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Tシャツとサンダルの候

思い出の店で鯉料理



時折、鯉の洗いが堪らなく食べたくなる。

そんな時は、


「オイ、小城に行くぞ。」


と言う。

これで十分話は通じるのだ。

我が家では、『小城』と言えば『鯉料理』と同義語なのだ。



小城清水の滝の直ぐそば。

山間の小さな集落に、数軒の鯉料理店が、互いに身を寄せ合うように軒を連ねている。



昼時には、まだ少し間がある。

清水の滝の散策でもして、時間を潰そう。



参道を行く。






石段を登った先に、山門が見えてきた。




清水山見瀧寺宝地院。




地蔵仏の脇を通り、寺院の裏側に石段を下りて行くと、




清水の滝の瀑布が。




別名『珠簾(たますだれ)の滝』とも呼ばれているんだそうな。







ぼちぼち良い時間になった。

通りに戻るとするか。






名水百選清水川。

この名水により、小城名物『鯉の洗い』は生まれた。



さて、どの店にしよう。



「決めた。ここにするぞ。」

「あー、ここね。はいはい。」




何でこの店なのか。




それは、




かれこれ40年前。

まだ家内と結婚する前の事。


「小城の鯉料理が美味しいんだって。」


ヤツに、その存在を教えられた。


「ほほう。そんじゃ、食べに行くぞ。」


初めて小城の鯉料理を食べたのが、この店なのだ。



40年前のあの日、若かった二人は、確かにここにいた。

正に同じ部屋だ。

尤も、当時はテーブルが三つ四つ並べられ、大部屋として使われていた。

今は、コロナの影響なのか、テーブル1個の個室となっている。

あの時二人は、ここで鯉の洗いの旨さに感嘆し、


「がーばい、美味しか!!」


と、唸った。

さらに、後で運ばれてきた鯉こくのボリュームに驚愕し、


「ぶへーーー、もう、食えん!!」


と、

はち切れそうなお腹をさすり悶絶した。



「そうそう、あれには驚いたね。それに安かったろうが。」(家内)


当時、ビール1本分も加えて、二人で2000円ちょっと。

当時としても破格の安さである。

それよりなにより、

川魚に抱いていた先入観が、根底から覆される程の美味さ!

あの日あの時、ここで初めて知らされた。



「洗いでーす。」


ワーイ!


洗いの上にはたっぷりの氷。

水っぽくならないかって?

心配はご無用。

皿は中央が深くなっていて、溶けた氷は金網を通して、底に溜まるようになっている。



酢味噌をたっぷり付けて、


パク


うんめえ。


ひと月以上も餌を与えられず、冷たい清水に晒された鯉は、驚くほど身が締まり、臭みは完全に消え去る。

敢えて言うなら、鯛や平目を、さらに上品にした淡白さと言うべきだろう。



これは鯉の皮。

コリッコリだ。



鯉の洗いの下には、キャベツがタップリと敷かれている。

これも、小城のやり方だ。



このシャキシャキのキャベツが、箸休めにピッタリである。

酢味噌をドレッシングに、なんぼでも食べられる。



「鯉こくでーす。」


昔と同じく、素朴なアルマイトの鍋に入れられた鯉こく。

これで、二人前だ。

分かり易く言えば、大き目の汁椀に6~7杯分である。

当時と違っているのは、

ぶつ切りの内臓が丸ごと入れられた、野趣味溢れる鍋だったのが、少々上品になった点。

それと、これでも量が半分程度になった点だ。

ボリュームに驚いたと言う私の言葉が、お分かりいただけるだろうか。

あの日、二人で汁椀に10杯以上は平らげたが、それでもかなりの量を残してしまう程の鍋だったのだ。


最初は汁を啜る。


ゴクリ



「美味しかあ。全然変わらん。」




何年経っても、この一杯を啜れば、あの日の記憶が鮮やかに蘇ってくる。


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