「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 <下>
それではなぜ「働かないおじさん」「働かないおばさん」が生まれてしまうのであろうか?
この問題には、ひとつは雇用者側の問題であり、もう一つは働く側の問題の双方がある。
雇用者に求められること
現在の状況では、人生100年時代と言われる環境下で、人は70歳を越えて働き続ける体を持ち合わせる様になってきている。また、急速な少子高齢化が進行する中で、若い世代だけを取り入れて組織の新陳代謝を図ることが困難になってきている。そのためにDXによる仕事改革を進めるとして、それだけで解決し得ない部分も相当残ることが想定される。団塊ジュニア以下の非正規労働者群を戦力化することも検討しうるが、経験を積むまでには一定の時間と労力を要する。
こうした状況下では、中高年のキャリアプランニングをしっかり考えて、雇用者が中高年を戦力としていくことが必要な課題になってきている。また、これまでの経験を生かしながら、起業などを通して社会に送り出していくことも大切だ。
そのためにも、雇用者側の役職定年や定年後再雇用となった人の担当する業務に関して、これからどのような役割を果たしてほしいのかという業務指示なりコミュニケーションを、十分に図っていくことが重要だ。「役割」とは、単純に従事する仕事内容に留まらず、職場や組織の中で果たすことが期待されている役割である。こうしたことについて,事前に丁寧に面談などを通して丁寧に話し合って、お互いに納得できるようになることが望ましい。
当然雇用者側は、事前にきちんと準備して相手の希望も踏まえて進める必要があり、簡単な話ではないが、これができている、いないで大きな違いが生じてしまう。また再雇用する人向け仕事をきちんと整理し、同時に再雇用者でもチャレンジできる仕事を準備することも始められている。これらをおろそかにすると、モチベーションの低下を容易に招いてしまう。
賃金水準の問題もある。同一労働同一賃金の原則は、定年後再雇用にも適用されるので、例えば定年前の60%の基本給を下回るのは違法とする判例も出されており、雇用者側の現行規定をよく確認する必要がある。また、定年前と実質ほとんど変わらない業務に就いているにも関わらず、給与支給水準が大きく減少する場合も合理的な理由が出来る様にしなければならない。これらについて、きちんと説明ができないと、この点でも容易にモチベーションの低下を招いてしまうことになる。
なにも、好きで「ボーっとする」、「無駄話」しているわけではない、という声もあるのではないだろうか。雇用者側がモチベーションを維持して働き続けられる環境整備をおこなっていく必要は大きくある。
もうひとつの問題は、働く側の問題である。
先の調査によると、「今後働くために重要だと思うこと」について、60歳代前半の男性は、「順応性がある」「パソコンなどの操作」「コミュニケーション能力がある」「判断力がある」「柔軟性がある」が上位にきている。女性は、「理解力がある」「体力がある」「コミュニケーション能力がある」の順となっており、男性とはちょっと異なっている。
さて、実際はどうであろうか。重要だと思いながらも、それを実践できていないことはないだろうか。そうしたいことと実際に出来ていることには、往々にして乖離が生じるものである。例えば、タイ年前まで部下を持ち、もっぱらマネジメント業務に就いていた場合、立場と仕事内容が大きく変わってしまう、再雇用では年下の上司の下で仕事に就き、業務指示を受けつつ、他のスタッフと連携を取り、自らコミュニケーションを図りつつ、環境に順応し、柔軟に対応して仕事を進めることが求められる。これに対応できているだろうか。
また60歳定年前から、定年後の自分のキャリアプランについて考えていたであろうか。現在は、人生100年時代を睨んで、70歳代から100歳近くまでの人生のあり方を考えなくてはならないようになってきている。自分は何歳まで仕事を続けるのか、その後の人生のあり方をどのようにしていけば良いのかを考えて、実践していくことが必要になる。自分のやりたいことは何だったのか、これから実現したいことは何なのか、定年前から考えて、必要に応じて準備を開始していくことが大切だ。必要であれば資格取得して、第2の人生を歩むこともあるし、ボランティアとして社会貢献していくことも選択肢のひとつだ。
特に女性は、既に自らが90歳になった時に、半数がまだ生存している時代に入っている。この年代だと、例え夫いても生存している可能性は、4人に1人またはそれ以下になっている。多くは、お一人様になっている可能性が高い。このことを念頭に、自分の仕事や人との関係づくりを考えていく必要がある。
「働かないおじさん」「働かないおばさん」ではなく、「仕事もするし、人生輝く人たち」となれるようにしていきたいものだ。