さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

ヤングケアラーのこと

2021年11月26日 | 福祉

ヤングケアラーのこと

 

今回は、やや重たい課題となる。

 「ヤングケアラー」という言葉をご存知だろうか。2020年ぐらいからマスコミでも度々取り上げられるテーマとなっている。法的には正式な定義はないものの、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども、とされている。大人の家族が病気や障がい、または介護状態などにあることにより、(18歳未満の)子どもが代わりに家事を担い、大人の看護や兄弟の面倒を見たりし、さらに収入を支えるために労働したりしている状態を指す。18歳以上から30歳までで、同様の環境に置かれている人を「若者ケアラー」とする向きもある。

 こうした状態にある子どもは、勉強に遅れが出たり、進学や就職を諦めたりするケースもあるとされ、また精神衛生的にも追い込まれることが様々な悪影響を及ぼすとも言われている。

 

ヤングケアラーの実態は

 ヤングケアラーは、家庭内のデリケートな問題であることなどから表面化しにくい事柄となっており、その実態調査は難しいとされていた。こうした中、2020年埼玉県が大規模調査を高校2年生(約48,000人)対象に実施し、家族の介護や世話を担った経験がある者が4.1%(2,000人弱)いることが判明した。

 また2021年にかけておこなわれた厚労省の調査は、中学2年・高校2年生を対象に行われ、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生4.1%、定時制高校2年生の8.5%、通信制高校2年生の11%に世話をしている家族のいることが判明した。通信制・定時制高校生に世話をしている割合が際立って、多いのが特徴である。

 このケアをしている男女比は大きな差はないものの、世話している世話の頻度は女性の方が高く、長い時間を費やす傾向にある。

 これらの調査結果からは、中学校・全日制高校の1クラスには1〜2名のヤングケアラーが存在し、定時制・通信制高校ではさらにその割合が多く存在すると言うことである。

 

ヤングケアラーの背景

 実は、ヤングケアラーの存在は以前より知られていた。

 古い映画で恐縮だが、大林宣彦監督の「さびしんぼう」(1985年)で富田靖子さん演ずる主人公の橘百合子は、高校に通いながら父親の看護をおこないつつ、家事をしていた。彼女は、もう1人の主人公の井上ヒロキに対して、自分の一面だけを見ていて欲しいとして、ケアラーとしての自分を見せまいとした。このようにケアラーは、自分自身のことを明らかにすることを避けることが多く、一般的には知られることが少なくなってしまう。

 しかし橘百合子が街で魚を買いに来たときに、魚屋さんは「お父さんの具合は」と声をかけており、少なくとも彼女の住んでいるところの近所の人はその事実を把握していたと考えられる。

 今と以前(1985年と限定しない)で何が違うかというと、地域社会のあり様が変わってしまったことである。地域社会にご近所という人のつながりがあり、病気で臥せっている人がいれば、その存在は何らかご近所の知るところになっていた。そしてご近所で助け合いで援助の手が差し伸べられることがあったりもした。

 もちろん、現在でもこうしたご近所のつながりが維持されている地域は存在する。しかし、地域の自治会に加入しないなどご近所でのつながりが失われている地域も数多く存在する様になってきている。地域の民生委員(児童委員)を誰が務めているのか、知っている人がどれだけいるだろうか。都心のタワマンでは、同じフロアに住んでいる人と顔を合わせたこともない、といったことも存在する。

 現在のヤングケアラーが表面化しにくい要因は、もちろんケアラー本人が明らかにしにくい事情もあるが、ご近所や周囲の人たち、学校の先生・友人との関係が希薄化し、事実上孤立した状態に置かれていることである。

 

ヤングケアラーへの支援

 こうしたことから、ヤングケアラーへの支援の第一歩は、まず周囲の人の「気づき」である。子どもたちの中にヤングケアラーが存在するという認識を共有化した上で、そうした状態にあると思われる子どもと接点を持てる様にしていくことが大切になる。

 もちろん学校は重要なポイントで、教師や生徒の気づきをスクールカウンセラーなどの相談に発展させていくことが必要だ。同時に、(親の)医療・介護・福祉各機関での気づきと連携も重要なファクターになる。また、子ども食堂や学習支援施設などの民間組織での気づきも重要だ。この間、フードドライブなどの実施する食料物資配布などでも、こうしたケースがでてくることもある。

 特に、ケアラー自身は、「大変だが、解決しなければならないこと」と自覚していない場合も多く、丁寧に話をしていく必要がある。

 その後の支援のあり方は、個別ケースにより様々な専門機関に分かれ、または連携して進められていくことが望ましい。つまり、例えば親の病気療養については医療機関、生活保障については福祉機関といったことが考えられる。ケース内容によって、関係する機関も複数に渡り、相互に連携して進めていく必要があり、トータルにコーディネーションする機能もだ強めていく必要がある。そういう意味では、地域包括ケアシステムに位置づけていくことが最も相応しい。ただ福祉関連機関の縦割り意識もなお強く、体制づくりは今後も課題になっていくと思われる。

 

 いわば制度の狭間となるヤングケアラーに対する支援は、「結びつき、つながる、分かち合う」(ヤングケアラーズ・ネットワーク、オーストラリア)から始まっていく。


若者層の投資拡大はどうなるか

2021年11月20日 | ライフプラン

若者層の投資拡大はどうなるか

 このコロナ禍の下で、若者層を中心に投資が急速に広がっている。元々中期的に投資をおこなう人口は増加基調にあるのだが、2021年に入ってから証券投資、それもオンライン投資の口座開設が急増している。特に20〜30歳代の株主の増加が著しく、急速に若者層に「投資」が広がっている様である。

 この現象を巡っては、様々な言説があり、若い世代を中心に「投資」が定着し、長期的な投資運用による金融資産づくりが広がっていくとの見方もあるが、実際的には定着しないのではないかとの見方もある。

なぜ投資に向かうのか

 この背景は、長期的には若者層の将来に対する不安の現れがあると、考えられる。特に、長期的な雇用の安定と収入水準低下への懸念や、自分達は年金を受給できるだろうかという年金制度への信頼性の低下など先行きの不透明さ、不安の表明とも受け取れる。とかく「自己責任」が主張され、社会的課題として捉えるよりも、受け身的に自らに状況を理解し、それへの自己防御策を講ずる点にウエイトがかかってしまうことの現れでもある。この世代は、多くは世界的には「ミレニアル世代」とされる人々であるが、日本の場合、少し異なった意識と行動になっていると様々なところで言われている。

 すこし脱線するが、ミレニアル世代の行動として、「FIRE」がちょっとした流行になっているが、アメリカでの原点は、やりたいことを実現するためにFIREするのである。これに対してFIREすることばかりが目的化した議論になっている日本の現状は、少し異質な感じを受けてしまう。

コロナが与えた影響

 さて、こうした背景も踏まえつつ、短期的には若者層がコロナ禍でお金の使い道がなく、消費しない(できない)資金が投資に流れ込んでいることもある。コロナ禍で外出自粛等生活に制限が加わる中で、消費自体が減退し、可処分所得は増加した。2020年は特別定額給付金の支給があり、一定は巣ごもり需要拡大により消費にまわったが、それ以上の金額がストックとして預貯金にまわっていることは統計上からも明らかだ。

 一方で雇用は、正規労働者の多くは雇用維持されたものの、実際に受け取る賃金は残業減などで、若干なりとも減少した人は多い。また非正規労働者を中心に、働く場を奪われるなど、大きな収入減少に直面した人も一定おり、この存在が社会的不安を煽っていたことも事実である。

 こうした中で、コロナ禍で株式市場は一時大きく下落したが、短期間に急速に回復した。この動きが投資意欲をかき立てることにつながり、多少なりとも収入増に結びつけばという想いから、投資に向いていったことが考えられる。

ポイント投資は

 同時に、若者層の投資が増大した要因として、少額の資金で投資をおこなうサービスが各種普及し、投資そのものへの敷居が低くなったことも挙げられる。各証券会社でも、100〜1000円程度の資金から投資可能とする制度を相次いで導入している。またいわゆるポイント投資(各社様々な名称がある)など、共通ポイントを活用しての投資も活発なようだ。こうした投資経験を通して、金融リテラシーが広がり、長期的な投資による資産運用が広がっていくことが期待されている。

 しかしポイント投資などは、せいぜい数千円のポイントを用いて投資をおこなうものなので、本来的な投資スタイルを学習するにはそぐわないなど批判も一定にある。例えば仮に3000円のポイントを年5%で運用すると、1年間の運用益は150円となり、税金を控除すると約120円となる。こうした金額では、まじめに投資を取り組むインセンティブにはなりにくいと言う批判である。この説には一理あると思うが、否定の断言もしにくい。今後の推移を見守った方が良さそうだ。

 

 コロナ禍が山を越えつつあるとの認識が広がりつつある中、若者層の投資意欲は持続するのか、それとも一過性に終わるのか。いずれの選択肢の可能性も現時点では否定できない。筆者としては、若者層の金融リテラシーがこれを契機に広がっていくことが望ましいと思う。