぞく)のために当(あ)たり前のことだ。産まれてくる子供のためにも…。父親としての責任もある。
――彼女は、赤(あか)ちゃんが産(う)まれると、子育てに邁進(まいしん)した。仕事をしていた時のように、テキパキと家事(かじ)もこなし…。と、言いたいところだが、最初(さいしょ)のうちは大変(たいへん)だった。彼女は赤ちゃんに振(ふ)りまわされて、睡眠不足(すいみんぶそく)でふらふらになっていた。
もちろん、私だって、手伝(てつだ)えることは何でも…。まぁ、彼女に言わせると、何もしてくれないと愚痴(ぐち)をこぼされるのだが…。子育てに余裕(よゆう)が出てくると、彼女のイライラも治(おさ)まってきたようだ。私も、ホッと一息(ひといき)つける…はずだった。
私が、食事(しょくじ)の後の皿洗(さらあら)いをしていたとき…。私のやり方が気に入らなかったようで、
「そんなんじゃダメよ。綺麗(きれい)になってないでしょ。やり直(なお)してよ」と、駄目出(だめだ)しが…。
なぜか、私が家事の手伝いをするたびに、仕事が増(ふ)えると文句(もんく)を言われるように――。
<つぶやき>今まで大目(おおめ)に見ていたことが、気になりだしたんですね。家事を極(きわ)めましょ。
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薄暗(うすぐら)くなった黄昏(たそが)れどき。それは、災(わざわ)いが起(お)きる時でもあります。
この時間になると、暗がりの中に人知(ひとし)れず異界(いかい)の門(もん)が開くかもしれません。門が開くと妖気(ようき)が湧(わ)きだして、人間(にんげん)たちを惑(まど)わせ門の中に引き込んでしまいます。そうなったら最後(さいご)、元の世界(せかい)に戻(もど)れなくなるでしょう。
そこの、あなた。自分(じぶん)には関係(かんけい)ないと思っていませんか? 異界の門はいたる所にあるみたいですよ。あなたのすぐそばにも、口を開いているかもしれません。
もし、暗がりの中から不気味(ぶきみ)な音(おと)や、身(み)も凍(こお)るような声(こえ)が聞こえたら、すぐにその場から逃(に)げてください。けして暗がりの中を覗(のぞ)こうなんて考えたりしてはいけません。暗がりの中には、化(ば)け物(もの)たちがうようよと蠢(うごめ)いているのですから。
――最近(さいきん)では、化け物たちも賢(かしこ)くなったみたいで…。人間たちの見慣(みな)れたものになって現(あらわ)れるそうです。例(たと)えば、それは人間の姿(すがた)だったりもするみたいですよ。帰り道、暗がりから親(した)しい人が現れたら、要注意(ようちゅうい)です。あなたを異界へ誘(さそ)う化け物かもしれません。まず、その人が本人(ほんにん)かどうか確(たし)かめることが必要(ひつよう)です。でも、化け物たちも情報収集(じょうほうしゅうしゅう)には余念(よねん)がないみたいなので、そう簡単(かんたん)にはしっぽは見せてくれません。もし自信(じしん)がもてなければ、やんわりとお断(ことわ)りした方がいいでしょう。
あなたがそんな場面(ばめん)に遭遇(そうぐう)したら、化け物との知恵比(ちえくら)べに勝(か)つことができるかな?
<つぶやき>逢魔(おうま)が時(どき)には…。昔(むかし)からの言い伝(つた)えの中には、真実(しんじつ)が隠(かく)れているかも、です。
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終電(しゅうでん)で帰ることになった彼。その電車(でんしゃ)で、見覚(みおぼ)えのある女性を見つけた。誰(だれ)だったか思い出せずにいると、その女性が近づいて来て話しかけてくる。
「あの…、吉田(よしだ)くんだよね」
彼は、「ああ…」と言ったが、その先(さき)の言葉(ことば)が出ない。
「やだ、あたしよ。ほら、中学のとき、同じクラスだった」
「えっと…」彼は、まだ思い出せないようだ。
「うそ…。覚(おぼ)えてないの? あたしのこと」
「ごめん。えっと…、ここまできてるんだけど…」
「かおりよ。花丸(はなまる)かおり。ほんと覚えてないの?」
「ああ…。あの、花丸ね。テスト好きの…」
「もう、やめてよ。あの頃(ころ)、テストが近くなると、よく男子からからかわれたわ」
「ああ…、ごめん。いや、ずいぶん変わっちゃったから、分かんなかったよ」
「そうかなぁ…。吉田くんは、いつも終電で帰ってるの?」
「いや、違(ちが)うよ。今日は、残業(ざんぎょう)になっちゃってね。それで…」
たわいのない会話(かいわ)。まあ、同級生(どうきゅうせい)といっても、それほど親(した)しかった訳(わけ)でもなし…。二人とも独身(どくしん)のようだが、この先、何か進展(しんてん)があるかどうかは――。
<つぶやき>昔の友だちに久しぶりに会うと、何を話せばいいか。そんなことありません?
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