改革はいつ終わるのか、平井ソニーの再挑戦
2期連続の最終赤字、汚名返上へ課題は多い
許斐 健太 :東洋経済 記者
2014年06月08日
「成長に向けた戦略の中身がまったくない」。
5月22日に開かれたソニーの経営方針説明会。
平井一夫社長のスピーチを受け、
同社OBの一人はそう吐き捨てた。
写真を拡大
「赤字を継続する体質を変える」「先送りはしない」と
経営方針説明会で宣言した平井社長
ソニーの凋落が止まらない。
5月14日に発表された2013年度業績は、
期初計画で掲げた営業利益2,300億円を大きく下回る264億円で着地。
最終損益も、期初に500億円の黒字計画を掲げていたが、
1,283億円の最終赤字となった。
経営方針説明会で、平井社長は就任時に掲げた14年度の売上高8兆5,000億円、
営業利益4,250億円という目標を事実上撤回。
「環境変化への対応力、スピードが不足していた」と反省の弁を述べた。
今年度は営業利益1,400億円、
最終損益は500億円の赤字になる見込みだ。
「何も最近悪くなったわけじゃない。
ハワード・ストリンガー前会長時代の無策が今の苦境につながっている」。
現役の社員からは歴代経営陣の責任を問う声も上がる。
だが、平井社長が、「13年度にテレビ事業を黒字化する」などと
意気軒昂に宣言したものの、
未達に終わり失望を買ってきたのも事実だ。
詰めの甘い計画
業績の足を引っ張っているのは、全体の売上高の約7割を占める、
エレクトロニクス(以下、エレキ)分野。
中でもテレビは、目標に掲げた販売台数から遠く、
10年連続で赤字を計上。平井社長は
「よい商品を出し続けたが、それをサポートする事業部、
本社、海外販社のコスト構造がビジネスの規模に合っていなかった」と言う。
タブレットの普及で市場縮小が続くパソコン(PC)も、
13年度は販売台数を2度、下方修正。
黒字化は果たせなかった。
さらに注力分野と位置づける、モバイル(スマートフォンなど)、
ゲーム、イメージング(デジカメなど)のコア3事業についても、
利益面で計画を達成できなかった。
吉田憲一郎CFO(最高財務責任者)は、
「売り上げ増加に解を求めたことが、最大の反省材料。
計画に詰めの甘さがあった」と認めた。
株式市場の評価は冷ややかだ。
決算発表の翌日、ソニーの株価は約6%下落した。
現在の時価総額は約1.7兆円。
同時期に業績不振に陥り、今期黒字化を果たした
パナソニックの2.6兆円と比べると、大きく水をあけられている。
株価の推移
平井社長就任直後の12年度、営業利益は2,265億円と急回復した。
だが、それはニューヨーク本社ビルや保有していたディー・エヌ・エーの株式など
2,000億円を超える資産売却益によるカサ上げの効果が大きい。
本当に復活できるのか。
目下、推し進めているのが構造改革だ。
7月に、PC事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡する。
同月にはテレビ事業も分社化する予定で、
人員削減や賃金体系の見直しに着手する見通しだ。
売り上げ重視から採算重視に転換することで、
仮にテレビ販売台数が計画を下回っても、
「市場の変化に柔軟に対応し、
損益インパクトを抑える体質になってきた」
(平井社長)と自信を見せる。
国内外で人員削減
テレビを含むエレキの採算改善でカギを握るのが、
海外を中心とする販売会社の固定費削減だ。
今回、販社コストが2,900億円に上ると初めて公表。
人員削減などに取り組み、15年度までに費用を
2割削減するとの方針を打ち出した。
すでに米国の販社では、約3,000人の従業員の3分の1を削減するなど、
手をつけている。
一連の構造改革を主導しているのが、
吉田CFOだ。かつて出井伸之元社長の社長室長を務め、
子会社のネット接続大手ソネット社長としても辣腕を振るった。
その手腕を買われ、昨年末に平井社長から本社に呼び戻された。
ソニーにとって本社の固定費も13年度1,450億円と大きい。
今後、本社の間接部門の費用も、
15年度までに3割減らす計画だ。
「本社には余っている人材が多い。
吉田氏はそこにメスを入れようとしている」(同社社員)。
一連の構造改革や事業の減損などを合わせ、
前期と今期で計3,000億円超の費用を計上する。
15年度以降は1,000億円以上の費用削減効果を見込む。
今回の経営方針説明会で、15年度に4,000億円規模の営業利益を目指すと公表した。
「目標が高すぎる」との声もあるが、
今年度の営業利益計画1400億円を達成できた場合、
15年度は費用削減効果で1,000億円プラス、
PC事業の収束による効果で約1,000億円プラス、
さらに構造改革費用の減少などを加味すれば、
達成可能とそろばんをはじく。
「14年度は私自身の責任として、
15年度以降の成長のために、構造改革をやり切ります」。
そう言い切った平井社長。
就任3年目となる今年度が信頼を取り戻すラストチャンスだ。
(撮影:尾形文繁
=週刊東洋経済2014年6月7日号〈6月2日発売〉
掲載の「核心リポート02」を転載)
http://store.toyokeizai.net/magazine/toyo/20140602/
2期連続の最終赤字、汚名返上へ課題は多い
許斐 健太 :東洋経済 記者
2014年06月08日
「成長に向けた戦略の中身がまったくない」。
5月22日に開かれたソニーの経営方針説明会。
平井一夫社長のスピーチを受け、
同社OBの一人はそう吐き捨てた。
写真を拡大
「赤字を継続する体質を変える」「先送りはしない」と
経営方針説明会で宣言した平井社長
ソニーの凋落が止まらない。
5月14日に発表された2013年度業績は、
期初計画で掲げた営業利益2,300億円を大きく下回る264億円で着地。
最終損益も、期初に500億円の黒字計画を掲げていたが、
1,283億円の最終赤字となった。
経営方針説明会で、平井社長は就任時に掲げた14年度の売上高8兆5,000億円、
営業利益4,250億円という目標を事実上撤回。
「環境変化への対応力、スピードが不足していた」と反省の弁を述べた。
今年度は営業利益1,400億円、
最終損益は500億円の赤字になる見込みだ。
「何も最近悪くなったわけじゃない。
ハワード・ストリンガー前会長時代の無策が今の苦境につながっている」。
現役の社員からは歴代経営陣の責任を問う声も上がる。
だが、平井社長が、「13年度にテレビ事業を黒字化する」などと
意気軒昂に宣言したものの、
未達に終わり失望を買ってきたのも事実だ。
詰めの甘い計画
業績の足を引っ張っているのは、全体の売上高の約7割を占める、
エレクトロニクス(以下、エレキ)分野。
中でもテレビは、目標に掲げた販売台数から遠く、
10年連続で赤字を計上。平井社長は
「よい商品を出し続けたが、それをサポートする事業部、
本社、海外販社のコスト構造がビジネスの規模に合っていなかった」と言う。
タブレットの普及で市場縮小が続くパソコン(PC)も、
13年度は販売台数を2度、下方修正。
黒字化は果たせなかった。
さらに注力分野と位置づける、モバイル(スマートフォンなど)、
ゲーム、イメージング(デジカメなど)のコア3事業についても、
利益面で計画を達成できなかった。
吉田憲一郎CFO(最高財務責任者)は、
「売り上げ増加に解を求めたことが、最大の反省材料。
計画に詰めの甘さがあった」と認めた。
株式市場の評価は冷ややかだ。
決算発表の翌日、ソニーの株価は約6%下落した。
現在の時価総額は約1.7兆円。
同時期に業績不振に陥り、今期黒字化を果たした
パナソニックの2.6兆円と比べると、大きく水をあけられている。
株価の推移
平井社長就任直後の12年度、営業利益は2,265億円と急回復した。
だが、それはニューヨーク本社ビルや保有していたディー・エヌ・エーの株式など
2,000億円を超える資産売却益によるカサ上げの効果が大きい。
本当に復活できるのか。
目下、推し進めているのが構造改革だ。
7月に、PC事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡する。
同月にはテレビ事業も分社化する予定で、
人員削減や賃金体系の見直しに着手する見通しだ。
売り上げ重視から採算重視に転換することで、
仮にテレビ販売台数が計画を下回っても、
「市場の変化に柔軟に対応し、
損益インパクトを抑える体質になってきた」
(平井社長)と自信を見せる。
国内外で人員削減
テレビを含むエレキの採算改善でカギを握るのが、
海外を中心とする販売会社の固定費削減だ。
今回、販社コストが2,900億円に上ると初めて公表。
人員削減などに取り組み、15年度までに費用を
2割削減するとの方針を打ち出した。
すでに米国の販社では、約3,000人の従業員の3分の1を削減するなど、
手をつけている。
一連の構造改革を主導しているのが、
吉田CFOだ。かつて出井伸之元社長の社長室長を務め、
子会社のネット接続大手ソネット社長としても辣腕を振るった。
その手腕を買われ、昨年末に平井社長から本社に呼び戻された。
ソニーにとって本社の固定費も13年度1,450億円と大きい。
今後、本社の間接部門の費用も、
15年度までに3割減らす計画だ。
「本社には余っている人材が多い。
吉田氏はそこにメスを入れようとしている」(同社社員)。
一連の構造改革や事業の減損などを合わせ、
前期と今期で計3,000億円超の費用を計上する。
15年度以降は1,000億円以上の費用削減効果を見込む。
今回の経営方針説明会で、15年度に4,000億円規模の営業利益を目指すと公表した。
「目標が高すぎる」との声もあるが、
今年度の営業利益計画1400億円を達成できた場合、
15年度は費用削減効果で1,000億円プラス、
PC事業の収束による効果で約1,000億円プラス、
さらに構造改革費用の減少などを加味すれば、
達成可能とそろばんをはじく。
「14年度は私自身の責任として、
15年度以降の成長のために、構造改革をやり切ります」。
そう言い切った平井社長。
就任3年目となる今年度が信頼を取り戻すラストチャンスだ。
(撮影:尾形文繁
=週刊東洋経済2014年6月7日号〈6月2日発売〉
掲載の「核心リポート02」を転載)
http://store.toyokeizai.net/magazine/toyo/20140602/