特定の層を追い込む物価高騰
物価の高騰が止まらない。8月の消費者物価指数の前年比上昇率は、総合で3%、変動の激しい生鮮食品を除いても2.8%であった。今後10月には食料品関係で過去最高の品目数の値上げが控えており、今年中には生鮮食料品を除いても3%を越えることが見込まれる。欧米諸国の7~8%上昇からすると低い水準であるが、日常生活でも値上がりを実感するようになってきている。食料品以外の多くの商品の値上がりも進んでおり、今年の内には、生活のあらゆる場面で値上がりを感じ取るようになるであろう。
値上がりしているものは
日常生活の多くの品目の値上がりをする中、最も家計に大きな影響を与えているのは、エネルギー価格と食料品価格(生鮮食品を除く)である。円安の進行、ウクライナ戦争などを背景とした資源価格の高騰により、生活に欠かせない品目が値上がりしているのだ。
こうした物価の上昇は、所得の低い世帯に大きな影響を及ぼしている。同時に、40~50歳代のファミリー世帯にも大きな打撃になっている。
低所得者層に大きな影響が
食費やエネルギー費用は、所得に関わらず、世帯人数によって一定の費用がかかる固定費的側面がある。所得が低いからと言って食べない訳にはいかず、冷房も暖房も使用しない、車に乗らない(地域による)生活はありえないのである。このことにより、世帯の消費支出に占める食費とエネルギー費用の割合は、所得が低いほど高くなり、40%程度にもなってしまっている。このように家計で最も影響の大きい費目が値上がりするので、その影響は当然大きくなる。値上がりした分は、収入を増やさない限り、何かを我慢しないとやりくりが出来ないことになる。しかし低所得では実際的にやりくりできる範囲も限定的である。ここで行き詰ると最後は、食費とエネルギー費用の削減に結果的には向いてしまう。実際に困窮世帯では、食事を抜いたり、電気・ガスを止めざるを得ない実態も発生している(現代では携帯電話は最後まで残る社会とのつながりツールとなっている)。
コロナ禍でフードパントリーなどに依拠している世帯は依然として多いが、今後さらに増えていく懸念がある。一方、フードバンク側では、この不況で寄付金・物資が減少しつつあり、需要にどれだけ応えられるかも懸念されている。
ファミリー層にも影響が
ファミリー世帯は、必ずしも低所得世帯ではない。2021年民間給与実態調査統計によると、その平均収入(ボーナス含む、税引き前)は下記の通り。あくまで平均であり、就業している業種・職種でも大きく異なり、正規雇用・非正規雇用の区別もない。
45~49歳 男性:630万円 女性:328万円
50~54歳 男性:664万円 女性:328万円
この金額だけみれば低所得者には当たらず、食費・エネルギー費用の割合は所得の低い世帯よりは低くなる。しかし、この世代は日常のやりくりでは苦労している世帯が多いのである。それは、世帯人数も3~4人となり、食費・エネルギー費用以外の教育費・住宅費のウエイトも高くなっていることに依る。この世代は、まず世帯当たりの食費・エネルギー費用は最大となる。子どもたちも良く食べる世代であり、一人1部屋で冷暖房したりする。そこで人生3大費用と言われる「教育」「住宅」がのしかかってくるのである。つまり収入も多いが、支出も大きいのである。
このことは暮らし向きに関する調査結果でも現れており、「『どちらかと言えば暮らしに余裕はない』と『暮らしに余裕は全くない』の合計は、40代では61.5%、50代では60.7%と、いずれも6割を超え、他の年齢階級より暮らしに余裕はないと感じる者が多いとなっている。」(「暮らしと意識に関するNHK・JILPT共同調査」)
こうした層では、収入も賃上げなどで名目上は上昇しているが、物価を考慮した実質賃金はマイナスになっており、この物価高のダメージは所得の低い層同様に大きいのである。
政府は何をしようとしているか
政府は物価高への対策として、ガソリン補助金の期限を年末まで延長したほか、輸入小麦を製粉会社などに売り渡す価格を10月以降も現在の水準に据え置く措置を講じた。また、住民税非課税の低所得世帯を対象に1世帯あたり5万円を給付する対策を打ち出した。
これらはもちろん大切な対策だが、時限が定められていたり、一度きりの給付であったりして、持続した措置の点では懸念がある。給付金に関しては、40~50歳代のやりくりに苦しむ世帯には及ばない。先を見通しつつ、細かい配慮に基づく対応を求めたい。
☆ 民間給与実態統計調査(令和3年分)、国税庁、2022年9月
暮らしと意識に関するNHK・JILPT同調査、労働政策研究・研修機構、2022年9月