山雑誌【のぼろ】に特集されていた、岩宇土山。
福寿草が可憐に咲いている。
あと一つ、氷筍も見られるらしい。
ほほう、いいじゃん。
高良山での試運転の感触は、多少の不安が残るものの、「歩幅に気を付ければ登れそう」
希望的観測をもたらすに至った。
「福寿草見に行くか?」
岩宇土山。
九州の秘境とも言うべき、山また山の、九州脊梁山中にある。
途中、峠道はこうである。
我が家では、スタッドレスを装備しているのは、キャンピングカーのスワローの一台しかない。
しかし、あの図体だ。
この先、道幅はどんどん狭くなるし、垂れさがった木の枝で屋根は打つし、難儀した事この上ない。
私がジムニーが欲しくなった理由が、お分かりいただけただろうか。
平家落人の里五家荘を過ぎる。
登山口は久連子(くれこ)古代の里の少し上の方にある。
登山口すぐの空き地には、5~6台の駐車スペースがある。
この日の登山の目的は無論、【のぼろ】で見た、福寿草と氷筍だ。
とは言え、この時点で気温がかなり上がってきている。
氷筍の方には、早くも点滅信号が燈ってきた。
とにかく、登ろうぜ。
登山口から、いきなりの急登だ。
この登山道の殆どが、このような狭いトラバースと尾根道である。
そして、何しろ滑る。
恐るべき足元の悪さである。
直ぐに息が上がってきた。
この1か月、山登りは勿論、長距離のウオーキングすら控えてきた結果は歴然である。
体力の落ち方が甚だしい。
「おっちゃん、どうした。もう、息が上がっとるやん。」(家内)
「ヒーヘー、しゃ、喋りきらん。声かけるな。ヒーハー。」(私)
山登りに関して、経験も技術も初心者である事を自任する私だが、体力だけは控えめに言っても、中級の下ぐらいはあると自負していた。
この日、そのささやかな自負すらも、音を立てて瓦解してしまった。
目出度く、
どこもかしこも、隅から隅まで、ずずずいーっと、完全無欠の初心者に戻ってしまったようだ。
数日前の雪がまだ残っている。
頭上からは、枝に残った雪と、その解けた雫が、、間断なく降り注いでくる。
ちょっとした、小雨状態である。
昨日のものだろうか、トレースが残っている。
踏み跡を追って行けるので、道迷いの心配は無い。
切り出した材木を麓まで運搬する設備?
目の前に、数本の太いケーブルが現れた。
何度も言うが、
特にこのケーブルの辺りから、ただでさえ足元が狭いうえに、雪解けで地面がぬかるんでいて、滑ること滑る事。
本気で滑落の心配をした程だ。
たった30センチの段差を越えるのも一苦労なのだ。
なんせ、片方の足を踏み出そうとしても、その時点で軸足の方が滑っていくのだから。
登山靴は泥だらけ。
それだけならまだしも、靴底に泥がくっついていき、どんどん重くなる。
各所にロープが補助に張ってある。
これなしではとても、歩けやしない。
久連子岳直下の鍾乳洞到着。
【のぼろ】に、条件が整えば、氷筍が見られると書いてはあったが、この気温では到底無理なのは自明だ。
案の定、影も形もなかった。
ゴツゴツした稜線が見えてきた。
この岩場を越えた尾根のすぐ先が、久連子岳頂上のようだ。
両側は切り立った断崖である。
浮石でも踏んで、体勢を崩したらアウトである。
「俺だけ登って来る。直ぐ帰って来るけん、ここで待っとけ。」
ゆっくりと歩を進めると、
久連子岳到着。
写真だけ撮って、とっとと降りる。
尾根道に戻った。
あのピークが岩宇土山かな。
ここまで、コースタイムを随分オーバーしてしまっている。
私がへばった事もあるが、それより何より、あの足元の悪さが原因である。
急ぐぞ。
日没までには余裕はあると言え、下りにこの足元の悪さでは、もっと遅れるぞ。
溶け残りの雪が残る尾根道。
滑りやすい雪道でさえ、あの泥濘に比べれば、うんとましだ。
瓦礫は全て石灰岩だ。
ガレ場の急斜面を登る。
下っ腹がむず痒くなるような高度感である。
頂上付近は、急に傾斜が緩やかになり、台状の地形になる。
何処に頂上があるんだろう?
あと五分か。
急に元気が出て、私を追い抜いて行くヤツがいる。
「フフフンフン♬」
何やら解読不能の歌まで、歌い出した。
その後、台状の地形を過ぎ、ごくありふれた尾根道となった。
不意にそれは現れた。
「ここ?」(家内&私)
後半へ続く