さくらの丘

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不動産投資はどうなのか (上)

2022年02月19日 | お金

不動産投資はどうなのか (上)

 

 不動産投資が一種のブームになっている様だ。巷に不動産投資セミナーが溢れており、一種の副業として不動産投資デビューする人もいるように聞く。

 最初に結論を言うと、不動産投資自体は、「投資」として見た場合有望な策の一つであることは間違いない。しかし、中途半端に手を出すものではなく、しっかり勉強した上で臨まないと、思わぬ大きな損失を生み出すことになりかねない。特に現在は住宅価格が高騰しており、期待する様な利回りが確保しにくい状況にある。

 

過熱している不動産

 今不動産関係は、オフィス需要が奮わない中で、住宅関連が過熱している。1月の首都圏の新築マンションの平均価格は6157万円で、1㎡当りの単価は94.7万円となっており、ほぼ100万円になろうとしている。

 東京都区内ではさらに高くなり、例えば、スカイコートプライム大井町(大井町駅徒歩11分)で最も小さいタイプ21.2㎡の販売価格は、2870万円(1㎡当り130万円)である。これより販売価格が高い物件はいくらでもある。

 一方、中古物件も引き続き価格上昇傾向が続いている。昨年12月の首都圏中古マンション価格は4498万円(70㎡換算価格、1㎡当り64.2万円)で8ヶ月連続して上昇している。東京の都心6区に限って言えば、9411万円(1㎡当り134.4万円)であり、一昔前の都心新築価格以上である。

 こうした状況の中、不動産投資物件の価格も明らかに上昇してきており、手頃で利回りの比較的確保できる物件が市場に出回らなくなってきている。投資家の中では、「買いたいと思う物件がとても少ない」といった声や、「条件の良い物件は一瞬で蒸発してしまう(売れてしまうこと)」という声もあちこちで聞く。

 

不動産投資は上手くいくのか

 「サラリーマン大家」と言って会社員として働きつつ、不動産投資に乗り出す人も多い。こうした人が最初におこなう物件として、ワンルームマンション投資がある。これを勧める事業者は数多く、無料セミナーなどで盛んに勧誘をおこなっている。

 こうした事業者の中には、区分マンションの販売手法として、「損益通算によるサラリーマンの所得税還付」をアピールしている事例もある。そのイメージなのか「不動産投資をすると節税になる」という誤った情報も流布されている。こうした事例では、収支自体が最初から「損する」構造なので、何の得にもならない。その上、特に新築物件の場合は最初から物件価格が下がり、続けるほど損失が大きくなる危険を持っている。中古物件の場合も、販売価格自体が周囲の物件よりも明らかに高い価格になっていることがある。不動産投資では絶対におこなってはならないことである。

 こうした中、「投資用マンション・不動産投資の失敗談」に関する調査が発表された。これによると、投資用ワンルームマンション(単身用)を購入したきっかけは次の通りである。Webで自ら検索するなどして、問い合わせしてセミナー等に参加することが契機となったり、営業電話を受けたりしたことが契機となっている人が半数以上である。

  「自ら興味があり問い合わせた」(30.8%)

  「職場に訪問や営業電話(不動産会社からの営業)」(26.0%)

  「友人・知人の紹介」(22.1%)

  「自宅に訪問や電話(不動産会社からの営業)」(20.9%)

 

 そして購入に際して受けた営業トークの内容は、下記の通り。いずれも不動産投資で労せず得られない事柄であり、非現実的な内容と言わざるを得ない。

  「少額の資金で始められる」(48.8%)

  「長期的に安定した不労所得が得られる」(47.0%)

  「節税効果が期待できる」(43.6%)

 

 管理費や修繕積立金、税金など、購入後の将来的な費用についての説明は受けたかという問いに対しては、「かなり詳しく説明を受けた」と回答したのは25.1%と、4人に1人留まる結果となっている。費用面についてきちんと説明せず契約に至ったとすれば、重要事項説明違反の懸念もある。

 そうして、「投資のリスクを理解したうえで購入したか」という質問に「完璧に理解していた」と回答した人は21.7%で、多くの人がしっかりと理解をせずに購入に至っていることが明らかになっている。

 

 こうして不動産投資を開始するわけだが、実際に運用する中で、当初思い描いていた事との大きなギャップに直面することになる。「実際に不動産運用を始めてみて、購入前の想定とのギャップを感じましたか?」との質問に対しては、下記の通り、感じた人が6割を超えており、全く感じていない人は7%に留まる。

  「かなり感じた(26.3%)」

  「少し感じた(38.5%)」

  「あまり感じていない(28.3%)」

  「全く感じていない(6.9%)」

 具体的には、月々利益がほとんど出ない。もしくは、ローン完済するまで利益が望めない。税負担を考慮していなかった。管理費の値上げがあり、一層利益がでなくなった、等の声が出されている。

 

損失が出るケースは

 具体的に損失が出ている原因として、次の様なことが挙げられている。これらは、当初から不動産投資のリスクとして織り込むべき事もあり、いわば「勉強不足」であることも否めない。事業者の営業トークを丸呑みしてしまうと、こういうことが起きてしまう懸念がある。

  「空室状態で収入がない(なかった 時期がある)(39.3%)」

  「修繕費やリフォーム費で支出が多かった(37. 2%)」

  「家賃が下落してしまった(34.0%)」

  「管理費・修繕積立金が値上がりした(31.7%)」

 

 こうなると損失をいかに小さくするかが課題となり、収益回復を目指すことになるが、取り得る方策の幅が限定されてしまう。最後は物件の売却となるが、実際に売却できる金額と購入価格との乖離により、売却を決意できないことも発生する。ここは損失を続けるのか、損失を見切るのかの重大局面であるが、持ち続けて物件価格自体が上昇するケースはかなり限定されると思われる。やはり出血をいかに抑えるかという方策が採られる場合が多くなりそうだ。

 

 このようにサラリーマン大家の不動産投資の多くは、区分所有のマンションを、ローンという借金をしながら収益を追求する仕組みが多く、実際の投資利回りは低くならざるを得ない。その割には、投資金額自体が大きくなるので、損失を抱えると損失額が大きくなってしまう傾向は否めない。

 

 それでは不動産投資はダメなのか?

 結論から言えば、依然として不動産投資は有望な投資方法である。ただし、ほとんどの場合は、楽して多くの利益を得るという考え方自体ないと考えた方が良い。

 それではどうするのか。次へ続く。

 

 

首都圏 新築分譲マンション市場動向 2022年1月 株式会社不動産経済研究所

スカイコートプライム大井町 https://skycourt.co.jp/primeoimachi/top

三大都市圏・主要都市別/中古マンション 70 m²価格月別推移 東京カンテイ

「投資用マンション・不動産投資の失敗談」に関する調査 一般社団法人クレア

 

 


臨時給付金のゆくえ

2022年02月12日 | お金

臨時給付金のゆくえ

 

 12月から18歳以下の子供がいる世帯に1人10 万円を支給する施策が始まった。紆余曲折あり、当初は2段階でクーポンだとか、現金給付だとかあったものの、結局多くは一括現金給付となった。この給付金は、「新型コロナウイルス感染症が長期化し、その影響が様々な人々に及ぶ中、子育て世帯については、我が国の子供たちを力強く支援し、その未来を拓く」ために導入されたものである。18歳以下高校生までの子どもに対して、一人当たり10万円支給するが、養育している者の年収が960万円未満であることが要件となっている。

 正直今ひとつこれを導入した政策的目的ははっきりしないが、選挙の公約となっていた事もあり、成り行きで決まってしまった感が否めない。

 

 コロナ禍での給付金は、2020年夏にかけて給付された特別定額給付金が記憶に新しいが、こちらは全国民対象におこなわれた給付で、普遍的給付と言える。今回子育て層を対象に給付をおこなったが、これの目的は何であろう。子育て層が皆コロナ禍で苦しんでいるとは必ずしも言えない。同時に本当に苦しんでいる人に対して、一人当たり10万円の給付がどの程度役に立つのか。はたまた経済効果を狙った消費誘因策であったのか。

 

給付金の支給が始まった

 先頃2021年12月の総務省家計調査の結果が明らかになった。これによると12月の特別収入が確かに増加しており、特別収入の大幅な増加は2020年の特別定額給付金の支給以来である。

 これにより2人以上・勤労者世帯では、可処分所得(いわゆる手取り収入)が前年比6.7%の上昇となり、消費支出も名目前年比が3.1%増となった。これを持って直ちに臨時給付金の影響と断ずることはできないが、12月の家庭支出は増加したことに間違いない。

 実はこの間コロナ禍により消費自体が落ち込んでくる傾向にあったが、昨年の10月以降一定の感染状況の落ち着きによりやや回復しつつある動向にあった。このことの影響なのか、給付金の影響なのかはもう少し各種調査の結果などを見極める必要がある。

 

本当に消費に使われたのか

 2020年の特別定額給付金の支給では、巣ごもり需要が旺盛に展開されていた時期でもあり、家電や家具などの需要が大きく伸長した。この原資として給付金が活用された面もあった。しかし全体的には、この給付金に限らずとも言えるが、お金の使い道が限定されていたことにより、預貯金に回された資金が多かった。

 

 この点、今回はどうであろう。臨時給付金が支給されたのは実際的には12月末にかけてのことであった。このお正月で消費された分もあったことは想定されるが、むしろお正月明けからの新型コロナ・オミクロン株の流行により、消費自体は再び大きく抑制される方向に動いている。そうすると多くの家庭では、この給付金は再び預貯金に行ってしまう可能性は大いにあると思われる。

 

本当に支援を必要としている人

 コロナ禍も3年目に入り、元々社会的に弱い立場の人たちが、コロナにより一層厳しくなり、様々な社会的問題が表面化した。特にひとり親世帯での生活の困窮実態も多く明らかになっている。こうした世帯にあっては、今回の給付金は確かにありがたいことであるが、給付金だけで目前の解決を図ることができないのが事実である。本当に困っている人たちに対する支援は依然として求められている。

 

 

子育て世帯への臨時給付金の効果~2021年12月「家計調査」のデータから~

 第一生命経済研究所

 

 

 


苦しくなる低所得者層の生活(下)

2022年02月05日 | 福祉

苦しくなる低所得者層の生活(下)

 

 この2月から新たに食料品の値上がりが相次いで発表されている。長らくデフレ状態が続いていたこともあり、食料品トータルの価格も抑えられてきたが、昨今の為替、原料価格高などで、値上げに動く商品が目に付く様になってきた。今後各種商品での値上げが出てくるであろうし、さらにドラッグストアで販売されている化粧品・日用品にも及んでくる見通しである。

 前回こうした値上がりが低所得者層に大きな影響を及ぼすことについて触れた。実際に今苦しい生活実態にある人たちの実態に迫る。

 

苦しい生活

 NPO法人グッドネイバーズ・ジャパンがこの程、フードパントリー(食品配布)している一人親家庭対象の調査結果を発表した(首都圏及び近畿圏)。統計的には、日本の一人親家庭の相対的貧困率は50%を越えており、実に2世帯に1世帯が相対的貧困の生活水準になっている。

 回答者(約1000名)の1年間の世帯所得は、100万円未満が約31%、100〜200万円未満が約41%、200〜300万円未満が約21%となる。300万円未満が約93%を占めており、200万円未満では約72%となっている。国の統計では、300万円未満世帯は全体の約10%であり、この回答者がかなり低い収入水準であることが分かる。なお、回答者の就業状況は、非正規雇用(契約・パート・派遣など)が約53%、正規雇用が約26%、その他休職中・休職中などとなっており、不安定な就業状況が大半を占めている。

 この間のコロナ禍で収入面での影響を蒙った人は全体の約25%とされており、圧倒的に非正規労働者の割合が高い。特にサービス業に従事するパート職員の場合、シフト削減などで働ける時間自体が減少してしまい、大幅な収入減少となっている人も多い。

 

食事を削るしかない

 これらの家庭の1ヶ月の食費を聞くと、1〜3万円とする家庭が約50%、3〜5万円とする家庭が約38%となり、1万円以下とする家庭も約3%であった。一方、総務省家計調査によると夫婦のみ世帯の平均的な食費は、概ね6〜7万円程度であり、明らかに少ない食費となっている。一般的に食費は、日常生活に欠かすことができない費目なので、節約が難しく、ある程度の出費にどうしてもなってしまう。仮に月3万円未満の食費であると、1日当たり1000円以下で食費を賄わなければならないので、仮に2人家庭であってもかなりギリギリの水準である。

 この調査では、対象となる子どもの1日の食事が1日3回ではなく、2回となっている割合が約13%となっている。どういうことかというと、朝食を食べずに登校し、昼食を給食で食べて、夕食のみ家庭で摂食する子どもが一定の割合でいるということである(給食は一定の手続きをすれば無償化できることもある)。休日の場合は、さらに1日2食の割合が増加し、4割弱の子どもが1日2食以下となっている。残念ながら、育ち盛りの子ども達の食事にも事欠くことを招かざるを得ない状態に置かれているのである。

 

諦めざるをえないこと

 さらに、過去3年間子どものための事柄で諦めざるを得なかったことについての設問では、「旅行・レジャー」が約8割に及び、「塾など学校外での学習」が6割、「習い事や部活動の道具」が50%弱などとなっている。子どものための出費は、いわば「聖域」として制限をかけることを極力避ける家庭が大半であろうが、止むなく我慢・諦めなくてはいけない実態になっている。

 学習支援は、子ども食堂でも実施している組織・団体が多くあったが、コロナ禍で子ども食堂自体が開催されにくくなっており、学習支援も停滞気味になっているところが残念ながらある。

 

支援の実態は

 それでは、こうした人たちへの支援はどうであろうか。

 憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としている。これに対応する国の施策は、生活保護である。上記調査の回答者には、実際に生活保護受給者も含まれていると考えられる。

 生活保護は「権利」なので、体面など気にせず、実際に困窮している場合は、申請をおこなうべきであるし、実際にこの制度により生活が立ち行かなくなる事態はひとまず回避出来る。

 もうひとつ制度的には、「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法」がある。生活保護との違いは、対象者が「経済的に困窮し最低限度の生活を維持することができなくなるおそれ」のある人と『おそれ』が付いている。この違いは、実際にはかなり微妙で、行政的な判断に委ねられている部分もある。

 具体的な支援は、『自立支援』となり、自立相談支援、住宅確保給付金、就労準備支援、家計改善支援、子どもの学習・生活支援、一時生活支援となっている。要は仕事をして自立した生活ができるような相談と援助をおこないつつ、必要に応じて住宅の確保や活用できる地域資源を紹介することになる。この制度で、食料支援を受ける訳ではなく、グッドネイバーズ・ジャパンのような組織の紹介を受けることができ、また学習支援をおこなっている団体などの紹介を受けることができる。個別にはそれぞれの団体・組織にそれぞれ相談することになる。金銭的給付は、家賃相当額を支給するものに限定される。

 金銭的に困難に直面している場合は、別の支援として「生活福祉資金貸付制度」を利用することになる。総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金がある。また、コロナ禍では、新型コロナウイルス感染症に伴う生活福祉資金(緊急小口資金、総合支援資金)もある。これらは「貸付」なので、給付ではなく原則的には返済を要することになる(コロナ福祉資金は、一定の条件で償還免除になることがある)。

 

コロナ禍の現状

 この間は、生活保護の相談・申請をすると、まず生活困窮者自立支援法の活用を勧められ、資金的にはコロナ福祉資金の利用を勧められる場面が多くなっている。実態的には生活保護水準であると考えられる事例であっても、生活保護受給ができないことは、実態的に生活に窮している人に借金を課すことになる。一時しのぎにはなるものの、返済の心理的圧迫も大きく、具体的な生活改善が図れないと、結局生活保護受給になってしまう懸念も大いにある。

 

 新型コロナウィルス感染症は、実に広範な人々に影響を及ぼしたが、弱い立場の人たちにより深刻な影響を及ぼした。こうした環境下で、日本経済や国民生活が持ち直していない中での物価上昇は、元々弱っている体にむち打つことと同等である。

 グッドネイバーズ・ジャパンのような民間組織のできる範囲も限界はある。アメリカでは、行政がフードバンクを運営して、地域ぐるみで困難にある人々を支える仕組みを作っているところもある。政府・自治体が担うべき役割を認識して、きちんと果たすことを考えるべきである。

 

 

特定非営利活動法人グッドネイバーズ・ジャパン

【アンケート調査】フードバンクを利用するひとり親家庭の生活状況を他の子育て家庭と比較