年金支給繰り下げは結局得になるのか? (下)
最終回は、実際に受け取れる年金額
実際には、受給開始後何年間年金を受給し続けられるかが課題である。
国の統計で「平均余命」という概念がある。これは、ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値を統計的に表したものである。現時点での最新版は2019年時点のもので、主な平均余命は次の通りである。
その時点の年齢 男性 女性
65歳 19.83年 24.63年
70歳 15.96年 20.21年
75歳 12.41年 15.97年
この数字を先の受給できる金額で計算すると、いわば生涯で受け取ることが期待できる年金額となる(毎年の受給額に変化がないことを前提にする)。
<夫婦共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)
(65歳受給開始)
男性17万1305円 + 女性10万8813円 = 28万118円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4076万3737円 + 女性3216万770円 = 7292万4507円
(繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)
男性24万3253円 + 女性15万4514円 = 39万7767円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4658万7814円 + 女性3747万2735円 = 8406万549円
(繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)
男性31万5201円 + 女性20万216円 = 51万5417円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4693万9732円 + 女性3836万9394円 = 8530万9126円
<男性片共働き世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)
(65歳受給開始)
男性17万1305円 + 女性5万772円 = 22万2077円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4076万3737円 + 女性1500万6172円 = 5576万9909円
(繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)
男性24万3253円 + 女性7万2096円 = 31万5349円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4658万7814円 + 女性1748万4721円 = 6407万2535円
(繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)
男性31万5201円 + 女性9万3420円 = 40万8621円
→ 生涯受け取り期待額
男性 4693万9732円 + 女性1790万3008円 = 6484万2740円
<自営業夫婦世帯> (いずれも65歳以上の平均受給月額、夫婦の場合同一生年月日と仮定)
(65歳受給開始)
男性5万772円 + 女性5万772円 = 10万1544円
→ 生涯受け取り期待額
男性 1208万1705円 + 女性1500万6172円 = 2708万7877円
(繰り下げ:70歳受給開始、42%アップ)
男性7万2096円 + 女性7万2096円 = 14万4192円
→ 生涯受け取り期待額
男性 1380万7825円 + 女性1748万4721円 = 3129万2546円
(繰り下げ:75歳受給開始、84%アップ)
男性9万3420円 + 女性9万3420円 = 18万6840円
→ 生涯受け取り期待額
男性 1391万2106円 + 女性1790万3008円 = 3181万5114円
いかがだろうか?
このシミュレーションでは、いずれも65歳受給開始から繰り下げし、70歳からの受給開始では一定の効果があるものの、75歳からの受給開始では受け取り期待額がさほど上がらず、支給繰り下げ効果は薄いという結果になった。あくまで平均余命を元に計算した金額なので、平均余命より長生きすれば、より多くの年金を受けることができる。一方、仮に75歳まで繰り下げして、76歳で不幸にも亡くなってしまうと、受け取れる金額は大変少なくなってしまう(遺族年金受給の場合は、65歳時よりも増えるが)。
実際には、自分が幾つまで生き続ける自信があるのか、またはその時の家計状況により、何歳から受給すべきかは、個別に決めるべきである。
この他にも、歳の差夫婦で妻の年齢が若い場合は、歳の差が大きいほど、支給繰り下げが付加年金などの制度が利用できなくなるなどでの問題もあり、注意が必要でもある。
また、繰り下げは老年基礎年金と老齢厚生年金をそれぞれ個別に繰り下げることも可能なので、ご自身の状況に応じて、実際にシミュレーション計算してみて繰り下げを検討してみることをお薦めする。