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さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

日本人のヘルスリテラシーを上げていくために

2022年08月20日 | 福祉

日本人のヘルスリテラシーを上げていくために

 

  私たちの周りには様々な「健康」に関わる情報があふれている。コロナ禍の中でも、免疫力を高めるなどの「情報」により、いくつかの食品の売れ行きが急増したりした。日本人トータルとして、「健康」に関わる関心は高いのは事実だ。

しかし、ヘルスリテラシーの観点では、日本人は諸外国と比較して低い水準に留まっている。そのことが何をもたらしているのであろうか。

 

 ヘルスリテラシーの定義は様々な説があるが、以下が典型的な定義である。

  健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定をしたりして、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるもの。(中山和弘、2021)

 

 この定義で大切な点が2つある。

 1つは、健康についての情報を手に入れるだけではなく、それを自分で理解・活用できる知識や意欲・能力を持つ必要があることである。情報自体は溢れるほど身の回りにあるが、自分で考えたり、調べたりする気持ちや実行力が必要である。

 2つめは、そのことを踏まえて、健康維持・向上に向けて自分で判断して、実行していくことを生涯続けていくことである。特に生涯かけて自らの生活の質の維持・向上を目指すことがとても大事になる。例えば介護も人任せではなく、自分自身で決めることである。

 

 さて、このヘルスリテラシーは、ヨーロッパでは個人の能力及び日常生活の様々な場面の困難さを測定する調査手法が開発されており、これに基づき各国での調査がおこなわれている(中山和弘、2022)。調査の結果は50点満点の平均点で現され、最も数値が高かったのはオランダ(37.1点)、次いでアイルランド(35.2点)、ドイツ(34.5点)と続く。アジアでも台湾(34.4点)、マレーシア(32.9点)など高得点の国もある。一方、日本は25.3点で、調査がおこなわれた国の中でダントツに低い点数となっている。日本のヘルスリテラシーは、明らかに低いのである。

 代表的な質問で見ると、「気になる病気の症状に関する情報を見つけるのは」『難しい』とする割合は、日本46.1%に対してオランダ7.5%と大きな開きが生じている。また、「メディア(テレビ、インターネット、その他のメディア)から得た病気に関する情報が信頼できるかどうかを判断するのは」『難しい』とする割合は、日本73.2%に対してオランダ47.4%である。他の設問でも『難しい』の割合は、日本が総じて有意に高い回答となっていることが特徴である。病気を含む健康関連の情報が沢山あるものの、適切に相談したり、自分で判断することが苦手な日本人の姿が浮かび上がってくる。

 

 日本のヘルスリテラシーが低い傾向となる要因として、日本のプライマリ・ケアの整備が不十分であることが挙げられている。プライマリ・ケアは、「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」(日本プライマリ・ケア連合学会)とされるが、日本ではまだ一般的ではない。ヨーロッパでは医師の約3分の1が家庭医であると言われるが、日本は残念ながら病院中心の医療体制となっており、すぐに大きな病院を受診することになってしまうケースが多い。身近でもっと相談できる仕組みがないのが実情である。

 また、医師と患者の関係でも、「医療を施す」という言葉にある様に、患者は常に受け身になってしまうことが挙げられる。このことが、患者自らが自分の健康状態を考えて、主体的に関わる関係を阻害していると考えられる。

 こうしたことが、一人ひとりが自らの健康状態を考えて、情報を集めて、判断していくことを阻害していると思われる。

 

 国の進める地域包括ケアでは、医療と介護の連携を地域レベルで構築して進めていくことが計画されている。既に一部の地域で医療・介護の連携が良い形で進んでいる事例も生まれているが、全体からするとまだ一部に留まっている。

 今後は、この医療・介護連携を進めるに当たっては、これらサービスを受ける人たちに寄り添って丁寧な相談を通して、本人の希望や意思を反映して進めることが求められる。そのためにも、ヘルスリテラシー向上に向けた地域の取り組みも重要なキーとなる。子どもからシニア世代まで共通する課題として、ヘルスリテラシーの向上を進めていきたい。

 

(参考資料)

ヘルスリテラシーとは、中山和弘・田口良子、2021年

日本人のヘルスリテラシーは低い、中山和弘、2022年

 

 


終の住処のこと

2022年04月22日 | 福祉

終の住処のこと

 人生残り少なくなると、どこで暮らして最後の時期を迎えるのかと言うことが大切になる。もちろん最後の最後は病院などでお別れになるであろうが、それまでの期間の住まいのことである。

施設に入る?

 歳取ったら、老人ホームに入れば良いと思う人もいるだろうが、事はそんなに簡単ではない。現在、特別養護老人ホームでは、要介護認定3以上でないと事実上入居できず、在宅で介護可能な間は、施設入所しにくい傾向にある。また、一般的には施設入所すると、生活・介護の費用として月に10万円以上必要になるケースが多い。生活保護など生活が苦しい場合は、軽減・免除される。平均的な入所期間は2年程度が多くなっている。それでお迎えが来る場合が多い。

 そうすると施設入所するまでの期間は、在宅で訪問介護を含めて介護支援を受けながら生活をしていく必要がある。

 そうした時に自宅をどうすれば良いのか。例えば65歳から平均年齢の80〜90歳弱まで、どういった住まい方が必要になるであろうか。

 

マイホームでは?

 住み慣れた一軒家のマイホームで過ごす場合は、どうだろう。日常的な買い物や通院に不便はないだろうか。自動車運転免許を返納した後はどうだろか。

 ちなみに筆者の母親は、免許返納後に電動アシストサイクルで買い物と通院をしている。自転車に乗れなくなったら、タクシーを使う様に勧めている。もちろん、ご近所で助けてくださる方がいると、とても心強い。

 

 自宅自体は、在宅で介護を受けられるようになっているだろうか。居住空間やトイレ、お風呂の介助はできるか、車椅子で外から家の中に入ることができるか。チェックポイントはそれなりにある。これはマンションの場合も、同様なので、事前によく確認しておく必要がある。

 自宅のバリアフリー化をすでしてある人も、もう一度確認することをお勧めする。健常者には問題ない小さな段差の存在である。足元が覚束なくなると、大きい段差よりも小さい段差につまずきやすくなる。室内転倒しにくいように配慮しよう。

 廊下のある自宅の場合、廊下の幅を確認しよう。特に廊下を曲がる構造の場合、要注意である。今の工法では、幅90cm以上が推奨されている。

 このようにいくつかのチェックポイントがあるので、それらを確認し、リフォームをしておくことも検討したい。

 

マンションに移住?

 この所、郊外の一軒家から街中のマンションに転居する高齢者も多い。駅前のマンションを購入する人の内、かなりの割合を占めるようになってきている。確かの生活上の利便性が高く、一軒家をリフォーム、または維持管理していく煩雑さを考慮すると考えうる選択肢である。ただし転居に当たり、それまでの自宅を処分して、新たに物件を購入するケースでは、新たに住宅ローンを背負うことになることは極力避けたい。

 また、住み慣れた場所を離れることになり、ご近所付き合いなどそれまでの人のつながりが切れてしまう懸念もある。マンションは、部屋ごとの独立性が高く、生活スタイルが異なると、お隣とは言え、お目にかかる機会が意外に少ない。地域でのつながりがないと、案外孤立している高齢者も多いと言われている。

 

賃貸住宅は?

 最後に賃貸物件に住んでいる場合である。特に高齢のお一人様に多いケースである。シニア対応の賃貸物件があるものの、物件数自体が少なく、入居条件が厳しくなってしまう。

 一般の賃貸物件でバリアフリー化してある物件は少なく、単身者向けはさらに少ない。この場合、エレベーターのあるフロアの部屋、もしくは1階など階段を極力使用しなくても済む部屋が好ましい。階段を登らなくては入れない部屋は先々苦労する。

 そこで、今住んでいるところ以外に転居を検討すると、これにも難題がある。同居家族が居る場合は良いが、お一人様、特に男性の独居は、部屋を貸してくれる大家は多くないのが実情である。これは室内での孤独死を恐れているからである。

 実際、孤立している高齢者が部屋で亡くなり、発見まで時間がかかってしまうと、ゴミ部屋だったりして、契約解除から最終的な部屋のクリーニングまでに相当の時間とお金を要することもある。女性の場合は、男性よりも人のつながりがあり、早い発見に至る場合が多い。

 

 終の住処住処は、人それぞれ。どのような住み方、暮らし方をしていくのか、ぼんやりとしたイメージではなく、具体的に考えておくことが必要だ。


苦しくなる低所得者層の生活(下)

2022年02月05日 | 福祉

苦しくなる低所得者層の生活(下)

 

 この2月から新たに食料品の値上がりが相次いで発表されている。長らくデフレ状態が続いていたこともあり、食料品トータルの価格も抑えられてきたが、昨今の為替、原料価格高などで、値上げに動く商品が目に付く様になってきた。今後各種商品での値上げが出てくるであろうし、さらにドラッグストアで販売されている化粧品・日用品にも及んでくる見通しである。

 前回こうした値上がりが低所得者層に大きな影響を及ぼすことについて触れた。実際に今苦しい生活実態にある人たちの実態に迫る。

 

苦しい生活

 NPO法人グッドネイバーズ・ジャパンがこの程、フードパントリー(食品配布)している一人親家庭対象の調査結果を発表した(首都圏及び近畿圏)。統計的には、日本の一人親家庭の相対的貧困率は50%を越えており、実に2世帯に1世帯が相対的貧困の生活水準になっている。

 回答者(約1000名)の1年間の世帯所得は、100万円未満が約31%、100〜200万円未満が約41%、200〜300万円未満が約21%となる。300万円未満が約93%を占めており、200万円未満では約72%となっている。国の統計では、300万円未満世帯は全体の約10%であり、この回答者がかなり低い収入水準であることが分かる。なお、回答者の就業状況は、非正規雇用(契約・パート・派遣など)が約53%、正規雇用が約26%、その他休職中・休職中などとなっており、不安定な就業状況が大半を占めている。

 この間のコロナ禍で収入面での影響を蒙った人は全体の約25%とされており、圧倒的に非正規労働者の割合が高い。特にサービス業に従事するパート職員の場合、シフト削減などで働ける時間自体が減少してしまい、大幅な収入減少となっている人も多い。

 

食事を削るしかない

 これらの家庭の1ヶ月の食費を聞くと、1〜3万円とする家庭が約50%、3〜5万円とする家庭が約38%となり、1万円以下とする家庭も約3%であった。一方、総務省家計調査によると夫婦のみ世帯の平均的な食費は、概ね6〜7万円程度であり、明らかに少ない食費となっている。一般的に食費は、日常生活に欠かすことができない費目なので、節約が難しく、ある程度の出費にどうしてもなってしまう。仮に月3万円未満の食費であると、1日当たり1000円以下で食費を賄わなければならないので、仮に2人家庭であってもかなりギリギリの水準である。

 この調査では、対象となる子どもの1日の食事が1日3回ではなく、2回となっている割合が約13%となっている。どういうことかというと、朝食を食べずに登校し、昼食を給食で食べて、夕食のみ家庭で摂食する子どもが一定の割合でいるということである(給食は一定の手続きをすれば無償化できることもある)。休日の場合は、さらに1日2食の割合が増加し、4割弱の子どもが1日2食以下となっている。残念ながら、育ち盛りの子ども達の食事にも事欠くことを招かざるを得ない状態に置かれているのである。

 

諦めざるをえないこと

 さらに、過去3年間子どものための事柄で諦めざるを得なかったことについての設問では、「旅行・レジャー」が約8割に及び、「塾など学校外での学習」が6割、「習い事や部活動の道具」が50%弱などとなっている。子どものための出費は、いわば「聖域」として制限をかけることを極力避ける家庭が大半であろうが、止むなく我慢・諦めなくてはいけない実態になっている。

 学習支援は、子ども食堂でも実施している組織・団体が多くあったが、コロナ禍で子ども食堂自体が開催されにくくなっており、学習支援も停滞気味になっているところが残念ながらある。

 

支援の実態は

 それでは、こうした人たちへの支援はどうであろうか。

 憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としている。これに対応する国の施策は、生活保護である。上記調査の回答者には、実際に生活保護受給者も含まれていると考えられる。

 生活保護は「権利」なので、体面など気にせず、実際に困窮している場合は、申請をおこなうべきであるし、実際にこの制度により生活が立ち行かなくなる事態はひとまず回避出来る。

 もうひとつ制度的には、「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法」がある。生活保護との違いは、対象者が「経済的に困窮し最低限度の生活を維持することができなくなるおそれ」のある人と『おそれ』が付いている。この違いは、実際にはかなり微妙で、行政的な判断に委ねられている部分もある。

 具体的な支援は、『自立支援』となり、自立相談支援、住宅確保給付金、就労準備支援、家計改善支援、子どもの学習・生活支援、一時生活支援となっている。要は仕事をして自立した生活ができるような相談と援助をおこないつつ、必要に応じて住宅の確保や活用できる地域資源を紹介することになる。この制度で、食料支援を受ける訳ではなく、グッドネイバーズ・ジャパンのような組織の紹介を受けることができ、また学習支援をおこなっている団体などの紹介を受けることができる。個別にはそれぞれの団体・組織にそれぞれ相談することになる。金銭的給付は、家賃相当額を支給するものに限定される。

 金銭的に困難に直面している場合は、別の支援として「生活福祉資金貸付制度」を利用することになる。総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金がある。また、コロナ禍では、新型コロナウイルス感染症に伴う生活福祉資金(緊急小口資金、総合支援資金)もある。これらは「貸付」なので、給付ではなく原則的には返済を要することになる(コロナ福祉資金は、一定の条件で償還免除になることがある)。

 

コロナ禍の現状

 この間は、生活保護の相談・申請をすると、まず生活困窮者自立支援法の活用を勧められ、資金的にはコロナ福祉資金の利用を勧められる場面が多くなっている。実態的には生活保護水準であると考えられる事例であっても、生活保護受給ができないことは、実態的に生活に窮している人に借金を課すことになる。一時しのぎにはなるものの、返済の心理的圧迫も大きく、具体的な生活改善が図れないと、結局生活保護受給になってしまう懸念も大いにある。

 

 新型コロナウィルス感染症は、実に広範な人々に影響を及ぼしたが、弱い立場の人たちにより深刻な影響を及ぼした。こうした環境下で、日本経済や国民生活が持ち直していない中での物価上昇は、元々弱っている体にむち打つことと同等である。

 グッドネイバーズ・ジャパンのような民間組織のできる範囲も限界はある。アメリカでは、行政がフードバンクを運営して、地域ぐるみで困難にある人々を支える仕組みを作っているところもある。政府・自治体が担うべき役割を認識して、きちんと果たすことを考えるべきである。

 

 

特定非営利活動法人グッドネイバーズ・ジャパン

【アンケート調査】フードバンクを利用するひとり親家庭の生活状況を他の子育て家庭と比較

 

 


苦しくなる低所得者層の生活(上)

2022年01月29日 | 福祉

苦しくなる低所得者層の生活(上)

 

 直近様々な商品の値上げが発表されている。私たちが日常的に使用している商品の多くが雪崩を打つように値上げ発表されている。立て続けにこうした発表があると感覚的にマヒしてしまうが、全て合わせると、着実に家計を圧迫することになる。

 値上げの要因は、原油高、円安、原料価格の高騰、輸送・運搬費用の増大など、商品をめぐるサプライチェーン全体に及んでいる。この動き自体は、強弱はあるものの、全世界的に共通の課題であり、欧米でもインフレが急速に進みつつある。

 こうした動きは、2022年の国民全体の生活に確実に影響を及ぼすが、特に所得の低い層に大きな影響を及ぼすことが深刻に懸念される。この件について2回に分けて紹介をおこなう。

 

着実に上昇している価格

 私たちの生活に密着した商品やサービスの費用が着実に上昇しつつある。2021年トータルで見たときには、前年とほとんど変わっていないが、昨年9月以降消費者物価指数の総合が前年を上回るようになっている。2021年12月時点の主な費目では、食料費が前年同月比2.1%、水光熱費が11.2%と上昇した。また細かい費目でいえばガソリンが22.4%と大幅アップである。家計全体の影響度合いで見ると、水光熱費の影響が最も大きく、次いで食料費となる。食料費は、アップ率が低くとも、元々の費用割合が大きいので、金額的な上昇額が大きくなる。

 全体としては、エネルギーに関わる費用が大幅アップしており、生活を一番圧迫している。水光熱費やガソリン費用は、日常生活で必要に迫られ使用している費目なので、節約しにくい費用である。同様に食料費も、生活を維持する基本なので、外食を抑制するなど以外では節約が難しい費用であり、生活への影響は大きい。こうした節約しにくい費目の上昇は、ほとんどの人々の生活にダイレクトに影響を与えることになる。

 

低所得層に負担が大きい

 この程、みずほリサーチ&テクノロジーが発表した推測によると、2022年の食料・エネルギー価格の上昇に伴う支出増を2022年の負担増とした金額を明らかにした。これによると年収500〜600万円世帯では、食料が2.9万円、エネルギーが2.4万円、合わせて約5.3万円の負担増が見込まれる。これら支出の収入に占める負担率は約22%であり、前年より1%アップとなる。年間5万円の負担増は痛いが、他の支出を削ってやりくりは可能であろう。

 一方、年収1000万円以上の世帯では、食料4.0万円、エネルギー2.7万円、合わせて約6.8万円となり、500万円世帯よりも負担増は増加する。しかし、収入に占める負担率は11.5%であり、前年より0.5%アップとなる。つまり収入自体に占める食料・エネルギーの構成比が元々高くないので、負担額が多少大きくても、その影響度合いは小さいので、それほど気にしなくても済む構造になっている。

 さて、年収300万円以下の低所得者層はどうであろう。食料2.2万円、エネルギー1.9万円、合わせて約4.2万円となり、500万円世帯よりは減少するものの、大きく減ることにはならない。そして収入に占める負担率は約40%で、前年より1.8%もアップしてしまう。この世帯における負担増は、生活にかなり大きな影響を与えてしまう。

元々食料費は、生活に必要不可欠であることから、低所得者層ほど、家計の消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が上がる構造にある。実はエネルギー費用も、同様の傾向となっており、所得が低いから「暖房しない」という選択肢は普通ない。普通に電気・ガス・水道などは使用するのである。

 このように2022年予想される消費負担増は、低所得者層により重くのしかかることになることが予想される。このことは消費税の逆進性と同じで、所得が低いほど負担が重くなる構造で、負担増となる額の重みが全く異なるのである。

 

コロナ禍で既に深刻な状況におかれている

 実は、低所得者層は、この2年間のコロナ禍で最も大きな影響を受けた層である。コロナ禍により収入源となった世帯がおおよそ25%程度いるともされるが、多くは非正規労働で低い収入水準にあった人たちである。元々収入の低い世帯にあっては、収入減少はダイレクトに日常生活に支障を来したのである。そこに2022年は、支出面で物価高による負担増が、さらにのしかかることになる。深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

 次回は、実際の低所得者層の生活実態に迫る。

 

2020年基準消費者物価指数 全国 2021年(令和3年)12月分及び2021年(令和3年)平均(総務省)

必需品の価格上昇で家計に逆進的な負担発生(みずほリサーチ&テクノロジー、2022年1月)

 


ヤングケアラーのこと

2021年11月26日 | 福祉

ヤングケアラーのこと

 

今回は、やや重たい課題となる。

 「ヤングケアラー」という言葉をご存知だろうか。2020年ぐらいからマスコミでも度々取り上げられるテーマとなっている。法的には正式な定義はないものの、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども、とされている。大人の家族が病気や障がい、または介護状態などにあることにより、(18歳未満の)子どもが代わりに家事を担い、大人の看護や兄弟の面倒を見たりし、さらに収入を支えるために労働したりしている状態を指す。18歳以上から30歳までで、同様の環境に置かれている人を「若者ケアラー」とする向きもある。

 こうした状態にある子どもは、勉強に遅れが出たり、進学や就職を諦めたりするケースもあるとされ、また精神衛生的にも追い込まれることが様々な悪影響を及ぼすとも言われている。

 

ヤングケアラーの実態は

 ヤングケアラーは、家庭内のデリケートな問題であることなどから表面化しにくい事柄となっており、その実態調査は難しいとされていた。こうした中、2020年埼玉県が大規模調査を高校2年生(約48,000人)対象に実施し、家族の介護や世話を担った経験がある者が4.1%(2,000人弱)いることが判明した。

 また2021年にかけておこなわれた厚労省の調査は、中学2年・高校2年生を対象に行われ、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生4.1%、定時制高校2年生の8.5%、通信制高校2年生の11%に世話をしている家族のいることが判明した。通信制・定時制高校生に世話をしている割合が際立って、多いのが特徴である。

 このケアをしている男女比は大きな差はないものの、世話している世話の頻度は女性の方が高く、長い時間を費やす傾向にある。

 これらの調査結果からは、中学校・全日制高校の1クラスには1〜2名のヤングケアラーが存在し、定時制・通信制高校ではさらにその割合が多く存在すると言うことである。

 

ヤングケアラーの背景

 実は、ヤングケアラーの存在は以前より知られていた。

 古い映画で恐縮だが、大林宣彦監督の「さびしんぼう」(1985年)で富田靖子さん演ずる主人公の橘百合子は、高校に通いながら父親の看護をおこないつつ、家事をしていた。彼女は、もう1人の主人公の井上ヒロキに対して、自分の一面だけを見ていて欲しいとして、ケアラーとしての自分を見せまいとした。このようにケアラーは、自分自身のことを明らかにすることを避けることが多く、一般的には知られることが少なくなってしまう。

 しかし橘百合子が街で魚を買いに来たときに、魚屋さんは「お父さんの具合は」と声をかけており、少なくとも彼女の住んでいるところの近所の人はその事実を把握していたと考えられる。

 今と以前(1985年と限定しない)で何が違うかというと、地域社会のあり様が変わってしまったことである。地域社会にご近所という人のつながりがあり、病気で臥せっている人がいれば、その存在は何らかご近所の知るところになっていた。そしてご近所で助け合いで援助の手が差し伸べられることがあったりもした。

 もちろん、現在でもこうしたご近所のつながりが維持されている地域は存在する。しかし、地域の自治会に加入しないなどご近所でのつながりが失われている地域も数多く存在する様になってきている。地域の民生委員(児童委員)を誰が務めているのか、知っている人がどれだけいるだろうか。都心のタワマンでは、同じフロアに住んでいる人と顔を合わせたこともない、といったことも存在する。

 現在のヤングケアラーが表面化しにくい要因は、もちろんケアラー本人が明らかにしにくい事情もあるが、ご近所や周囲の人たち、学校の先生・友人との関係が希薄化し、事実上孤立した状態に置かれていることである。

 

ヤングケアラーへの支援

 こうしたことから、ヤングケアラーへの支援の第一歩は、まず周囲の人の「気づき」である。子どもたちの中にヤングケアラーが存在するという認識を共有化した上で、そうした状態にあると思われる子どもと接点を持てる様にしていくことが大切になる。

 もちろん学校は重要なポイントで、教師や生徒の気づきをスクールカウンセラーなどの相談に発展させていくことが必要だ。同時に、(親の)医療・介護・福祉各機関での気づきと連携も重要なファクターになる。また、子ども食堂や学習支援施設などの民間組織での気づきも重要だ。この間、フードドライブなどの実施する食料物資配布などでも、こうしたケースがでてくることもある。

 特に、ケアラー自身は、「大変だが、解決しなければならないこと」と自覚していない場合も多く、丁寧に話をしていく必要がある。

 その後の支援のあり方は、個別ケースにより様々な専門機関に分かれ、または連携して進められていくことが望ましい。つまり、例えば親の病気療養については医療機関、生活保障については福祉機関といったことが考えられる。ケース内容によって、関係する機関も複数に渡り、相互に連携して進めていく必要があり、トータルにコーディネーションする機能もだ強めていく必要がある。そういう意味では、地域包括ケアシステムに位置づけていくことが最も相応しい。ただ福祉関連機関の縦割り意識もなお強く、体制づくりは今後も課題になっていくと思われる。

 

 いわば制度の狭間となるヤングケアラーに対する支援は、「結びつき、つながる、分かち合う」(ヤングケアラーズ・ネットワーク、オーストラリア)から始まっていく。