さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

家計の値上げ許容度は既にない

2022年07月29日 | お金

家計の値上げ許容度は既にない

 

値上げに耐えられる家計か?

 6月に日本銀行の黒田総裁は、「企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」、そして「強制貯蓄の存在等により、日本の家計が値上げを受け容れている」と発言した。

 ご承知の通り、世の中は商品価格の値上げラッシュが続いており、同一商品でも何度目かの値上げをせざるを得ない状況が発生しており、この潮流はまだ続くと見られる。しかし、国民の多くはこの値上げを受け容れていくことが出来るのであろうか。

 確かにコロナ禍の中で、収入に大きな影響がなく、旅行などの使い道がなく、止むなく貯蓄にまわっているお金があることは事実である。また子育て世代には、2020年の特別定額給付金に続き、2021年にも子育て世帯臨時特例給付金も支給され、預金にまわった部分も多かったと見られる。高齢者でも住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金が支給された人たちも存在する。

 一方、主にサービス業などに従事する非正規職員を世帯主とする世帯では、定期収入の減少が発生しており、日常生活にさえ窮する人たちが多く発生し、預金どころでは無かった世帯も多く発生していた。

 このように日本全体でみれば確かに預貯金は増大したが、誰もが値上げを吸収できる「余力」があるわけではないのである。

 

高齢者の家計の実態

 この値上げの生活へのダメージを、高齢者(65歳以上が世帯主になっている世帯)を中心に観ていくことにしよう(総務省の家計調査2021年二人以上の高齢者のいる世帯の家計収支)。

 現在は多くの世帯主が基礎年金を65歳から支給開始しようとしており、それまでの期間仕事に従事する人が大半となってきている。今後70歳まで就業し続ける人も増えると考えられるが、今のところ65歳以上の多くの人が無職世帯となっている(もちろん働き続けている人も存在する)。

 さて65歳以上世帯主の無職世帯の平均月収は、約24万円あまりとなっている。内訳としては、やはり年金収入が約20万円とほとんどを占めており、アルバイト等での収入が月額3万円程度ある。年収換算では291万円であり、2人で年金受給しているとしても高めの収入水準と考えられる。これに対して、非消費支出(税金や健康保険料など)が約3.2万円となり、残り約21.5万円が月当たりの可処分所得(使うことができるお金)となる。

 一方、消費支出は全体としては約22.7万円となっており、食費約6.9万円、交通・通信約2.6万円、水光熱費約2.1万円が上位で金額の多い項目になっている。これらの費目は、60歳以上、70歳以上だけで見てもあまり金額に大きな差が生じない項目である。この3費目だけで消費支出の約半分をしめてしまう。特に食費の構成比だけでも30%を越えている(一般的にはエンゲル係数と呼ばれる)。

 これら消費支出の上位費目は、まさに値上げの直撃を受けている項目である。交通・通信費の多くは自動車関係費用が占めており、自動車がないと生活できない実態などもあり、燃料代のウエイトは元々高い。水光熱費は電気・ガス代のいずれも大幅上昇が続いている。食費とエネルギー関連費用だけで、1家庭6万円以上の値上がり額となるという試算もあり、これらの生活への影響は無視できない。

また金額的に大きくはないが、家事用品や衣類にも値上げの波が及んでおり、これらでの値上げも生活に影響を及ぼす。

 

値上げ許容度は既にない

 さて、上記の65歳以上世帯主の無職世帯の月次収支は、可処分所得21.5万円に対して消費支出22.7万であり、実質は約1.2万円の赤字である。つまり支出が収入を上回っており、年間で14万円あまりの赤字になっている。赤字の分は、預貯金を取り崩す事になっているのである。そして、この赤字額は、60歳以上よりも、65歳以上、そして70歳以上と赤字額は減少する傾向にある。つまり収入なりの生活を組み立てる態勢が年を経るに従って整備されていくことになっている。

これが、2018年当時の家計調査は、月額約5.5万円の赤字となっていた。この数字がいわゆる「2000万円問題」の論拠として挙げられており、毎月5.5万円の赤字額を30年間続けると合計2000万円になるというものであった。2021年の数字を元にすれば、合計432万円程度で済むことになってしまう。

 一方、2018年当時の消費支出は、主要費目は食費:6.9万円、交通・通信:2.6万円、水光熱費:2.1万円であり、3年間変わっていない。これが2022年大きく変わってしまうのは厳然たる事実である。つまり消費支出の増大は避けられない事態である。これに対して、高齢者世帯の年金収入は2022年は対前年比0.4%の減少となることが確定・実施されており、収入が減少して、支出が増加することが避けがたく発生しつつある。

 つまり高齢者世帯では、「値上げ許容度は既にない」と言って間違えない。

 

必要な社会施策

 社会問題として、この「生活苦」につながる社会状況に対して、政策的措置が講ぜられる必要性は言うまでもないが、その時に高齢者向け施策だけが優先されることは避けるべきだ。今回の値上げラッシュは、一人親世帯など社会的に弱い立場の人たちにも深刻な影響を及ぼす。高齢者を含む低所得者への施策として具体化を図ることがどうしても必要だ。一般的な高齢者向けバラマキ施策は厳に慎むべきである。

 

 


仕組預金に手を出すな

2022年07月22日 | お金

仕組預金に手を出すな

 

 以前預金について書いた際に、仕組預金について注意を促した。

 

定期預金と仕組預金は異なるということ。銀行によっては、仕組預金の予定金利を掲げて、積極的な勧誘をおこなっているが、これはデリバティブ取引というリスクを織り込んだ形態であることを理解する必要がある。仕組預金は、顧客が預けたお金を銀行がデリバティブ取引で運用し、利益を狙うことで高い金利が期待できる仕組みであり、外貨預金や投資信託などとの組み合わせによるリスクが内包されている。元本割れもありうるので、かなり慎重に考える必要がある。個人的にははっきり言ってお勧めはしない種類の形態である。

 

 このところ金融機関からの案内で、この仕組預金の勧誘が増えている様なので、改めてその危険性について触れることにする。

 直近の為替レートは、日本円は他の通貨に対して全面安となっている。円米ドルの為替レートは、2月1日時点で114.69円であったものが、7月8日時点では136.06円と急速な円安になっている。この水準は1998年10月以来24年ぶりの安値である。

 背景には、世界的なインフレが進行する中、これを抑制するために各国が利上げをおこない、沈静化を図っている状況下で、日本だけが依然として超低金利政策を継続していることがある。急速な円安の進行は、一部輸出企業を除けば、資源など輸入に頼っている日本にとってはマイナス要因が大きく、「悪い円安」とも言われている。日本円と日本経済の価値は落ちる一方である。

 こうした状況もあり、日本の株式市場も年明けから下降線に入っており、この先好転しそうな気配は今のところない。

 

 このように為替レートが大きく変化するタイミングは、良い方向に動けば予想以上の収支を得ることができるが、一方で悪い方向に動くと損失も思わず増大する危険性を秘めている。問題は、こうした上下を予め予測することが困難であることだ。最初から分かっていれば簡単だが、それは出来ないのが実際だ。

 仕組預金の問題は、こうした予測不能のリスクを利用者にすべて被せて、金融機関は何らリスクを負わないことである。金融機関は、利用者が損失を抱えても、利益がちゃんと出る仕組みになっている。

もちろん金融機関のホームページ上などでリスクについての説明はあるが、正直に分かりやすい内容であるとは言いがたい。例えば、利用者の声をホームページ上に掲載している事例もあるが、良かったとの声はあるものの、損失が発生したとの声を掲載しない、または誤解を受ける様な表記になっている。

 金融商品は元々リスクをある程度抱えているものではある。しかし仕組み預金や仕組み債は、デリバティブ取引という複雑な仕組みを導入することで、リスクの度合いを慎重に検討しないと、思わぬ損失が発生してしまう懸念がいつもある。余剰資金でリスクを承知して投資することは投資の基本であるが、複雑な仕組みはリスクの範囲を掴みきれない場合も生じてしまう。こうなると「投資」と言うよりも「投機」である。

 

 安易に目の前に提示される高利回りに振り回されず、冷静に考えてお金の預け先を考えよう。

 

 

 


定年後の働き方と生活

2022年07月10日 | ライフプラン

定年後の働き方と生活

 

 定年後の働き方を皆さん、どう考えていますか?

 定年後の就業に関して、国の政策は高年齢者雇用安定法に基づき実施されている。高年齢者雇用安定法は、2012年改正によって、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保を義務とした。さらに2021年4月からの改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とした。これにより次のいずれかの措置が求められることになった。ただし、対象は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主となるので、少し注意が必要だ。今のところ③を採用する事業者が多いようで、①②を採用する企業は少ないと見られる。

① 70歳までの定年引き上げ

② 定年制の廃止

③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

 これらの施策により、現在は、多くの企業において、定年自体は60歳としながらも、継続雇用制度を設けて、65歳までの雇用を確保しつつ、さらに70歳まで働ける様にしていく制度が整えられつつある段階であろう。一旦60歳定年を契機にして退職して、再就職すると70歳までの雇用は一義的には確保されなくなるので、再雇用を目指す人は増えることになる。そして今後も多くの人は60歳を区切りとして、再雇用による雇用の継続をする選択をしていくことになると考えられる。

 現在公的年金の支給は、ほぼ65歳からとなり(特別支給の老齢厚生年金支給対象者を除く)、60歳以降も生活を維持するために、仕事を続け、収入を得なければならない事情も働く側にある。また65歳になって公的年金を受給することになっても、生活水準を維持して、老後の安定的な生活を考えると、70歳まで働くことを選択せざるを得ないと考える人も多くなっていくことが想像される。

 こうなると60歳で一旦定年した後も、70歳まで働き続けることを自分の中でしっかり考えていくことが必要になってくる。定年後の10年間の働き方は、どのように考えたら良いのだろうか。

 このことは、働く人だけの問題ではなく、雇用者側もしっかり考えて、これからの超少子高齢化社会の中での仕組みを作っていく必要がある。

 

雇用の選択肢

 リクルートワークス研究所の調査(2019年時点)によると、55歳までの就業スタイルは、正規職員(56%)が最も多く、次いでパート・アルバイト、そして契約・派遣職員となっている。

 55歳以降正規職員の割合が大きく減少し始め、60歳時点では正規職員(38%)が一番多いものの、パート・アルバイト、契約・派遣職員の構成比が上昇し、嘱託職員の割合も増えてくる。これが65歳になると、最も多いのはパート・アルバイトとなり、正規職員(20%)は大幅減少し、契約・派遣職員とほぼ同じ水準になってしまう。ちなみに70歳では正規職員は10%である。単純に正規職員を良いものとする訳ではないが、いずれにしても非正規労働者の割合が年齢上昇と共にどんどん進んでいくことになる。

 これまでのところ、65歳までは定年まで勤めていた雇用者での継続雇用(ただし非正規労働者となる場合が多い)となり、仕事の内容含め全く新しい業務に従事する可能性は相対的に低いと思われる。むしろ今までと同じ仕事をしていて、給料だけが下がった、という人も存在する。それでも少なくとも5年間は雇用が維持される可能性が高く、非正規であっても雇用が維持されるケースが多い。

 今後70歳までの雇用維持が社会的課題となっていくが、年金受給額との関係で、働きたいという意欲は強くなっていくと考えられる。既に65歳まで仕事を続ける人が主流になりつつある中、今後は70歳まで働きたいと考える人が増えていくのは間違いない。

 

65歳以上の働き場所と働き方

 一般的に言って70歳代前半までの高齢者は元気な人が多く、とても活発でもある。アクティブシニアという言葉があり、概ね65〜75歳程度の人たちを指している。介護が必要になるのは、多くの人が75歳以上であり、女性の場合はさらに80歳以降の話である。

 そういう意味で、65歳以上であっても働くことについての身体的問題は、全体としては小さいと見られる(もちろん個人差はある)。問題は、65歳以上の仕事内容と働き方である。

 

 60歳定年を迎え、再雇用となった人の多くは、1年単位の契約職員となっている場合が多い。この人が65歳となると多くの場合は、それまでの契約と異なる雇用形態になることが増えていくことが見込まれる。これは同じ契約で6年になると、事実上期限の定めのない雇用契約となってしまうことが背景にある。まだ70歳までの継続雇用の仕組みを整備していない事業者も多いが、70歳までの雇用契約は、それまでよりも賃金水準が下がっていくことも増えると考えられる。年金受給との関係では、年金受給と合わせて月額47万円以下であれば、年金受給が減額されることはない。

 それまでの仕事を離れて、自分で仕事を探す場合はやや難易度が高くなる。それは従事できる職種が限定されていると言うことである。残念ながら、一般的な事務職の募集は少なく、特定のスキルがないと、清掃・警備・福祉・運輸・建設・サービスなど一定の職種に限定されがちになってくる。これらの職種は、総じて労働集約型の業務で収入レベルも高くない傾向にある。今後65歳以上で働く人が増えていく中で、従事できる仕事の幅を広げて、様々なジャンルで活躍できる様にしていくことが社会的にも求められている。

 

 もう一つは働き方の問題である。元気とは言え65歳を過ぎると、若い頃の様な働き方はだんだん出来なくなってくる。要は、無理が効かなくなってくるのである。フルタイムで週40時間働き続けることはできるものの、少し体を休めながら仕事をしたいと考える人は、事実多い。それまで仕事人間だった人も、趣味に時間を割くなど、精神的にゆとりの得られる仕事の仕方を望んでいる人は統計上でも多くなっている。

 これも働き方改革で、自分のライフプランに合わせて、自由に働き方を選択できる様になっていくことが望ましい。