さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

進まない運転免許自主返納 補遺編

2021年09月30日 | 福祉

運転に自信ありますか

 このテーマでここまで書ききれなかったことを追記します。

「高齢者の自動車運転に関する実態と意識」(MS&ADインターリスク総研、2021年)によると、「ご自身の運転には自信がありますか」との質問に対して、60~64歳ではかなり自信ある・ある程度自信あると回答した人が約39%である。これに対して70~74歳では、合わせて約59%が、かなり&ある程度自信があるとしている。さらに80歳以上では、合わせて72%が、かなり&ある程度自信があるとなる。実は年齢が上がるほど、運転に自信があるとする人が増えるのである。同様の質問で、「ヒヤリ・ハットの経験あり・なし」の質問に対する回答は、同じ傾向で年齢が上がるほど「ない」とする回答が増えている。この調査はあくまで本人の回答している内容に基づくので、実際の自信や経験ではない可能性も大いにある(問題あるとは書きたくない気持ちの反映)。

 

サポカー限定免許は

 今各地の自動車教習所は、70歳以上の高齢者対象の「高齢者教習」でにぎわっているそうだ。70歳を超えて免許の更新を迎えると、現在はこの講習を受けなければならない。また75歳以上になると認知機能検査が加わり、認知症であると判断されると免許の停止または取り消しとなってしまう。

 最近判決が確定した池袋で発生した車両暴走事故をきっかけに、事故を未然に防止する手段として、「サポカー限定免許」が2022年に新設される予定になっている。これは、自動ブレーキ機能などを備えた安全運転サポート車に限定した免許である。

 先の調査では、このサポカー限定免許の取得以降について聞いている。サポカー免許取得して運転したいとする人は、60歳未満では30%台であるものの、60歳以上では40%以上の人が取得したいと回答している。サポカー限定免許なしで継続運転したいとする人もなお20%程度いるものの、大勢はサポカー限定免許に前向きである。

 

 このように事故を未然に防ぐことを含め、安心して任せられる方策があれば、それに移行していくことが、可能なことを示していると考えられる。ただ、現状ではサポカー自体の性能が十分とは言えず、これに乗車しているにも関わらず、重大事故を引き起こしている事例もあるとされており、車自体の信頼性は課題である。今後実装が検討される自動運転機能も期待されるものになるのであろうか。


進まない運転免許自主返納 (下)

2021年09月29日 | 福祉

自主返納できない理由は?

 警察庁が2015年に公表した「運転免許証の自主返納に関するアンケート調査(75歳以上の運転継続者対象と自主返納者対象)」という調査がある。最寄りの駅・バス停までの所要時間と運転頻度との関係を聞いており、10分未満の場合、ほぼ毎日の運転頻度割合は、約61%である。これが20分以上になると約67%と上昇する。ここで注意が必要なのは、最寄りの駅・バス停と言っても、1日数本しかないようなものである場合も含まれ、実際的には日常的な利用として期待できないものも多く含まれる事例が、一定以上あると思われることである。

 実際、住んでいる街の人口と運転する割合は、しっかり相関しており、人口が少ない街ほど「ほぼ毎日運転している」割合が増加する。明確な区分けは断定できないが、人口10万人未満の小都市より少ない人口の街で、毎日運転する割合が大きく増える傾向にあるようだ。

 運転の目的については、「買い物のため」とする人が過半数となっており、次いで「家族等の送迎のため」「趣味のため」「車を運転する職業のため」「通勤のため」となっており、多くのは生活そのものを送るために運転を継続していることが分かる。趣味で運転している訳ではなく、必要に迫られて運転をしているのだ。

 運転を継続している人の返納意思は、67%が返納しようと思ったことがないとしており、返納をためらう理由として、「車がないと生活が不便なこと」を68%の人が選択している。自主返納者に対する支援としては、「交通機関の発達」や「交通手段に関する支援の充実」と回答した者が、運転継続者、自主返納者ともに7割を超える。「交通機関」とは、電車・路線バスであり、「交通手段」とは、乗合タクシー、コミュニティバス、タクシーの割引等となっている。

 

 「交通機関の発達」という課題は地方自治体レベルでは、具体的な変化をもたらすことはなかなか難しい。例えば電車やバスの本数を増やすといったことには大きな困難が伴う。このため、自治体毎に乗り合いタクシーや乗り合いバスなどの取り組みが様々におこなわれつつある。しかしこれらも利用者サイドからすると利便性の点で、自家用車で運転して出来ていたこととの落差が大きくなっており、あまり評判がよろしくない。このため、利用者が低迷し、上手くいっている地域は多くない。

 そのような中で、現在注目を集めているのが、愛知県豊明市の「チョイソコとよあけ」である。これは元々豊明市とアイシン精機(株)が協働で実施する、デマンド型乗り合い送迎サービスである。8人乗りのワゴンを用いて、1回200円で乗車できる仕組みになっている。現在は、複数の地域で「チョイソコ」が広がりつつある。

  https://www.choisoko.jp/toyoake/

  https://ligare.news/story/aisin-choisoko_gifu/

 

求められる社会政策

 「ずっと運転していくのは不安だし、怖い」と思っている高齢者は多い。だから免許の返納を考えるが、現在の生活を維持できなくなってしまう、という懸念から、返納を踏み切ることができないというのが実情であろう。若干の不便さが受け入れられるとしたら、どの範囲なのか、それをどう社会的に実現していくのか。もはや個人の問題と出来ない課題である。

 今回は海外での事例を割愛したが、いずれ海外での実践事例についても触れてみたい。

(近日、続きを掲載予定)


自動車運転免許自主返納できますか? (上)

2021年09月23日 | ライフプラン

自動車運転免許自主返納できますか?(上)

 

 普段何も考えずに便利な手段として使用している自家用車。日々、通勤に使用している人もいるだろうし、子どもたちの送り迎え、買い物など日常生活に密着しており、車なしの日常生活を考えられない人も多い。

 しかし高齢者の運転能力低下により、交通事故が起きており、中には重大事故も発生している。政府・自治体は、高齢者の運転免許証返納の働きかけをおこなっている。この自主返納をすると、「運転経歴証明書」の交付を受けることができ、これを所持していると様々な特典が受けられることになっている。

 筆者の母親は、79歳で免許の自主返納をした。私を含めて子どもたちが再三にわたり返納を促して、やっとのことであった。

しかし、必ずしも高齢者の運転免許自主返納が進んでいるとは言えないのが実情だ。その理由を見ていくと、単純に運転免許証を返上してしまうことができない事情が浮かび上がってくる。

 

高齢者運転の実態は?

 「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(生命保険文化センター、2021年6月)によると、60歳以上の高齢者の55%が自動車を運転するとしており、これを男性に限れば73%となり、大半の高齢者が自動車を運転している。年齢別には、60歳代の高齢者の70〜77%が運転をしており、70歳代前半で59%である。これが75〜79歳になると47%と半数以下になり、80〜84歳で32%、85〜89歳で19%、90歳以上でも11%が運転している。

 運転頻度について言えば、ほとんど毎日運転するのは、非高齢者中年世代の場合は、概ね27〜28%である。ところが60歳以上の高齢者になると、一気に運転頻度が上昇して、60〜64歳で51%、65〜69歳で44%がほとんど毎日運転している。週に2〜3回運転するとしている人を含めると60%以上の人が日常的に運転をしている実態が浮かび上がる。中年世代は、日常的には仕事に出かけているので、毎日運転はしない人も多く、週1回または月1回程度の運転になっている。一方、高齢者の場合時間的余裕もできる一方、必要な外出の機会が増えてくるものと考えられる。

 

 現代の高齢者の健康状態を考えると、75歳未満は概ね活発に活動もしておりIADL(手段的日常生活動作)・ADL(日常生活動作)的にも問題は少なく、自動車の運転に支障の出る割合は低いと考えられる(個人差はある)。一方、75歳を越えるぐらいから、様々な支障が発生する可能性があり、自動車運転に関して細かい気を遣う必要が出てくる。

 週に2〜3回運転を含めると、75〜79歳では約40%、80〜84歳でも29%が日常的に運転している実態が浮かび上がる。なお、これを男性に限るとさらに運転割合が高くなることが予想されるが、そのデータは明らかになっていない。

 

 この調査では、免許証の返納意思についても聞いており、「特に決めていない」が約46%、「自主返納する心づもりがあるが、返納時期は決めていない」が41%となっている。男性の方が、「特に決めていない」を選択する割合が高い。

 年代別には、60歳代は、「特に決めていない」を選択する人が大半である。一方70歳代では「自主返納する心づもりがあるが、返納時期は決めていない」を選択する人が約半数である。また、75歳以上になると、1〜3年以内に自主返納する、もしくは次回更新時に失効させるとの項目をチェックする人が増えてくる。85歳以上でも自主返納を、特に決めていないとする人も26%程度存在する。

 実際に免許の返納を考えると、今すぐとは言えず、かといってずっと運転し続けることはできない、という思いとの間で、揺れ動く高齢者たちの姿が浮かび上がってくる。

(下へ続く)

 


コロナが引き下げた生活満足度

2021年09月17日 | ライフプラン

コロナが引き下げた生活満足度

東京圏の満足度が急降下

 世の中には、様々な尺度で順位付けをおこなうことが一種の流行になっている。「住みたい街ランキング」のようなものだ。ちなみに2021年関東住みたい街ランキングの1位は、「横浜」で4年連続トップということである。

 同様のランキングで、都道府県『生活満足度』ランキングがある。これは、ブランド総合研究所が2020年6月に行った「住民視点で地域の課題を明らかにする『都道府県SDGs調査2020』」によるもので、コロナ禍の生活実態を反映している。これによるとトップは、沖縄県で前年の25位から大幅上昇である。以下、福岡県、香川県、石川県、鳥取県と続く。これらの特徴は、福岡県を別として大都会及びその周辺都市が含まれないところが、上位に来ていることである。一方、首都圏では、埼玉県2→14位、東京都16→20位、千葉県1→26位、神奈川県5→31位といずれもダウンとなっており、千葉県・神奈川県の凋落振りは顕著である。この要因は、言わずもがな新型コロナである。

 「満足度・生活の質に関する調査報告書 2021」(総務省、9月)によると、「2021年3月の生活満足度は5.74となり、1年前から0.09低下した。特に女性は生活 満足度が0.12低下している。」としており、全国的に生活満足度の低下が見られ、特に女性に強く現れている。

 地域別の満足度では、地方圏・三大都市圏・東京圏で区分けすると、いずれの地域も満足度は低下しているものの、特に東京圏での満足度低下が著しく、元々地方圏よりも高かった満足度がこれを下回る最低となった。

 この数字に、東京圏など都市部の新型コロナ感染者数を対比させると、やはり生活満足度が下がっている都府県と感染者数は相関が見られる。これには、東京圏の4都県だけではなく、大阪府や沖縄県も含まれる。つまり、新型コロナの新規感染者数が多い地域での生活満足度が、下がっているのである。感染リスクに怯えながら暮らしていくことでのストレスなどから、生活満足度の低下を招いていると考えられる。

 

女性に強く影響した生活満足度の低下

 先の調査では、生活満足度を詳細に見るために13項目に分けて満足度を見ている。これによると満足度の上がった項目は、「家計と資産」「子育てのしやすさ」「雇用環境と賃金」「政府・行政・裁判所への信頼性」「身の回りの安全」「自然環境」などである。一方、満足度の下がった項目は、「生活の楽しさ・面白さ」「社会とのつながり」「生活(総合満足度)」「健康状態」となっている。

 満足度の高い項目で言えば、「家計と資産」は、収入的には2020年は一人当たり10万円の特別定額給付金があり、支出的にはレジャー費用や交通費などがコロナ禍で抑制されたことにより、預貯金が増えていることが背景にある。

 ここまでの結果は男女総合の傾向であり、これを女性に限って変化を見ると、また違った様相になる。例えば「生活の楽しさ・面白さ」の項目では、男性は僅かながら満足度が高いものの、一転して女性の満足度はかなり低くなっている。同様に、「社会とのつながり」「健康」の女性における満足度が低く、「生活(総合満足度)」も低い結果となっている。

 また「困っている」という点については、「コロナに関係する感染不安や心理的ストレス」「友人・知人との交流が減ったこと」では、女性の非常に困っている・ある程度困っているの割合が、明らかに女性の方が高い結果となっている。感染不安などの心理的ストレスに関しては、他の調査でも女性の方がより強くストレスを持っていることが報告されており、子どもを含めた家族の感染等への不安を募らせていることが伺われる。

 「社会とのつながり」は人とのつながりとも考えられ、感染防止の観点から友だちなどと会うことも抑制されていることが、元々他者との関係性の幅が広い女性で、強く満足度を下げることにつながったと考えられる。一方、SNS利用に関しても、元々女性の方が活発に利用する傾向にあるが、この調査によるとSNS利用の増加が、必ずしも生活満足度の向上には結びついていない結果となっており、一方SNS利用の減少は、顕著な生活満足度の低下に結びついている。

 

 このようにコロナ禍は、表面的事柄だけでなく、生活の様々な側面、そして私達自身に大きな影響を及ぼしつつある。現在は新規感染者数も一時の急増状態を脱しつつある状態で、8月時点の恐怖感は多少なりとも収まってきていると考えられる。しかし、まだ感染に怯えなくても良い状態を見通すことはできていない。また、コロナ後には、元に戻るのであろうか。もう元には戻らないという言説もある。

 人々の幸福度は常に変化するものであるが、先行きの明るさが必要だ。

 


元気なシニアのスマホ使用実態

2021年09月11日 | 福祉

元気なシニアのスマホ使用実態

 

 インターネットはもはや私たちの生活になくてはならないインフラとなっている。事実、13歳から69歳までの全世代で、利用率は90%を既に越えるようになっている(情報通信白書、令和2年版)。使用されているインターネット利用端末は、スマホが最も多く、次いでパソコン、タブレットとなっている。

 例えば今年大学に入学した学生は、小学校1年生の時にiPhoneの日本発売が始まったのであり、物心ついた時からデジタル機器に接して成長してきている。まさにデジタルネイティブであり、生活のすべてに「デジタル」が染みついている。

 一方シニアはどうであろうか。実は、シニア層でのインターネット利用も着実に増えている。70~79歳までの利用率は、2019年に74%に達し、80歳以上でも57%となっている。これを見ると団塊の世代はかなりインターネットの利用が進んでいるとみられる。確かに筆者の知り合いの70代シニアは、それなりにスマホやPCをある程度使いこなしているようだ。

 全体的には、75歳を越える後期高齢者になるぐらいから、IADL(手段的日常生活動作)の減退が見られ、だんだん面倒になってしまい、インターネットを使用しなくなってしまうことは肯ける傾向ではある。その意味で、75歳未満の元気なシニアは、それなりにインターネットやスマホを使いこなしているとみて良さそうだ。

 

 しかし70歳以上のシニアが、例えばスマホで何をしているのかを調べた調査はあまりなく、その実態はなかなか分かりにくい。例外的に国の調べた調査で、SNSの利用状況では、70歳以上、80歳以上のいずれの世代でも40%を越える利用状況になっている。特に80歳以上の利用状況は、筆者的にとっては、にわかには信じがたい数字ではある。

 「シニアの生活意識調査2021(ソニー生命)」では、シニアのスマホ使用実態を調査している。ただしこの調査は、回答者は50~70歳代の男女で、半数は50歳台となっているので、注意が必要となっている。

 この調査によると、スマホでおこなっていることの第1位は、「通話」と「メール」で70%を越えている。次いで、「インターネット検索」、「ニュース閲覧」、「天気予報チェック」でいずれも50%以上である。この後に「メッセージアプリ」、「写真撮影」、「地図を見る」、「電卓」、「時間確認」と続いていく。SNSは、全体では約49%であるが、女性の利用割合が56%と有意に高く、電話・メールに次ぐ利用になっている。また、写真撮影や電卓・時間確認も、女性の方が使用割合は高くなっている。女性の方がスマホを使いこなしているのかもしれない。

 こうしてみると、電話・メール・SNSという連絡手段の使用が中心となっていることが浮かび上がってくる。またスマホで基本的に装備されているオーソドックスなアプリの利用頻度が高いことが伺える。若者世代のスマホの使い方とは、性格的に異なる傾向にあることは間違いない様だ。

 今後もシニア世代のインターネット利用、そしてスマホ利用が広がっていく中で、こうした人たちにフィットしたアプリや使用方法も、広がり作っていく必要がありそうだ。