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さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

インフラ手当は支給されましたか?

2022年12月16日 | お金

インフラ手当は支給されましたか?

 

 インフラ手当という言葉がちょっとした話題だ。これは、食料品や光熱費などの相次ぐ物価高騰に対応するため、企業が従業員の生活支援を目的とした「特別手当」を支給することである。このほど帝国データバンクが、アンケートをおこなった結果が発表されており、従業員に対して特別手当(インフレ手当)を「支給した」企業は全体の6.6%となっている。また「支給を予定」は5.7%、「支給を検討中」は14.1%となり、全体の4社に1社(26.4%)がインフレ手当を準備しようとしている。他方、「支給する予定はない」は63.7%である。

 この間急速に進んでいる商品価格の値上げは、遂に2022年年間で世帯当たり96,000円の負担増になるとも言われている。こうした状況下なので、少しでも現金収入が増えるのは喜ばしいことである。しかしこれは本質的な賃金アップではなく、また支給する(予定)企業も限定されていることも事実である。

 

 先のアンケートによると、インフレ手当のうち、「一時金」の支給額(予定・検討中含む)の内訳をみると、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多く、平均支給額は約5万3,700円。「月額手当」(同)は、「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」が30.3%で最も多く、平均支給額は約6,500円となっている。一時金は基本的には1回限り、月額手当の場合は、期限を2023年3月までと定めているところもある。

 既に支給した企業からは「物価の高騰が続き、社員やパート社員の生活が困窮しないように一時金を全従業員に支給」(事業サービス)といったように値上げラッシュの中で、少しでも社員の生活補填をおこなうものとなっている。総じて社員のモチベーションアップなどで支給している企業も多い様だ。また、車通勤が前提となっている企業では、燃料代の高騰による通勤手当の補填としている企業も多い(月額手当に多い)。

 一方、支給予定ないとしている企業では、「インフレで会社の営業収支が悪化しており、まずはそちらの対策が優先と考えている」(建築工事)など、原料高・燃料代などコストアップにより企業収益が圧迫されており、支給余力がないとする企業が多いのも事実である。業種別では、農林水産・金融・小売り・サービス業では、支給予定がないとする企業が多い傾向である(あくまで調査時点だが)。企業業績の格差も拡大しており、業種や規模の大小などによって、経営的原資を持たない企業の存在も事実である。

 

 

その意味でインフレ手当やその他の名目でも現金支給があるのであれば、目下の値上げラッシュの中では、良いことである。しかし、インフレ手当は、給与支給となるので本給と一緒に、税金や社会保険料対象となるので、名目支給額そのものが手取りにはならない。また、多くの場合が退職金の算定基礎にはならない、というようにあくまで一時的な措置であり、家計の負担増には追いつかない場合が多いであろう。

 本質的には賃金アップをすべき事柄であり、2023年春の賃金改定でこの間の物価高騰分を上回る金額アップで解決すべきである。企業業績もあるが、全体的に人不足で動いている雇用情勢も踏まえて、物価を上回る賃上げの実現が必要である。

 

☆「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」 帝国データバンク、2022年11月

「止まらない物価上昇と家計負担増」 みずほリサーチ&テクノロジー、2022年11月

 


進むキャッシュレス決済、一方で不安も

2022年10月29日 | お金

進むキャッシュレス決済、一方で不安も

 

コロナ禍で進んだキャッシュレス決済

 経済産業省はこの6月に、2021年のキャッシュレス決済比率を発表した。これによると2021年のキャッシュレス決済比率は、32.5%となった。経済産業省は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%まで上昇させることを目指し、キャッシュレス決済の推進に取り組んでいるということだ。

 2010年以降キャッシュレス決済の割合は徐々上昇してきているが、コロナ禍の2020年以降、年率3%程度上昇しており、コロナ禍の影響により非現金での決済に勢いがついたのも事実であろう。内訳は、クレジットカードが約27.7%で増加かつ最大、次いで電子マネーが2%でやや減少、3番手がQRなどによるコード決済で1.8%と急増、デビットカードは約0.9%で微増となっている。クレジットカードは既に使用経験のある人も多く、最も手軽に使用されている。一方スマホを介した「〇〇ペイ」といったQRコード決済が大きく増加した。海外でウエイトの高いデビットカード決済は、日本では振るわない。

 

キャッシュレス決済の現状

 キャッシュレス決済をよく利用しているとする人の割合は、2019年の約54%から、2021年には約64%と10ポイントも上昇している。内訳としては、クレジットカード決済がやや減少傾向となる一方で、コード決済が急増している。これはスマホのお財布化の進行を示すもので、クレジットや電子マネーのようなカード提示ではなく、スマホを介した決済が日常化してきていることを示している。実際コンビニのレジ付近で観察していると、スマホで決済している人が多いことに驚く。スマホさえ手元にあれば、買い物できてしまう社会が実際に目前にある形だ。

 コード決済の業種別導入状況を見ると、飲食業・小売業・観光業での導入比率が高く、60%を越えている。確かに、これらの業態でQR決済可能との表示が多く掲示されており、観光地でも良く見かけるのは事実だ。公共施設でも対応可能なところが既に40%を越えてきている。消費者の購入単価は、1000~3000円未満が最も多く、次いで5000~1万円未満、3000~5000円未満となっており、1000円未満は4番目である。少額決済に留まらず、様々な機会で1万円程度までの決済がおこなわれている事実がある。

 

キャッシュレスを活用している人は

 ここからは、この1年間にオンラインショッピング又はオンライン個人間売買(オークション、フリマ等)での購入をしたことがあると回答した人を対象とする調査となる。

 この対象者では、オンラインを含む買い物などでの支払いをするときに、キャッシュレス決済を利用していないのは僅か2.2%である。相対的に20歳代の割合が低いが、支払い能力の低い学生が含まれていることに依ると考えられえる。最も活用しているのは、40歳代であり、次いで50歳代となる。また、60歳代でも良く活用されている。2019年と比較したキャッシュレス決済を利用する頻度を見ると、「以前は現金での支払いだけだったが、キャッシュレス決済を利用するようになった」とする人が約17%存在し、キャッシュレス化の機運もあるが、コロナ禍の影響もあったとみるべきであろう。

 この1年間のオンラインショッピングでの支払い方法は、全世代でクレジットカード決済が大勢を占める(75%以上)が、次いで多いのはコード決済であり、20~50歳代では50%程度の利用になっている。60歳代のみ30%台で、シニアにはあまり人気がない。これ以外の決済方法は、キャリア決済、プリベイトカード、デビットカード、銀行振り込みなどとなるが、この間増加しているのは「後払い決済」である。全体に20歳代を中心に若い世代の活用が多い傾向になっている。

 

後払い決済とは

 「後払い決済」は、商品が手元に届いた後に、送られてきた請求書、電子メール等で送られる請求通知、アプリに表示される請求画面等を利用して、定められた支払期限内に代金を支払うことで決済が行われるサービスである。当月の購入代金を翌月にまとめて支払う後払い決済サービスも提供されている。現在国内では、これをおこなうサービスが次々に登場しており、コード決済と組み合わせたサービスも登場している。

 後払い決済の利点として、現在利用している人は、「クレジットカードを持っていなくても購入できる」「クレジットカード番号を入力せずに購入できる」「注文時に購入金額を用意できなくても支払い期限内に用意できれば購入できる」「キャンペーン等の優遇が得られる」を挙げている。つまり使用する敷居が低いのである。クレジットカードがなくても、今支払できなくても、繰り延べして購入することができてしまう。

 現在利用している人の約46%、約半数は、後払い決済利用時に不便・不安なことが「特にない」としており、便利に使えるものと捉えられている。しかし一方、「支払が遅れたときの手数料や延滞料等」「複数の後払い決済サービスを利用することによる使いすぎ」「コンビニ等で支払うことが不便」といったことも挙げられている。

 

具体的な事例では

 ここで1例として、「PayPayあと払い」を取り上げて、どのような仕組みになっているのかを紹介する。なお、「PayPayあと払い」に問題があって取り上げるのではなく、あくまで1例として紹介するのであって、実際には各社の後払い制度の仕組みによって、多少なりとも異なっていることに注意してほしい。

 PayPayは、一般的にはPayPay残高にチャージをおこない、QRコードを用いてそこからの引き落としで決済をおこなう。「PayPayあと払い」は、PayPay残高へチャージをすることなく支払いができ、支払った代金はPayPayカードのご利用料金と一緒に口座から引き落としされる仕組みである。PayPayカードと一体に使用できることになる。

 支払限度額は、本人認証なしの場合1日5千円、月5千円だが、PayPayカードで本人認証すると最大1日50万円、月200万円となり、この限度内で個人個人が設定できる。月末までで締められ、翌月27日に他のクレジットカード使用料と一緒に払う。年会費は無料。翌月27日の一回払いの場合、手数料も無料となっている。

 しかし、この27日に支払いができないと年率14.6%の遅延損害金が発生する。一度に支払うことができない場合、「リボ払い」を選択できるとされている。

ここでリボルビング払いを使用してしまうと大変なことになってしまう。

 

さいごに

 キャッシュレス決済は、便利な仕組みであることは間違いない。特に若い世代を中心としてスマホをお財布化して、コード決済を手軽に使用できるようになっている。手元の現金が動かないことから、「お金を使った」感が乏しく、チャージ残高などを気にせず使用できてしまうと、ついつい買い物回数が増えてしまい、思わぬ支払いを請求されてしまうことがある。

 キャッシュレスの進行は、同時に本人のお金の管理能力を問われることである。

 

☆ 2021年のキャッシュレス決済比率を算出しました、経済産業省、2022年6月

  [参考・2月(確報)]店頭購入及びキャッシュレス決済に関する意識調査結
   果」、消費者庁、2022年3月

 キャッシュレス決済実態調査、経済産業省、2021年6月

 キャッシュレス決済の動向整理、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2022年9月

 PayPayあと払いとは https://paypay.ne.jp/help/c0206/

 

 


特定の層を追い込む物価高騰

2022年09月30日 | お金

特定の層を追い込む物価高騰

 物価の高騰が止まらない。8月の消費者物価指数の前年比上昇率は、総合で3%、変動の激しい生鮮食品を除いても2.8%であった。今後10月には食料品関係で過去最高の品目数の値上げが控えており、今年中には生鮮食料品を除いても3%を越えることが見込まれる。欧米諸国の7~8%上昇からすると低い水準であるが、日常生活でも値上がりを実感するようになってきている。食料品以外の多くの商品の値上がりも進んでおり、今年の内には、生活のあらゆる場面で値上がりを感じ取るようになるであろう。

 

 値上がりしているものは

 日常生活の多くの品目の値上がりをする中、最も家計に大きな影響を与えているのは、エネルギー価格と食料品価格(生鮮食品を除く)である。円安の進行、ウクライナ戦争などを背景とした資源価格の高騰により、生活に欠かせない品目が値上がりしているのだ。

 こうした物価の上昇は、所得の低い世帯に大きな影響を及ぼしている。同時に、40~50歳代のファミリー世帯にも大きな打撃になっている。

 

低所得者層に大きな影響が

 食費やエネルギー費用は、所得に関わらず、世帯人数によって一定の費用がかかる固定費的側面がある。所得が低いからと言って食べない訳にはいかず、冷房も暖房も使用しない、車に乗らない(地域による)生活はありえないのである。このことにより、世帯の消費支出に占める食費とエネルギー費用の割合は、所得が低いほど高くなり、40%程度にもなってしまっている。このように家計で最も影響の大きい費目が値上がりするので、その影響は当然大きくなる。値上がりした分は、収入を増やさない限り、何かを我慢しないとやりくりが出来ないことになる。しかし低所得では実際的にやりくりできる範囲も限定的である。ここで行き詰ると最後は、食費とエネルギー費用の削減に結果的には向いてしまう。実際に困窮世帯では、食事を抜いたり、電気・ガスを止めざるを得ない実態も発生している(現代では携帯電話は最後まで残る社会とのつながりツールとなっている)。

 コロナ禍でフードパントリーなどに依拠している世帯は依然として多いが、今後さらに増えていく懸念がある。一方、フードバンク側では、この不況で寄付金・物資が減少しつつあり、需要にどれだけ応えられるかも懸念されている。

 

ファミリー層にも影響が

 ファミリー世帯は、必ずしも低所得世帯ではない。2021年民間給与実態調査統計によると、その平均収入(ボーナス含む、税引き前)は下記の通り。あくまで平均であり、就業している業種・職種でも大きく異なり、正規雇用・非正規雇用の区別もない。

  45~49歳  男性:630万円  女性:328万円
  50~54歳  男性:664万円  女性:328万円

 この金額だけみれば低所得者には当たらず、食費・エネルギー費用の割合は所得の低い世帯よりは低くなる。しかし、この世代は日常のやりくりでは苦労している世帯が多いのである。それは、世帯人数も3~4人となり、食費・エネルギー費用以外の教育費・住宅費のウエイトも高くなっていることに依る。この世代は、まず世帯当たりの食費・エネルギー費用は最大となる。子どもたちも良く食べる世代であり、一人1部屋で冷暖房したりする。そこで人生3大費用と言われる「教育」「住宅」がのしかかってくるのである。つまり収入も多いが、支出も大きいのである。

 このことは暮らし向きに関する調査結果でも現れており、「『どちらかと言えば暮らしに余裕はない』と『暮らしに余裕は全くない』の合計は、40代では61.5%、50代では60.7%と、いずれも6割を超え、他の年齢階級より暮らしに余裕はないと感じる者が多いとなっている。」(「暮らしと意識に関するNHK・JILPT共同調査」)

 こうした層では、収入も賃上げなどで名目上は上昇しているが、物価を考慮した実質賃金はマイナスになっており、この物価高のダメージは所得の低い層同様に大きいのである。

政府は何をしようとしているか

政府は物価高への対策として、ガソリン補助金の期限を年末まで延長したほか、輸入小麦を製粉会社などに売り渡す価格を10月以降も現在の水準に据え置く措置を講じた。また、住民税非課税の低所得世帯を対象に1世帯あたり5万円を給付する対策を打ち出した。

 これらはもちろん大切な対策だが、時限が定められていたり、一度きりの給付であったりして、持続した措置の点では懸念がある。給付金に関しては、40~50歳代のやりくりに苦しむ世帯には及ばない。先を見通しつつ、細かい配慮に基づく対応を求めたい。

 

☆ 民間給与実態統計調査(令和3年分)、国税庁、2022年9月 
  暮らしと意識に関するNHK・JILPT同調査、労働政策研究・研修機構、2022年9月

 

 

 


個人寄付は定着するのか

2022年08月12日 | お金

個人寄付は定着するのか

 

 日本では寄付は定着しないと永らく言われてきた。しかし現在進行中のウクライナにおける戦争を巡っては、非常に多くの人が義援金などの寄付をおこなっていることが明らかになっている。寄付は、今後人々の生活に定着していくのだろうか。

 

 日本赤十字社がこのほど、『ウクライナ人道危機と支援に関する調査(2022年)』とする調査を実施した。この2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻以降、日本赤十字社は緊急支援に取り組んでおり、この活動について全国1200人対象に調査をおこなったものである。

 この結果によると、個人として何らかのウクライナ現地やウクライナ避難民に関する支援をした人は40.3%にのぼる。そして寄付や募金をした人は31.1%にもなる。

 ウクライナへの軍事侵攻を巡っては、連日マスコミ報道のメインとして取り上げられ、市民を巻き込む戦争の悲惨な事実が次々に明らかになるなど、一般的な関心もかなり高くなっていた。これに対して、個人として何らかの支援をしたいと考える人々が多くなったことが考えられるが、約4割の人々が実際に募金などのアクションをおこなったということは、とても大きな意味を持つ。これには、日常的な様々な場所で手軽に募金などの寄付をおこなえる場所が増えたことも背景にはある。

 

 寄付白書2021(日本ファンドレイジング協会)によると、2020年の個人寄付総額は、1兆2126億円となっている。もっとも、この中には6725億円のふるさと納税が含まれている。ふるさと納税も寄付の一形態である。これを除くと約5400億円となる。いずれにしてもここ数年寄付額は増え続けており、2020年は過去最高の寄付額だった。

東日本大震災のあった2011年は、震災寄付が約5000億円あり、その他個人寄付を合わせて1兆182億円であった。ちなみに、ふるさと納税は2008年より始まっており、2011年時点では約650億円の寄付額で、今よりは大分少ない金額であった。

 こうしてみると個人寄付総額の増加は、ふるさと納税の寄付総額の伸長による部分が大きく、2018年にはふるさと納税だけで5000億円に達している。また、大きな災害や戦争の有無によって、寄付金額が左右されることも事実である。その意味で、2022年はウクライナ問題での寄付が大きく増えることにつながってくるのであろう。

 しかし、そうした要因を除いても個人による寄付額は増加傾向にあり、様々な寄付のあり方が広がっている。個人的には税制的優遇措置の拡大を含めて、寄付の文化をより豊かにしていく方向を目指すべきだと考える。

 


家計の値上げ許容度は既にない

2022年07月29日 | お金

家計の値上げ許容度は既にない

 

値上げに耐えられる家計か?

 6月に日本銀行の黒田総裁は、「企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」、そして「強制貯蓄の存在等により、日本の家計が値上げを受け容れている」と発言した。

 ご承知の通り、世の中は商品価格の値上げラッシュが続いており、同一商品でも何度目かの値上げをせざるを得ない状況が発生しており、この潮流はまだ続くと見られる。しかし、国民の多くはこの値上げを受け容れていくことが出来るのであろうか。

 確かにコロナ禍の中で、収入に大きな影響がなく、旅行などの使い道がなく、止むなく貯蓄にまわっているお金があることは事実である。また子育て世代には、2020年の特別定額給付金に続き、2021年にも子育て世帯臨時特例給付金も支給され、預金にまわった部分も多かったと見られる。高齢者でも住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金が支給された人たちも存在する。

 一方、主にサービス業などに従事する非正規職員を世帯主とする世帯では、定期収入の減少が発生しており、日常生活にさえ窮する人たちが多く発生し、預金どころでは無かった世帯も多く発生していた。

 このように日本全体でみれば確かに預貯金は増大したが、誰もが値上げを吸収できる「余力」があるわけではないのである。

 

高齢者の家計の実態

 この値上げの生活へのダメージを、高齢者(65歳以上が世帯主になっている世帯)を中心に観ていくことにしよう(総務省の家計調査2021年二人以上の高齢者のいる世帯の家計収支)。

 現在は多くの世帯主が基礎年金を65歳から支給開始しようとしており、それまでの期間仕事に従事する人が大半となってきている。今後70歳まで就業し続ける人も増えると考えられるが、今のところ65歳以上の多くの人が無職世帯となっている(もちろん働き続けている人も存在する)。

 さて65歳以上世帯主の無職世帯の平均月収は、約24万円あまりとなっている。内訳としては、やはり年金収入が約20万円とほとんどを占めており、アルバイト等での収入が月額3万円程度ある。年収換算では291万円であり、2人で年金受給しているとしても高めの収入水準と考えられる。これに対して、非消費支出(税金や健康保険料など)が約3.2万円となり、残り約21.5万円が月当たりの可処分所得(使うことができるお金)となる。

 一方、消費支出は全体としては約22.7万円となっており、食費約6.9万円、交通・通信約2.6万円、水光熱費約2.1万円が上位で金額の多い項目になっている。これらの費目は、60歳以上、70歳以上だけで見てもあまり金額に大きな差が生じない項目である。この3費目だけで消費支出の約半分をしめてしまう。特に食費の構成比だけでも30%を越えている(一般的にはエンゲル係数と呼ばれる)。

 これら消費支出の上位費目は、まさに値上げの直撃を受けている項目である。交通・通信費の多くは自動車関係費用が占めており、自動車がないと生活できない実態などもあり、燃料代のウエイトは元々高い。水光熱費は電気・ガス代のいずれも大幅上昇が続いている。食費とエネルギー関連費用だけで、1家庭6万円以上の値上がり額となるという試算もあり、これらの生活への影響は無視できない。

また金額的に大きくはないが、家事用品や衣類にも値上げの波が及んでおり、これらでの値上げも生活に影響を及ぼす。

 

値上げ許容度は既にない

 さて、上記の65歳以上世帯主の無職世帯の月次収支は、可処分所得21.5万円に対して消費支出22.7万であり、実質は約1.2万円の赤字である。つまり支出が収入を上回っており、年間で14万円あまりの赤字になっている。赤字の分は、預貯金を取り崩す事になっているのである。そして、この赤字額は、60歳以上よりも、65歳以上、そして70歳以上と赤字額は減少する傾向にある。つまり収入なりの生活を組み立てる態勢が年を経るに従って整備されていくことになっている。

これが、2018年当時の家計調査は、月額約5.5万円の赤字となっていた。この数字がいわゆる「2000万円問題」の論拠として挙げられており、毎月5.5万円の赤字額を30年間続けると合計2000万円になるというものであった。2021年の数字を元にすれば、合計432万円程度で済むことになってしまう。

 一方、2018年当時の消費支出は、主要費目は食費:6.9万円、交通・通信:2.6万円、水光熱費:2.1万円であり、3年間変わっていない。これが2022年大きく変わってしまうのは厳然たる事実である。つまり消費支出の増大は避けられない事態である。これに対して、高齢者世帯の年金収入は2022年は対前年比0.4%の減少となることが確定・実施されており、収入が減少して、支出が増加することが避けがたく発生しつつある。

 つまり高齢者世帯では、「値上げ許容度は既にない」と言って間違えない。

 

必要な社会施策

 社会問題として、この「生活苦」につながる社会状況に対して、政策的措置が講ぜられる必要性は言うまでもないが、その時に高齢者向け施策だけが優先されることは避けるべきだ。今回の値上げラッシュは、一人親世帯など社会的に弱い立場の人たちにも深刻な影響を及ぼす。高齢者を含む低所得者への施策として具体化を図ることがどうしても必要だ。一般的な高齢者向けバラマキ施策は厳に慎むべきである。