トヨタに押し寄せる4つの荒波 迫るグーグル、アップル
- 2017/6/14 14:36
- 日本経済新聞
「手ごわいグーグル、アップルが自動車業界に参入。トヨタにますます頑張ってほしい」「2期連続の減収減益の見通し。どのように立て直していくのか」
この日、午前10時からトヨタ本社本館で始まった株主総会には過去最多の5227人が出席した。9人の株主が質問に立ち、経営陣に対して課題を指摘したり、エールを投げかけたりした。株主総会を「1年で最も将来に向けたメッセージを発信でき、ヒントをもらえる場」と位置づけるなか、経営理念のほか、社内カンパニー制や新たな設計開発手法「TNGA」の導入、人工知能(AI)への投資など、中長期の改革の説明に時間をかける光景が目立った。
足元の経営環境は厳しい。18年3月期の連結売上高は前期に比べて微減の27兆5000億円、営業利益は20%減の1兆6000億円となる見通し。営業利益が2期連続で減ると18年ぶりとなる。世界販売台数はほぼ横ばいの1025万台。東南アジアで販売が増える見込みだが、米国市場がピークを過ぎ、17年1月には05年以来初めて、市場全体の在庫が400万台を超えた。米ゼネラル・モーターズ(GM)などが1台当たり40万円超の販売奨励金を出すなか、収益環境は悪化している。
だが株主の本質的な関心は「10年先、15年先にどういう社会をみているのか」(男性株主)という質問に表れていた。世界で36万人強の従業員を抱える巨大組織になったトヨタが、100年に1度といわれる自動車業界の変化を乗り越えられるかどうかにある。
米国で1600万頭いたとされる馬に代わり、移動の主役となった大量生産車「T型フォード」の誕生から110年。世界の新車市場は16年に9385万台と直近10年間で4割増えた。独フォルクスワーゲン(VW)とトヨタ、GMが1000万台の生産規模で車の安全性や走行性能、燃費などのものづくりの山頂を競ってきた。
だが通信技術やAIが急速に進化し、自動運転を含めた移動中の体験サービスという全く別の競争の山ができつつある。その頂を狙うグーグルやアップルの時価総額はトヨタの4倍前後で、研究開発費もトヨタを上回る。カーシェア大手の米ウーバーはコンプライアンス問題で揺れるが、創業わずか8年で、世界500都市で1日100万人の利用者をつかんでいる。
トヨタが10年に資本提携し、16年末までに全株式を売却した米テスラもEVで攻勢をかける。先行投資で赤字が続くが、時価総額は今年4月に510億ドル(約5兆6000億円)に達し、100倍以上の販売台数があるGMを抜いた。あるトヨタ役員は「テスラは車にみえるが、ビジネスモデルはiPhoneに近い。走るコンピューターで、既存の自動車産業のビジネスモデルを変えようとしている」と競争の軸の変化を感じている。
トヨタは設立80周年を迎える。かつて自動車産業ではGMや米フォードが先行するなか、後発ながら、使い勝手と低コストに向けた改善を続けて、世界首位グループになった。株主総会で豊田社長はふたたび「予測できない時代。80年間きたえあげてきたビジネスは守り。攻めも必要」と強調した。
80年前、トヨタの創業の自動織機事業の利益の大半を注ぎ、将来の基幹産業になると見据えた自動車事業に参入した。資金や技術の不足からトヨタ自動車の創業者、豊田喜一郎が辞任に追い込まれる経営危機に陥ったが、1953年にトヨタ全体の1割だった自動車事業の売上高はわずか7年で5割まで高まり、今日の礎になった。
いま有利子負債を除いた資金は7兆円を超え、最先端技術を研究する施設も整う。織機から自動車に変革したころに比べて一見、優位にみえるが、創業期に4000人程度だった従業員は100倍に増えた。日本だけで3万社の中小取引先、140万人以上の雇用も抱える。既存ビジネスを守る責任が大きく、ベンチャー精神は芽生えづらいことが最大のリスクとなる。
株主総会の締めくくりでの「チャレンジは始まったばかりで、うまくいかないことのほうが多い。失敗しても必ず学び、1歩でも前に進む。スマートでないが、トヨタらしいやり方で未来に歩む。理解、支援をお願いします」といった豊田社長のあいさつに危機感がにじむ。(名古屋支社 工藤正晃)