日本人のヘルスリテラシーを上げていくために
私たちの周りには様々な「健康」に関わる情報があふれている。コロナ禍の中でも、免疫力を高めるなどの「情報」により、いくつかの食品の売れ行きが急増したりした。日本人トータルとして、「健康」に関わる関心は高いのは事実だ。
しかし、ヘルスリテラシーの観点では、日本人は諸外国と比較して低い水準に留まっている。そのことが何をもたらしているのであろうか。
ヘルスリテラシーの定義は様々な説があるが、以下が典型的な定義である。
健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの。(中山和弘、2021)
この定義で大切な点が2つある。
1つは、健康についての情報を手に入れるだけではなく、それを自分で理解・活用できる知識や意欲・能力を持つ必要があることである。情報自体は溢れるほど身の回りにあるが、自分で考えたり、調べたりする気持ちや実行力が必要である。
2つめは、そのことを踏まえて、健康維持・向上に向けて自分で判断して、実行していくことを生涯続けていくことである。特に生涯かけて自らの生活の質の維持・向上を目指すことがとても大事になる。例えば介護も人任せではなく、自分自身で決めることである。
さて、このヘルスリテラシーは、ヨーロッパでは個人の能力及び日常生活の様々な場面の困難さを測定する調査手法が開発されており、これに基づき各国での調査がおこなわれている(中山和弘、2022)。調査の結果は50点満点の平均点で現され、最も数値が高かったのはオランダ(37.1点)、次いでアイルランド(35.2点)、ドイツ(34.5点)と続く。アジアでも台湾(34.4点)、マレーシア(32.9点)など高得点の国もある。一方、日本は25.3点で、調査がおこなわれた国の中でダントツに低い点数となっている。日本のヘルスリテラシーは、明らかに低いのである。
代表的な質問で見ると、「気になる病気の症状に関する情報を見つけるのは」『難しい』とする割合は、日本46.1%に対してオランダ7.5%と大きな開きが生じている。また、「メディア(テレビ、インターネット、その他のメディア)から得た病気に関する情報が信頼できるかどうかを判断するのは」『難しい』とする割合は、日本73.2%に対してオランダ47.4%である。他の設問でも『難しい』の割合は、日本が総じて有意に高い回答となっていることが特徴である。病気を含む健康関連の情報が沢山あるものの、適切に相談したり、自分で判断することが苦手な日本人の姿が浮かび上がってくる。
日本のヘルスリテラシーが低い傾向となる要因として、日本のプライマリ・ケアの整備が不十分であることが挙げられている。プライマリ・ケアは、「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」(日本プライマリ・ケア連合学会)とされるが、日本ではまだ一般的ではない。ヨーロッパでは医師の約3分の1が家庭医であると言われるが、日本は残念ながら病院中心の医療体制となっており、すぐに大きな病院を受診することになってしまうケースが多い。身近でもっと相談できる仕組みがないのが実情である。
また、医師と患者の関係でも、「医療を施す」という言葉にある様に、患者は常に受け身になってしまうことが挙げられる。このことが、患者自らが自分の健康状態を考えて、主体的に関わる関係を阻害していると考えられる。
こうしたことが、一人ひとりが自らの健康状態を考えて、情報を集めて、判断していくことを阻害していると思われる。
国の進める地域包括ケアでは、医療と介護の連携を地域レベルで構築して進めていくことが計画されている。既に一部の地域で医療・介護の連携が良い形で進んでいる事例も生まれているが、全体からするとまだ一部に留まっている。
今後は、この医療・介護連携を進めるに当たっては、これらサービスを受ける人たちに寄り添って丁寧な相談を通して、本人の希望や意思を反映して進めることが求められる。そのためにも、ヘルスリテラシー向上に向けた地域の取り組みも重要なキーとなる。子どもからシニア世代まで共通する課題として、ヘルスリテラシーの向上を進めていきたい。
(参考資料)
ヘルスリテラシーとは、中山和弘・田口良子、2021年
日本人のヘルスリテラシーは低い、中山和弘、2022年