さくらの丘

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年金支給繰り下げは結局得になるのか? (下)

2021年06月25日 | ライフプラン

年金支給繰り下げは結局得になるのか? (下)

最終回は、実際に受け取れる年金額 

 実際には、受給開始後何年間年金を受給し続けられるかが課題である。

 国の統計で「平均余命」という概念がある。これは、ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値を統計的に表したものである。現時点での最新版は2019年時点のもので、主な平均余命は次の通りである。

 

その時点の年齢                 男性                     女性

65歳                              19.83年               24.63年

70歳                              15.96年               20.21年

75歳                              12.41年               15.97年

 

 この数字を先の受給できる金額で計算すると、いわば生涯で受け取ることが期待できる年金額となる(毎年の受給額に変化がないことを前提にする)。

 

<夫婦共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

           男性17万1305円 + 女性10万8813円 = 28万118円

 → 生涯受け取り期待額

           男性 4076万3737円 + 女性3216万770円 = 7292万4507

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

           男性24万3253円 + 女性15万4514円 = 39万7767円

 → 生涯受け取り期待額

           男性 4658万7814円 + 女性3747万2735円 = 8406万549

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

           男性31万5201円 + 女性20万216円 = 51万5417円

 → 生涯受け取り期待額

        男性 4693万9732円 + 女性3836万9394円 = 8530万9126

 

<男性片共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

        男性17万1305円 + 女性5万772円 = 22万2077円

 → 生涯受け取り期待額

         男性 4076万3737円 + 女性1500万6172円 = 5576万9909

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

          男性24万3253円 + 女性7万2096円 = 31万5349円

 → 生涯受け取り期待額

          男性 4658万7814円 + 女性1748万4721円 = 6407万2535

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

          男性31万5201円 + 女性9万3420円 = 40万8621円

 → 生涯受け取り期待額

        男性 4693万9732円 + 女性1790万3008円 = 6484万2740

 

<自営業夫婦世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

          男性5万772円 + 女性5万772円 = 10万1544円

 → 生涯受け取り期待額

           男性 1208万1705円 + 女性1500万6172円 = 2708万7877

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

          男性7万2096円 + 女性7万2096円 = 14万4192円

 → 生涯受け取り期待額

          男性 1380万7825円 + 女性1748万4721円 = 3129万2546

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

          男性9万3420円 + 女性9万3420円 = 18万6840円

 → 生涯受け取り期待額

          男性 1391万2106円 + 女性1790万3008円 = 3181万5114

 

 いかがだろうか?

 このシミュレーションでは、いずれも65歳受給開始から繰り下げし、70歳からの受給開始では一定の効果があるものの、75歳からの受給開始では受け取り期待額がさほど上がらず、支給繰り下げ効果は薄いという結果になった。あくまで平均余命を元に計算した金額なので、平均余命より長生きすれば、より多くの年金を受けることができる。一方、仮に75歳まで繰り下げして、76歳で不幸にも亡くなってしまうと、受け取れる金額は大変少なくなってしまう(遺族年金受給の場合は、65歳時よりも増えるが)。

 

 実際には、自分が幾つまで生き続ける自信があるのか、またはその時の家計状況により、何歳から受給すべきかは、個別に決めるべきである。

 

この他にも、歳の差夫婦で妻の年齢が若い場合は、歳の差が大きいほど、支給繰り下げが付加年金などの制度が利用できなくなるなどでの問題もあり、注意が必要でもある。

 また、繰り下げは老年基礎年金と老齢厚生年金をそれぞれ個別に繰り下げることも可能なので、ご自身の状況に応じて、実際にシミュレーション計算してみて繰り下げを検討してみることをお薦めする。

 

 


年金支給繰り下げは結局得になるのか? (中)

2021年06月23日 | ライフプラン

繰り下げするとどうなるか?

 さて、ここからが本題。繰り下げることによって、年金受給額が実際にどうなるかを検証しよう。(この後の数字は厚生労働省の2019年度データに基づく)

 

<夫婦共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

              男性17万1305円 + 女性10万8813円 = 28万118円

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

              男性24万3253円 + 女性15万4514円 = 39万7767円

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

              男性31万5201円 + 女性20万216円 = 51万5417円

 

<男性片共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

              男性17万1305円 + 女性5万772円 = 22万2077円

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

              男性24万3253円 + 女性7万2096円 = 31万5349円

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

              男性31万5201円 + 女性9万3420円 = 40万8621円

 

<自営業夫婦世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)

  (65歳受給開始)

              男性5万772円 + 女性5万772円 = 10万1544円

  (繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)

              男性7万2096円 + 女性7万2096円 = 14万4192円

  (繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)

              男性9万3420円 + 女性9万3420円 = 18万6840円

 

 実際には夫婦の年齢差や就業等で様々なパターンがあり、一律に数字を出すことは難しい。送られてくる「ねんきん定期便」を元に試算することをお勧めする。

 これだけ見れば、受給開始を遅らせることにより、受給額が確実に増えるので、お得感がとてもあるように見ることができる。

(下へ続く)


年金支給繰り下げは結局得になるのか? (上)

2021年06月20日 | 福祉


年金繰り下げは結局得になるのか? (上)

 今年4月2日生まれ以降の男性は、ついに厚生年金・共済年金の支給開始が65歳以降となった。ただし厚生年金に加入している女性は、1966年4月1日以前の生まれであれば、誕生日によって特別支給の老齢厚生年金が支給される(共済年金は男女共通なのでなし)。

これにより、65歳前に仕事を退職し年金暮らしを満喫するという姿は、ほぼなくなっていくことになる。既に各企業等の定年延長策が進んでおり、すくなくとも65歳になるまでは働くことが当たり前になっている。このことは、国の家計調査データにも現れており、60~65歳未満の家計収入の中軸は、既に仕事による収入になっている。

 おりしも2020年6月より年金制度改正法(令和2年法律第40号)が公布され、「より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る」ために下記のことがおこなわれることになった。

被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲の拡大
在職中の年金受給の在り方の見直し
受給開始時期の選択肢の拡大
確定拠出年金の加入可能要件の見直し等

避けた方が良い 年金の繰り上げ支給

ここでは、「受給開始時期の選択肢の拡大」を取り上げて、年金受給開始を遅らせることで、得になることがあるのかを検証してみよう。

 「受給開始時期の選択肢の拡大」とは、現在年金の受給(受け取り)は、原則は65歳からであるが、60歳から70歳までの範囲で繰り上げたり、繰り下げたりできるようになっている。これを繰り下げの場合、75歳まで繰り下げることができるという変更である。

 繰り上げに関しては、減額措置が伴い、最大年金受給額が30%減少するとされている(受給開始時期による)。一度繰り上げ受給をしてしまうと、途中で止めることができない、障害年金が受けられない場合があることや、寡婦年金が受給できないなどデメリットが多く、基本的にはお勧めできない。しかし厚生労働省の調査によると65歳未満の10%程度が繰り上げ受給をしているとみられる。年金受給しないと生活できないなど、やむを得ない事情があるとみられるが、なるべく避けたい判断ではある。

 一方、繰り下げについて、繰下げ増額率は1月あたり、プラス0.7%となり、75歳まで繰り下げると最大プラス84%になるとされている(2022年4月1日以降に70歳になる人から適用)。

<中へつづく>

お金の増やし方 ~ 銀行預金編 (後編)

2021年06月13日 | 福祉


定期預金は有利か

 次は定期預金である。ここでも大手都市銀行とは一線を画して、預金金利を高く設定している銀行が存在する。預入期間によって金利が変わってくるところが多いので、注意が必要である。また、預入方式が、単利か複利かによっても、受け取る金額に違いが生じる。さらには、各銀行が年間数回キャンペーンを実施し、特別な金利設定をおこなう場合があるので、各銀行の金利を適宜確認する必要がある。ここでは現時点(2021年5月末現在)での最大金利での比較である(キャンペーン除く)。

東京スター銀行      0.25%(条件あり)
オリックス銀行      0.23%(5年)
あおぞら銀行BANK支店  0.2%(1年)
SBJ銀行         0.2%(5年)
大和ネクスト銀行     0.05%

 オリックス銀行では、5年間で0.23%となる設定がある。仮に100万円を5年間預けた場合、半年ずつ複利計算されるプランなので、5年後の利息受け取りは11,560円(税引き前)となる。単利計算よりは、60円程度と僅かだが、有利とはいえる。

仕組預金は危険!

 ここで注意が必要なのは、定期預金と仕組預金は異なるということ。銀行によっては、仕組預金の予定金利を掲げて、積極的な勧誘をおこなっているが、これはデリバティブ取引というリスクを織り込んだ形態であることを理解する必要がある。仕組預金は、顧客が預けたお金を銀行がデリバティブ取引で運用し、利益を狙うことで高い金利が期待できる仕組みであり、外貨預金や投資信託などとの組み合わせによるリスクが内包されている。元本割れもありうるので、かなり慎重に考える必要がある。個人的にははっきり言ってお勧めはしない種類の形態である。

結局のところ

 超低金利状態の目下では、様々な手を尽くしても、銀行の普通預金&定期預金では、所詮この程度のリターンしか期待できないのが実情である。100万円預けて、1年で2000円程度の手取りなら、家族とラーメンを一度食べに行って終わってしまう程度で終わってしまう。

 これが元手10億円だと、1年で200万円程度の手取りになる計算となる。庶民には全く無関係の話だ。

 最初に戻るが、手っ取り早くお金を増やす最善の活動は、やはり働くことである。コツコツ働いていけば、着実にお金を増やすことができる。不労所得に期待するのは、この超低金利時代庶民には難しい話である。

お金の増やし方 ~ 銀行預金編 ~ (前編)

2021年06月08日 | お金

お金を増やすためには

手っ取り早くお金を増やす最善の活動は、もちろん働くことである。
人生100年時代と言われる昨今、最も重要なことは、結局健康を維持して、働き続けることに尽きる。

 それはそれとして、「お金に働いてもらう」という言葉があるように、お金を増やすことも考えておくのは必要なこと。お金の増やし方は、リスクをどう考えるかで大きな違いが生じる。ある程度のリスクを考慮して投資をおこなうことも方策のひとつとなりうる。一方でリスクを極力回避して組み立てることもある。

 実際には、リスクの程度を加味しながら、リスクのあるもの、比較的リスクの小さいものなど組み合わせて、自分なりのポートフォリオを組んで実施していくのが望ましい。しかしそれには、一定の知識と実践経験を伴うので、いきなりとはいかないのは事実。

いずれ、少しずつ経験を積んで自分なりの投資スタイルを構築して、運用していくことを目指そう。ただし、世の中には、様々な甘言(脅しめいたものも含む)を用いて、投資勧誘する企業・人たちも多いので、それらを安易に信用せず、迷ったら専門家に相談することも大切である。

まずは、銀行預金

 さて、今回は最もリスクが低いと考えられる銀行預金の話。一般的に銀行預金(信用金庫・労働金庫などを含む)は、保護されており、ペイオフとも呼ばれる。2005年4月から、「無利息・要求払い・引き落とし等の決済サービスを提供できる決済用預金」に該当するものは全額保護となり、それ以外の預金等については元本1,000万円とその利息が保護されるということになっている。

つまり銀行ごとに元本1000万円とその利息は、仮にその銀行が破綻しても保護されるということ。1000万円を越える分も、破綻時には一定のルールの下に処理がおこなわれるが、ゼロになってしまう可能性は相当に低い。もちろん破綻さえしなければ、1000万円を越えても問題ないことになる。

 よく聞かれることだが、この1000万円は銀行ごとに設定することができるので、たとえば5つの銀行に1000万円ずつ預ければ、すべての銀行が破綻しても、合計5000万円までは保護される。1927年の金融恐慌時代には、こうした制度がなかったので、全国的な取り付け騒ぎが発生したが、今日はこの点ではリスクはかなり低くなっていると考えられる。

 ここで注意が必要なことは、外貨預金は保護の対象とはならず、1000万円を越える預金と同じ扱いになるということ。外貨預金自体、普通預金とは異なり為替リスクもあるが、こうした預金保護がないことも留意しておく必要がある。また銀行が販売する投資信託も保護の対象外であり、手数料も割高な商品が多く、要注意である。

銀行の選び方で変わる

 このように銀行預金は、リスクがかなり低いが、一方で超低金利時代の今日では、銀行の普通預金に預けていても、一考にお金は増えていかない状況になっている。大手都市銀行の普通預金金利は、年0.001%となっている。これは100万円を1年間預けて、わずか10円の利息しかつかず、ここから税金を引くと8円の受け取りとなってしまうということである。

一方定期預金金利も年0.002%なので、100万円を1年間預けても、税引き後の受け取りは16円である。この程度だと、正直銀行に預けている意味は、日常的な決済口座として活用できる他は、お金を一定安全なところに保管している以上の意味は、ほとんどないと言っても過言ではないと思われる。

 しかし世の中には、大手都市銀行とは一線を画して、預金金利を高く設定して、利用者確保を進めている銀行がある。主にインターネット専業銀行や商業施設との連携を主体にする銀行である。前者は、PayPay銀行(元ジャパンネット銀行)、楽天銀行、ソニー銀行などである。後者は、セブン銀行やローソン銀行である。こうした銀行では、給与振り込みや年金受け取り口座としていることによって金利の優遇を受けることができる制度を設けているところもある。

 ここでは、東京スター銀行を取り上げる。この銀行のスターワン口座(2021年5月末現在)は、給与振り込みか年金受け取りを指定すれば、普通預金金利が通常0.001%のところ、100倍の0.1%になるなどの特典がある。仮に100万円を預けておけば、1,000円(税引き前)を受け取ることができる。

 普通預金金利の上位は、2021年5月現在下記の通り。ちなみに、あおぞら銀行BANK支店の普通預金は、定期預金と金利が同じというちょっと不思議な設定になっている。下記以外にも、大手都市銀行よりも高い普通預金金利を設定している銀行も存在する。また、各銀行は適宜預金金利を変更しているので、都度確認する必要がある。

あおぞら銀行BANK  支店0.2%
ローソン銀行     最大0.15%(300万円以上)
東京スター銀行    最大0.1%(条件あり)
楽天銀行       最大0.1%(条件あり)
イオン銀行      最大0.1%(条件あり)