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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯57 秋の気配 ♪

2013年09月11日 | 日記・エッセイ・コラム


 「あれが貴方の好きな場所、港が見下ろせる小高い公園…」

 力むことなくこうした何気ないフレーズで始まるのが、オフコースの代表作の一つ「秋の気配」です。9月に入り、蝉の声も消えてだんだん空が高くなると、つい口ずさんでしまうこの時期定番の一曲と言えるでしょう。

 「秋の気配」は、オフコース11作目のシングルとして1977年にリリースされました。レコーディングから既に36年と言う歳月を経ていますが、その曲相には「秋」という季節を表現する高い音楽性と少しの気品のようなものが依然として漂っているように感じられます。

 実際、槇原敬之や渡辺美里などの才能あるミュージシャンにその後も数多くカバーされていることなどからも、小田和正作詞・作曲の楽曲の中でもポピュラーな、コアなファンの多い作品と見ることができるでしょう。

 アコースィテックギターによる透明感のあるイントロやメジャーセブンスを多用した前半の頼りなげなコード進行。しかし後半のサビに入ると叙情的なメロディラインが一息にこれを引き受け、最後は再びアコースティックな響きのなかに余韻をすっと納めるという、物語性のあるなかなか憎いテクニックを使っています。

 1977年と言えば、キャンディーズが引退し、ピンクレディーが全盛期を迎えるそんな時期。いわゆるニューミュージックの分野では、小椋佳のアルバム「遠ざかる風景」や荒井由実の「14番目の月」、シングルではさだまさしの「雨やどり」など、どちらかと言えばシンプルな歌詞やメロディが若者の心を捉えていた時代です。

 そう考えると、この「秋の気配」は、全国ツアーを開始したばかりのオフコースそして小田和正が、時代におもねらないその後に続く独自の世界観を作りあげた記念すべき作品として評価することができるのかもしれません。

 さて、この曲のイメージを作っている「港が見下ろせる小高い公園」とは、横浜元町の港が見える丘公園というのが定説ですが、小田自身は歌の舞台を、金沢山(横浜市金沢区)から見下ろした柴港のことだとオフコース時代に発言しているそうです。

 ちょっとがっかりですが、確かに「『あれ(港が見下ろせる公園)』は貴女が好きな場所…ということなので今、二人がいる「ここ」のことではないようだし、「僕は黙って『外』を見てる」ということであればどうやら二人は屋内にいるようです。

 男は、目の前にいる女性に対する自分の心が秋の訪れとともにどんどん醒めていってしまっていることに気が付いています。貴女がいろいろ話しかけてきてももう僕の心には届きません。僕がせっかく精一杯のやさしを示して別れ話を切り出そうとしているのに、貴方はなぜ受け止めてくれないのだろうか。

 こうしたかなりわがままな男の言い分を、「そうだね、秋だから仕方がないよね…」と自然なものとして聞かせてしまう所に小田和正の真骨頂があります。

 よくよく聞くと、それまで抱いていたイメージやら光景やらがやや違って見えるのでしょうが、「でもそういうこともあるよね」と、それはそれとして自分の世界の中にどっぷり浸かることができるのが「魔法のメロディ」であり「魔法のボーカル」「魔法のコーラス」というものです。

 熱い夏が終わって秋の気配が感じられるこの時期、空気が澄んだ横浜港の景色とともに、この歌はこれからもずっと人々に口ずさまれ続けることと思います。

 なお、Wikipediaによれば、小田和正はこの曲の詩について2005年のインタビューの中でこう語っているそうです。(参考までにそのまま転載しますね。)

 「“僕があなたから離れていく”って歌うと、まるでとてもやさしい人で、やむを得ず離れていくような…。“別々の生き方を見つけよう”とかって、よく映画の別れの場面であるじゃない? “いつの間にかすれ違った”、とか。でも、本当に好きだったら、別れないもんね。別れるのは“好き度”が低下したからなんだし、もっといい相手が出てきて“こっちのほうがいいなあ”と思ったからかもしれないんで。そういう傲慢な気持ちを横浜の風景の中に隠したのが、あの曲だったんだ。でも、書いたときは必死だったんだよ、言葉さがして。本当はそんなつもりなかったんだけど、あとで考えたらひどい男だな…」

 




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