さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 (下)

2022年06月17日 | ライフプラン

「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 <下>

 

それではなぜ「働かないおじさん」「働かないおばさん」が生まれてしまうのであろうか?

この問題には、ひとつは雇用者側の問題であり、もう一つは働く側の問題の双方がある。

雇用者に求められること

 現在の状況では、人生100年時代と言われる環境下で、人は70歳を越えて働き続ける体を持ち合わせる様になってきている。また、急速な少子高齢化が進行する中で、若い世代だけを取り入れて組織の新陳代謝を図ることが困難になってきている。そのためにDXによる仕事改革を進めるとして、それだけで解決し得ない部分も相当残ることが想定される。団塊ジュニア以下の非正規労働者群を戦力化することも検討しうるが、経験を積むまでには一定の時間と労力を要する。

 こうした状況下では、中高年のキャリアプランニングをしっかり考えて、雇用者が中高年を戦力としていくことが必要な課題になってきている。また、これまでの経験を生かしながら、起業などを通して社会に送り出していくことも大切だ。

 そのためにも、雇用者側の役職定年や定年後再雇用となった人の担当する業務に関して、これからどのような役割を果たしてほしいのかという業務指示なりコミュニケーションを、十分に図っていくことが重要だ。「役割」とは、単純に従事する仕事内容に留まらず、職場や組織の中で果たすことが期待されている役割である。こうしたことについて,事前に丁寧に面談などを通して丁寧に話し合って、お互いに納得できるようになることが望ましい。

 当然雇用者側は、事前にきちんと準備して相手の希望も踏まえて進める必要があり、簡単な話ではないが、これができている、いないで大きな違いが生じてしまう。また再雇用する人向け仕事をきちんと整理し、同時に再雇用者でもチャレンジできる仕事を準備することも始められている。これらをおろそかにすると、モチベーションの低下を容易に招いてしまう。

 賃金水準の問題もある。同一労働同一賃金の原則は、定年後再雇用にも適用されるので、例えば定年前の60%の基本給を下回るのは違法とする判例も出されており、雇用者側の現行規定をよく確認する必要がある。また、定年前と実質ほとんど変わらない業務に就いているにも関わらず、給与支給水準が大きく減少する場合も合理的な理由が出来る様にしなければならない。これらについて、きちんと説明ができないと、この点でも容易にモチベーションの低下を招いてしまうことになる。

 なにも、好きで「ボーっとする」、「無駄話」しているわけではない、という声もあるのではないだろうか。雇用者側がモチベーションを維持して働き続けられる環境整備をおこなっていく必要は大きくある。

 

もうひとつの問題は、働く側の問題である。

 先の調査によると、「今後働くために重要だと思うこと」について、60歳代前半の男性は、「順応性がある」「パソコンなどの操作」「コミュニケーション能力がある」「判断力がある」「柔軟性がある」が上位にきている。女性は、「理解力がある」「体力がある」「コミュニケーション能力がある」の順となっており、男性とはちょっと異なっている。

 さて、実際はどうであろうか。重要だと思いながらも、それを実践できていないことはないだろうか。そうしたいことと実際に出来ていることには、往々にして乖離が生じるものである。例えば、タイ年前まで部下を持ち、もっぱらマネジメント業務に就いていた場合、立場と仕事内容が大きく変わってしまう、再雇用では年下の上司の下で仕事に就き、業務指示を受けつつ、他のスタッフと連携を取り、自らコミュニケーションを図りつつ、環境に順応し、柔軟に対応して仕事を進めることが求められる。これに対応できているだろうか。

 また60歳定年前から、定年後の自分のキャリアプランについて考えていたであろうか。現在は、人生100年時代を睨んで、70歳代から100歳近くまでの人生のあり方を考えなくてはならないようになってきている。自分は何歳まで仕事を続けるのか、その後の人生のあり方をどのようにしていけば良いのかを考えて、実践していくことが必要になる。自分のやりたいことは何だったのか、これから実現したいことは何なのか、定年前から考えて、必要に応じて準備を開始していくことが大切だ。必要であれば資格取得して、第2の人生を歩むこともあるし、ボランティアとして社会貢献していくことも選択肢のひとつだ。

 特に女性は、既に自らが90歳になった時に、半数がまだ生存している時代に入っている。この年代だと、例え夫いても生存している可能性は、4人に1人またはそれ以下になっている。多くは、お一人様になっている可能性が高い。このことを念頭に、自分の仕事や人との関係づくりを考えていく必要がある。

 

 「働かないおじさん」「働かないおばさん」ではなく、「仕事もするし、人生輝く人たち」となれるようにしていきたいものだ。

 


「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 (上)

2022年06月10日 | ライフプラン

「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 <上>

 

「働かないおじさん」

 この言葉でインターネット検索をおこなうと様々な情報がヒットする。これをめぐって多様な言説がある。定まった定義はないようだが、概ねミドルシニア以上(50歳代後半から60歳代まで)で会社員として就業している男性職員を指すようだ。特に定年後再雇用で就業する人が増えており、こうしうた人々を指している場合も多い。

 (株)社識学が300人対象に行った調査(22年4月実施)によると、49%の企業で“働かないおじさん”がいることが判明し、“働かないおじさん”が仕事中にしていることは、休憩49%、ボーっとする47%、無駄話47%であるとしている。一方、“働かないおじさん”が社内にいることでどのような悪影響があるか聞きいたところ、「周りの社員の士気が下がる」が59%、「働かない人の分の業務が回ってくる」49%、「会社の経営圧迫(人件費)」35%であり、「特に悪影響はない」と回答したのは9%に留まっている。

 毎朝、きっちり出社するのだけれども、いつの間にか席を離れ、気がつくと会社からいなくなってしまうということから、「会社の妖精さん」との言葉もあり、仕事をしていると周囲からは見えてにくい、自分の業務との関係性が薄く、接点もあまりないことなどが考えられる。

 相当な言われ方で、正直言って悪意あるレッテル張りと言われてもしょうがない。ただ、一般的にそのような受け止めが広がっていることも受け止めなければならない。

 

60歳代前半の働き方

 このミドルシニアと呼ばれる人たちの実態に迫る調査はあまりなく、ここでは60歳代前半の男女の働き方と意識について紹介をおこなう。

 「シニア層の就業実態・意識調査2021」によると、60歳代前半の男性では、何らかの仕事に従事している人が79%に達し、非就業者は19%に過ぎない。内訳は、正職員36%、契約・派遣・アルバイト職員25%、自営・経営16%となっており、雇用されて働いている人が62%に達し、多くの人が企業などに所属して給与労働者として働いている(それまでは正職員として就業していた人が90%以上である)。契約・派遣職員の多くは、一旦定年退職し、継続雇用として新たに嘱託職員などで就業している人たちである。また、正職員として働いている場合であっても、役職を離れ、一般職などの役割で就業しているのである。ちなみに、部下を持った経験のある人は、56%と半数以上である。これらのことにより、多かれ少なかれ給与水準が定年前よりも大幅ダウンになるのが一般的である。近年、退職前の仕事と同様の業務に当たりながら、身分だけ変更、つまり給与水準だけが下がってしまうことも増えている模様である。

 

 女性の場合は、60歳代前半で非就業者が43%と男性と比して割合がとても多い。この世代では、専業主婦として60歳を迎える人たちが多いことによる。まだ共働きが当然の世代ではないということだ。また就業している場合も、パート・アルバイトの比率が22%と非常に高く、正職員・契約職員の比率は13%と低くなっており、継続雇用・再就職の割合は男性よりも顕著に少なくなっている。従って、現在のところ、全体的には職場に60歳代前半の女性自体が少なく、「働かないおばさん」も少ないとみられる。もっとも、サービス・流通関係など女性非正規雇用が多い業種では、「働かないおばさん」が存在する可能性はある。

 

60歳代前半の暮らし

 これらの人の生活プロフィールを見ると、有配偶者の割合が64~74%(男女で比率が異なる)となっており、こどもが同居している割合も29~35%となっている、つまり夫婦かつ、こどもの同居している割合が全体としては高く、生活自体にお金がかかる世帯が多いものと推測される。なお、おひとり様も、男性15%、女性20%程度存在する。

 

再雇用の実態

 さて、現在の勤め先で定年退職する予定の人に、定年後も現在の勤務先で働きたいかを聞くと、「ぜひ現在の勤務先で働きたい」あるいは「出来れば現在の勤務先で働きたい」という人が合計61%であり、多くの人が継続雇用を望んでいる。一方、現在の職場では(できればを含む)働きたくない人も38%存在する。それでは仕事探しを実際にしたのかを聞くと、仕事探しをしていないとする人が73%で大多数となり、実際に仕事探しをして新しい仕事が決まった人と、現在も就活中の人は18%に留まる。

 つまり、それまでの職場を離れて、仕事をしていこうとすると希望する職種・収入を必ずしも実現することができる保証がないので、それまでの勤務先での就業を希望する人が多くなるということである。実際、就職活動では、ハローワークを活用した就活が主流であり、マスコミで宣伝されている転職サイトで就職を実現している割合は、ミドルシニアでは少ないのが現実である(特定職種を除く)。

 これはシニア世代の就労希望の理由は、圧倒的に「生計維持(62%)」要望によるからである。これには、多くの60歳代前半の人(特に男性)の場合、公的年金の支給開始年齢まで「空白の5年」に直面せざるを得ないからである。再就職でうまくいかないとたちまち生計を圧迫しかねないことを避ける意味もあり、再雇用に動くのはある意味自然な流れであろう。

<下>に続く。

※ (株)社識学 「“働かないおじさん”に関する調査」

  リクルートジョブズリサーチセンター 「シニア層の就業実態・意識調査2021」


世界一子どもの割合が少ない国 日本

2022年06月04日 | ライフプラン

世界一子どもの割合が少ない国 日本

 

こどもの数の国際比較

 総務省が、2022年5月の「こどもの日」にちなんで、4月1日時点のこどもの数(15歳未満)を推計した。これによると、こどもの割合は11.7%となり、48年連続の減少となった。これを諸外国と比較する(人口4000万人以上の国、調査時点はそれぞれの国による)と、第2位の韓国(11.9%)を抑えて、日本は最もこどもの割合が少ない国となっている。ちなみに第3位はイタリアで、12.9%である。こどもの割合が少ない国は、反対に言えば超高齢化が進行している国であり、いずれも少子高齢化がかなり進行している国になっている。

 

こどもの多い国

 一方、こどもの割合が多い国は、コンゴ民主共和国(48.1%)、ウガンダ(44.8%)などこどもが半数近くになる国々があり、多くはアフリカに位置している。日本に近い国では、フィリピン(30.3%)、インドネシア(24.5%)などである。これらの国々は、こどもの割合が高いということは、大人の割合が総じて少ないことを現しており、大人の平均寿命が短いことでもある。こうした国々では、人生60歳ということも現実的にあり、日本とは事情が大きく異なっている。

 

都道府県でも違いがある

 国内に目を向けると、都道府県でも違いがある。最もこどもの割合が多いのは、沖縄県で16.5%と群を抜いて高い。総じて九州・沖縄エリアは全国平均を上回っており、中国エリアと東海・北陸エリアも全国平均より高い。一方、最も割合が低いのは、秋田県で9.5%とこれも群を抜いて低くなっている。総じて北海道・東北エリアは全国平均を下回り、関東・甲信越、近畿、四国エリアは全国平均より低くなっている。総じて首都圏・近畿圏など人口の多いエリアは、全国平均を下回る傾向にあり、これを除くと西高東低の傾向にあるようだ。

 

今後も続く少子化の潮流

 現在の中学校に通う年代のこども(12~14歳)は全国で323万人だが、小学校に通う年代(6~11歳)のこどもは614万人となり、1歳当たりの人数は減少傾向が続く。未就学児(0~5歳)は529万人とさらに急速に少子化が進んでいる。

 そして、昨年2021年に出生したこども(日本における外国人、外国にいる日本人を含む)は84.2万人となり、前年より3万人も減少している。さらに、2021年は婚姻件数自体が過去最低を記録しており、今後の出生数が一層減っていく懸念が深刻に出されている。

 

働く人がいなくなる日本

 少子化の影響は様々なことに影響するが、大きな事の一つは「働き手」の減少である。現在の生産年齢人口(15〜64歳)は、7400万人(2020年)となっており、年齢区分人口の60%を割り込んでいる。今後14歳以下の人口がどんどん減少していくので、生産年齢人口自体も一貫して減少していく見込みである。この減少していく「働き手」をこの間支えてきたのは、65歳以上の高齢者である。

 今後も高齢者の就労継続が社会的にも奨励されていくものの、既に団塊世代が就労を離れており、働ける高齢者自体の減少が進んでいくことになる。DXによる仕事改革も必要であるが、それだけで乗り切ることは出来ないであろう。

 この点有望なのは、外国人の就労を促進していくことになる。現在の限定された業種や職種だけでなく、広く海外の人たちをパートナーとして迎えていくことが必要になってくる。

しかし、アジア圏では、既に日本で仕事することの魅力が薄れているとも言われる。端的に言えば、日本で働くよりも他国で働く方が、多くの収入を得られるケースが増えている。諸外国も人不足で外国人による就労を呼び込もうとしているのである。実際に介護関係などは、諸外国基準に合わせると日本人正規職員よりも多い収入を保証しないと、日本に来てくれない事態も発生している。

 

どうなる日本

 何が言いたいかというと、日本人の給与水準自体が国際比較した場合、とても低いということ。もっと人々の生活水準を改善しないと、子どもを産み、育てる人も増えず、働く人も減っていく。その上、海外から働きに来てくれる人もいない日本は、どうなっていくのだろうか。

 

※ 統計トピックス№131 我が国のこどもの数、総務省、2022年5月

  人口動態統計速報、厚生労働省、2022年2月