さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

本当に大丈夫か その住宅ローン

2021年10月30日 | ライフプラン

本当に大丈夫か その住宅ローン

 コロナ禍にも関わらず住宅販売が好調だ。首都圏新規分譲マンション市場動向(8月)では、初月契約率73%となり、この間70%を越える月が続いている。価格も平均価格約7500万円、㎡単価約118万円(いずれも前年比約25%アップ)となり、在庫も少ないままである。例えば50㎡のマンションで5900万円となってしまう水準であり、ある程度自己資金を確保しているとしても、4000〜5000万円程度の住宅ローンを組まないと購入できないことになる。

 住宅ローン金利は依然として低いままであり、借入額5000万円を35年変動金利で組むと、月々10万程度、ボーナス時20万円程度といったことも可能ではある。

 しかし35年間このローンを支払い続けることは、本当にできるのだろうか。少し冷静になって考えることも大切だ。特に40歳代以降にこのローンを背負う場合は、返済完了が75歳以降になってしまうので、繰り上げ返済の実施などしっかり計画を立てていく必要がある。                         

 

金利タイプは、変動型が主流だが、それで良いの?

 新規に住宅ローンを利用する際、「変動型」と「固定期間選択型」、「全期間固定型」の3つを選択することができる。「住宅ローン利用者調査」(21年4月調査、住宅金融支援機構)によると、全体の63%が変動型を選択しており、固定期間選択型が21%、全期間固定型が11%となっている。

変動型は、市場の金利動向に関係なく、開始から5年間は返済額が固定され、比較的定額に抑えることができる。しかし、その間に金利が上昇すると、毎月の返済額に占める元本の割合で調整されるため、結果的にはローン完済時期が後ろにずれ込むことになる。つまり金利が上昇すると、返済完了時期が仮に75歳であるとして、結果的に77歳になるということも起こりうることになる。

この点、全期間固定型であれば、市場金利が上昇しても、予め契約した金利が完済まで適用されることになる。つまり金利が上昇した分の差額を金融機関がリスクとして負うことになるので、変動金利より高い金利設定となる。この2つをミックスしたのが、「固定期間選択型となり、2年、3年、5年などの期間を固定にする形式で、固定期間が短いほど金利が低くなる傾向となる。

ここでのポイントは借入期間が短い、借入額が比較的少ない、資金に余裕がある場合は、変動型に相対的なメリットがある。反対に借入期間が長い、借入額が大きい、資金に余裕がない場合は、変動型のリスクが大きくなる可能性がある、ということである。

現在、国際的には市場金利の上昇圧力が強くなっており、長く続いた世界的低金利状態がら上昇に転化することが懸念されている。日本でもインフレ圧力が徐々に強まっており、これまでのような金利水準が維持できるかは不透明だ。

 

実際住宅ローン残高は?

 「家計調査年報」(2020年、総務省)によると、2人以上の世帯の勤労者世帯のうち、持ち家世帯は全体の80%である(世帯主の平均年齢51歳)。この内、住宅ローンの返済をしている世帯(全体の41%、平均年齢46歳)の負債残高(住宅ローン以外も含む)は1763万円となっており、前年から39万円増加している。この負債現在額は、2015年以降増加傾向にある。また、この世帯の貯蓄現在高は1047万円となっている。一方住宅ローン返済のない世帯(全体の39%、平均年齢56歳)の貯蓄現在高は1947万円となっている。

 これを年代別に見ると(全世帯対象)、40歳未満は、貯蓄高678万円に対して、負債現在高2142万円と最も負債高が大きく、次いで40〜49歳が、貯蓄高952万円に対して、負債現在高が1850万円となる。

 つまり若い世代ほど住宅ローンを背負うと、貯蓄よりも負債が大きいという、企業で言えば「債務超過」の状態であり、40歳未満では貯蓄高の3倍以上の負債を負っていることになる。この場合、住宅ローンの返済が滞りなくおこなわれている場合は問題ないが、一旦支払いが滞ると、企業で言う「デフォルト」になってしまう。住宅ローンに関しては、現在こうしたケースに対応する策を用意されており、毎月の返済額を減らして、返済期間を延長するなどの策を講じているものの、長期的に支払い不能になると一括返済を求められることになってしまう。こうなると、手元に必要な資金がある場合を除いて、保有している不動産の売却処分が求められることもある。この際、売却価格がローン残高を下回ってしまうと、最悪自己破産もありうることが懸念される。

 

ライフプランと住宅ローン

 人生で最もお金を必要とするライフイベントとして、「教育」「住宅」「介護」がよく挙げられる。「住宅」に関しては、雇用が安定しており、物価や金利も安定して変化が少なく、人生設計の変化(離婚を含む)が少ない、もしくはないことを前提にして、多くの人が住宅ローンを利用している。しかしこの前提条件は、変わってしまうことは実際にありうる。良い方向に動けば問題ないが、悪い方向に動いてしまうことも考えられ、そうした場合でも対応できるチカラまたは、知恵を持っている事が大切だ。特に、「住宅」と「教育(特に私立学校か大学)」が重なる時が、一番しんどいので、しっかり考えて対応していこう。FPなど専門家の意見を聞くことも良いが、最終的には家族・個人で判断することだ。

 


あなたは自分の年金支給予定額を知っていますか?

2021年10月23日 | お金

あなたは自分の年金支給予定額を知っていますか?

 

平均寿命と定年制度

 新型コロナの感染状況が収まりつつある。100年前のスペイン風邪では3年にわたり人々を繰り返し襲い、甚大な被害を及ぼした。今回も結局2年を超えてしまうことは間違いないところではある。

 さて100年前の日本人の平均寿命をご存知だろうか。時は明治時代、この頃の平均寿命は、何と男性が43歳、女性44歳である。今で言えば、中年に入るぐらいの年齢である。あくまで平均であるため、長生きする人(渋沢栄一:91歳)もいれば、短命の人(坂本龍馬:31歳、江戸時代だが)もいた。日本人の寿命が延びていくのは、時代が昭和に入ってから、さらに1947年ごろから急速に寿命が延び、1951年に男性60歳、女性64歳になった。

 そして2019年時点では、男性81.4歳、女性87.4歳となり、長命化は緩やかだがまだ続いている。明治時代の人よりも、2倍近い時間を生きることができるようになったということである。

 

 定年制度は、明治時代後期(1900年頃)に一部の大企業で始まり、その後各社で取り入れられる様になった。この頃の定年年齢は概ね55歳であり、平均年齢よりも高い年齢設定になっている。長い期間の雇用を確保(労働者を縛る意味もある)するために設けられたという考え方もあり、まさに「終身雇用」であったとも言える。

 翻って現在は、65歳までの就労機会確保が概ね確保され、国は70歳までの就労を積極的に進めようとしている。その意味では終身雇用に近づいているとも言えるが、実際にはそれなくしては、生活を維持できない人も多く存在するのも事実である。

 

 一方、現在は明治時代にはなかった社会保障制度があり、年金制度により、人々は一定年齢以上になると年金を受給できる様になった。現在の年金制度は、一定期間以上の年金保険料を支払っていれば、その期間や金額に応じて、65歳から支給を受けることができる。

 一昔であれば、年金を受け取って、老後時間的にも余裕あり、ゆったりした生活を送ることができる的なイメージがあった。現在はそのような生活イメージは全くなくなり、年金を受給しただけでは、生活を維持できないということも発生し、その後の介護などを考えると一定以上の蓄えを必要とすることになっている。要は年金だけでは足りない人も結構いると言うことだ。

 

あなたは自分の年金支給予定額を知っていますか?

 「みなさんは、ご自身の老齢年金受給見込額は月額でいくらになるか分かりますか?」

60〜74歳でまだ年金受給していないシニア約1000人に聞いた質問に対する答えは、

  はい29%、いいえ71% である。

(「くらしと仕事に関する中高年インターネット調査」(2021年1月実施、年金シニアプラン総合研究機構)

 何と7割以上の人が、自分の年金受給額見込みを知らない答えている。また、配偶者の年金受給見込み額については、さらに多く82%が知らないとしており、本人分以上に意識されていないことになる。

この支給見込み額は、「ねんきん定期便」として、毎年誕生月に個人別に送られてきている。ここに、60歳まで条件変更ない場合の基礎年金+厚生年金の年間支給額見込み(年額)が記載されている。これを知らないと、65歳以降の生活設計の基本ができないので、ぜひご自宅でねんきん定期便を確認してほしい。また、「ねんきんネット」に登録することで、インターネットを通じて、自身の年金記録を確認することができる。

 中には、年金支給額見込み欄に金額が記載されていない人も存在する。これは年金受給資格に達していないことが考えられるので、FPなどの専門家や年金事務所に相談することをお勧めする。また、人によっては「特別支給の老齢厚生年金」や「経過的加算部分」に金額が入ることもあり、この内容はネットで検索するか、専門家に相談しよう。

 

受給開始年齢を自分で決めることが出来ることを知っていますか?

「受給開始年齢は、60~70歳の間で自らの判断で自由に選択できることを知っていますか」

この質問に対する答えは、

  はい75%、いいえ25%  である。

 この質問も基本的な質問であるが、4人に1人がこのことを知らないとしている。通常は65歳からの年金受給だが、これを60歳から繰り上げて受給することができる。しかし年金支給額が繰り上げ月数によって減少するなどマイナス要素が大きいので、一般的にはお薦めしない。一方繰り下げ受給は、来年(2022年4月)以降最大75歳まで繰り下げることができるようになる。1ヶ月単位で繰り下げが可能で0.7%ずつ受給額が増え、75歳まで繰り下げると最大42%増額するとされている。繰り下げも、自身の生活状況や健康を考えながら慎重に決めるべきで、通算受給額で見た場合必ずしも増えない場合もある。よく分からないときは、FPなど専門家に相談しよう。

 

 今女性の就業率が上がり、共働き世帯が中心になっている。夫婦で家計も分担して管理するなど様々なケースがあるが、世帯全体としてマネジメントしていくことが必要であり、将来的な家計マネジメントでは、ぜひ協力して実態把握とプラン作成することをお奨めする。


おススメ 70歳以上も働き続けること (下)

2021年10月14日 | ライフプラン

おススメ 70歳以上も働き続けること

 

4.70歳代の健康状態

 60歳代から70歳台前半のシニアは健康で活動的である。「アクティブ・シニア」という言葉もあり、一般的に「仕事・趣味などに意欲的で、健康意識が高い傾向にある活発な高齢者」とされている。概ね前期高齢者(65~75歳)を指して使われることが多い。この世代を対象として、様々なマーケティング施策も講じられており、一定の人数構成となることから、注目もされている。

 これを数字的にみると、2021年6月時点で介護保険のサービスを受けられる65歳以上の高齢者数は、約3582万人である(介護保険事業状況報告、厚労省、2021年6月)。これに対して65~75歳未満で実際に介護認定(要支援・要介護)を受けて介護サービスを利用している人は、約77万人(4.4%)に過ぎない。介護認定を受けている人の中でも11%であり、この世代はまだまだ元気な世代である。実際、介護認定を受けている世代は、80歳台以降の人たちが中心になっている。

 70歳代になると、体の不具合なども顕在化しがちだが、それをもって寝たきりといった介護状態になってしまうことは少なく、普通に自立した生活を多くの人が送っているのが実態である。ただし、実際に介護を要する状態にならないまでも、加齢により心身が老い衰えた状態であるフレイルやロコモ(「立つ」「歩く」といった機能=移動機能が低下している状態)になってしまうリスクが顕在化しやすいのが、この世代の特徴になっている。

 

5.70歳代でも働くことの大切さ

 つまりこの世代は、心と体を意識的に使って活動することが大切だということである。「家ですることがなくて、何となくテレビを見ている」とか、「出かけるときは車に乗って」といった生活を送っていると、フレイルやロコモ直行便になってしまう危険性がとても高くなってしまう。

 これを防ぐためには、意識的に心と体を使った生活を送る必要がある。スポーツをおこなうことや趣味で出かけることも立派に予防策にはなる。こうした活動が実際に認知症予防に効果のあることには、様々な知見が出されており、今や常識的でもある。こうした活動と共に、実は「仕事」をすることがとても有効であることが明らかになっている。

 仕事をするということは、頭脳と体を使うことになり、例えば通勤で朝夕30分程度歩くことでも健康を維持することができる。そして収入を得ることができれば、なお良いということにならないだろうか。70歳代では経済的不安が低くなる傾向ではあるが、収入が増える分には困ることはないはずだ。

 

6.問題は働く先のこと

 冒頭で述べたように、社会的には今年70歳までの就労機会確保が事業者の努力義務として定められたところであり、まだ70歳までの就労が定着していない段階である。こうした中で、70歳以降も働き続けられる社会環境は、まだ整っていない。

 実際70歳以降でも就労できる機会は、各地のシルバー人材センターに寄せられる求人、もしくは清掃・警備・介護・運転手といった業務に限定されているのが実情である(例外はある)。もっと様々な業種で活躍できる場を作っていくことが望まれる。

 この世代の働き方については、今後様々な検討や実践の積み重ねが必要であるが、自らの心身の健康を維持しつつ、働き甲斐を感じて、収入もえることができる仕事づくりを社会の課題としていく必要がある。従来型の雇用者の枠に留まらない働き方も選択肢の一つになる可能性もある。


おススメ 70歳以上も働き続けること (中)

2021年10月11日 | ライフプラン

おススメ 70歳以上も働き続けること(中)

 

2.シニアの就労状況(続き)

 公的年金の支給開始年齢は65歳からであるが、受給開始年齢を段階的に上げていくための措置として「特別支給の老齢厚生年金」という制度がある。しかし、男性に関しては2021年4月2日以降に60歳になった人から制度の対象外となり、65歳まで年金支給は一切なくなった(女性は2026年より)。これからの世代は、良い悪いは別として65歳までは仕事をしていないと、収入が得られないのである。このため、今後少なくとも65歳までは、非正規で収入が下がったとしても仕事を続けることが、男女とも当然のことになっていく。

 そして国の制度的後押しもあり、今後は70歳まで仕事をする人が確実に増えていくことが見込まれる。このことは、「あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか(60歳以上男女、収入のある仕事をしている人対象)」という質問への回答で見ることができる(内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」令和元年度)。ここでは「働けるうちはいつまでも」を選択する人が最も多く(約37%)、次いで「70歳くらいまで」(約23%)、「75歳くらいまで」(約19%)、「65歳くらいまで」(約12%)となっており、既に70歳くらいまで働くことを念頭に置く人が増えており、それよりもさらに働き続けることも見据えた意向も出てきている。このことには、65歳以降支給される公的年金だけでは、自分の生活の将来の不安を拭えないという思いの反映でもあろう。

 

3.拭えない将来への不安とは

 それでは、この将来への不安とは何であろうか。

この「不安」のほとんどは、「自らと家族の健康と生活、そして介護への不安」と考えられる。「長寿社会において最も不安なこと」、について調べた調査(60歳以上男女対象)では、「健康面(からだの機能の低下等)」が46%と最も多く、「健康面(もの忘れや判断能力の低下等)」の29%が続いている。これらに比べると、「経済面(生活資金の不足等)」は16.9%と低くなっている(ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査、生命保険文化センター、2021年)。

これを年代別にみると、60歳台は総じて「経済面」での不安が強く、「健康面(からだ)」での不安は強くない傾向にある。これが70歳代になると、「経済面」での不安が下がり、「健康面(からだ)」での不安が上昇してくる。そして80歳台以上では、「経済面」での不安はさらに下がり、「健康面(からだ)」での不安が最も高くなる。一方、「健康面(こころ)」は60歳台から90歳台にかけて不安の度合いはほぼ同じ水準である。これは、人は物忘れや判断能力の低下について、一般的な不安は感じるものの、実際には自分事として捉えにくい、また意識的に避けようとしていることの現れだと考えられる。

 この調査では同じ質問を40~59歳男女にもしており、この世代では「経済面」での不安が最大の半数弱となり、次いで「健康面(からだ)」となり、大きな違いが生じている。人生100年時代と言われ、一時期老後の資金2000万円問題などが話題にもなり、社会的に不安を掻き立てられ、必要以上に不安を惹起させられているとも言える。実際の高齢者は、実はそれほど経済面での不安は大きくない実情があり、冷静に見ていく必要がある。

(下に続く)

 


おススメ 70歳以上も働き続けること (上)

2021年10月06日 | ライフプラン

おススメ 70歳以上も働き続けること

 

 こういうタイトルだと、「そんなに長く働かされるのか」という声がすぐに聞こえてきそうだ。確かに「働かされる」のであれば、気持ちの面でも前向きになれず、苦しさが前面に立ってしまう。しかし、筆者は自分で選択して「仕事をする」ことが、様々な点で良いことが多いと考えている。まず第1は、健康を考えてのことである。既に様々な研究によって、「仕事をしている」ことが認知症予防として、優れた効果を発揮していることが明らかになっている。人間やることがある方が、ボケにくいのである。さて、70歳以降も働き続けることを考えてみよう。

 

1.シニア雇用の政策経過

 シニアの就業に関して、国の政策は高年齢者雇用安定法に基づき実施されている。高年齢者雇用安定法は、「少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図ること」を目的としている。2012年改正によって、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保を義務とした。

それがこの4月からの実施となった改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とした。これにより次のいずれかの措置が求められることになった。ただし、対象は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主となるので、少し注意が必要だ。今のところ③を採用する事業者が多いようである。

① 70歳までの定年引き上げ

② 定年制の廃止

③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

 (特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

2.シニアの就労状況

 こうした政策も契機として、65歳以上のシニア世代の就労割合は着実に増加している。労働力人口に占める65歳以上の割合は、2011年8.9%から、2020年13.4%へと上昇し、10年間で338万人の増加である。この期間の労働力総人口の増加が272万人であり、25~44歳世代の労働力人口の減少を補っている(出典:令和3年度版高齢社会白書)。

 これを当該年代の就業率に限ってみると、65~69歳では2011年36.2%から、2020年49.6%へと増加し、70~74歳では、22.8%から32.5%へ増加となっている。既に、約半数の60歳台後半の人たちが、何らかの就業をおこなっている実態がある。また、70歳台前半の3人に一人は就業しているのである。ちなみに60~64歳の就業率は70%を越えており、既に大半の人が仕事をしている。

 ただし仕事をしているとしても60歳以降は、男女とも正規職員ではなく非正規職員として働く人が増加していく。男性では、非正規の割合は、55~59歳では約10%であるが、60~64歳では約47%が、そして65~69歳では約70%が非正規職員として就業している。一方女性では55~59歳で既に約60%が、60~64歳では約75%、65~69歳では約84%が非正規職員として就業している。この世代の女性は、元々正規職員として就業している割合が低いのだが、それが影響して非正規割合は一層高くなっている。このように働き方としては、契約社員・嘱託・パート・アルバイトなどの形態で働く人が増えていき、これに伴い収入も60歳未満の時よりも下がっていく傾向となっていく。

世の中的には、60歳定年を機に起業して、法人経営や個人事業主となる人も一定存在する。こうした人たちは、55~59歳では約19%であるが、60~64歳では約21%が、そして65~69歳では約22%と微増していく。しかし、大勢はやはり雇用される労働者として働くことになっている。

(中へつづく)