届いた手紙を頼りに、火野正平がチャリで旅するBS番組をご存じだろうか。
朝食も終わり、ソファーに腰掛けて、私達はその番組《こころ旅》を見ていた。
そこに映し出されたのは、火野正平がアサギマダラと戯れるシーンである。
「よし!アサギマダラ、見に行くぞ。」
「いつ。」
「今から。」
そんな訳でここにやって来た。
くじゅう花公園である。
確実にアサギマダラを見たいなら、ここである。
九重連山を借景に、美しくディスプレイされた季節の花々。
だが今日の目的は、無論それではない。
私達は、フジバカマが群生するゾーンへと、ひたすら突進するのみだ。
ほらいた。
去年訪れた際は、数百のアサギマダラが乱舞していたが、
残念ながらこの日は、両手で数えられる程である。
「それでも十分たい。こうしてじっくり見られたし。」
「・・・私、おでんの鍋の火、消したよね。」
突然、恐ろしいことを口にする家内。
「し、知るもんか。つけっぱなしか!」
「いやあ、多分消したと思うけど・・・」
どうにも気になって仕方がない。
(・・・おでん)
(・・・おでん)
(・・・おでん)
(・・・おでん)
黒焦げになったおでんが浮かんでは消え、また浮かぶ。
い、いかん、
不吉な妄想は振り払おう。
旅立ちの日が近いのだろう。
一心不乱に蜜を吸うアサギマダラ。
無事に南の空を渡って帰れる様、願うばかりである。
と同時に、
鍋の火が消されている事を、切に願う私である。
それでは、園内を一回りして、花のディスプレイを楽しむとしよう。
ここでは野鳥も多い。
何種類もの違った囀りが聞こえてくる。
アトリ?
ミヤマホオジロ?
ジョウビタキ
数日前の三俣の雨が嘘の様な、晴れ渡るくじゅうの空であった。
(・・・おでん)
追伸
鍋の火は、ちゃんと消されていた。
黒焦げのおでんを食わずに済んだ事を報告しておく。