日本経済新聞では、政府が10月にも具体化すると約束している消費税増税の時期と税率の問題を見据え、9月初旬以降集中的にこの消費税問題に関する様々なエコノミスト、アナリストなどの意見を紙面に掲載しています。
特に、外部経済学者等の寄稿により構成される看板コラムの一つ「経済教室」においては、9月2日から「消費税増税の論点」と題し、3人の経済学者が上編・中編・下編と3日間連続して「当初の予定どおり増税に踏み切るべき」との観点から論陣を張っています。
まず、1日目は法政大学の小黒一正准教授です。小黒氏は、消費税増税が経済成長率に及ぼす影響について、「成長率低下とは限らない」という視点で可処分所得の減少に伴う所得効果について論評を行っています。
例えば、2006年から2007年における(所得税・住民税の)定率減税の縮減・廃止に伴う国民の負担増は3.4兆円あったけれどもその際の景気の腰折れや税収減の懸念は強くなかったこと。また、年金改革に伴う社会保険料の引上げは2017年まで続き、その負担増は国民全体で5.6億円に及ぶことになるのに、現時点でその影響に関する懸念が顕在化していないこと。そしてその他にも国民の可処分所得に影響を及ぼす様々な要素が見込まれる中で、野党やマスコミが(そして与党の一部も)消費税のみを特別扱いし、税率の1%引き上げで2兆円とされる国民の負担増とこれによる経済成長への影響ばかりを強調するのは合理性に欠けるのではないかという指摘です。
小黒氏は、消費増税が景気に及ぼすマイナス効果が大きく見えるのは「異時点間の代替効果」、いわゆる「駆け込み需要」の影響があるからではないかと見ています。氏によれば、政府や民間の予測でも2014年度の増税が実質経済成長に及ぼす影響は、一時的な駆け込み需要とその反動期を相殺すればマイナス0.4%~マイナス0.8%の範囲内収まるだろうということです。
また、過去の増税時の成長への影響を見ても、一時的なプラスマイナスはあっても増税自体が成長率を低下させたという証左は見当らない。海外のケースでも、日本で4%に当たるような消費増税を行ったような場合であっても成長率が低下していないケースが概ね5割を占めているという指摘がありました。
さらに、税率の引き上げ方法(例えば毎年1%ずつ引き上げるなど)の議論に関しては、増税が遅れる中で同様の財政効果を求めるのであれば当然引き上げ幅を5%からさらに上積みするという視点が必要である。それにもかかわらず、現在の議論には最終的に財政を安定させるために必要な税率を何処に置くのかといった、現実的なシミュレーションが欠如しているという厳しい意見を示されています。
アメリカのアトランタ銀行のチームの研究によれば、日本が消費税増税を先送りした場合2028年には財政が限界に達するというシナリオが示されているということです。これを受けて小黒氏は、ドラッカーの言葉を引き「時間は最も希少価値の高い資源である。時間を管理できない者はほかの何ものも管理できない」…というコメントでこの寄稿を締めくくっています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます