ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスとともに「世界三大投資家」と呼ばれるジム・ロジャーズ氏がインド人大富豪サチン・チョードリー氏の新著『これからの時代のお金に強い人、弱い人』刊行イベントのため来日した。富の築き方を知り尽くす2人に聞く。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは9月7日に実施
いま10歳の子が日本にいたとしたら、もうどこかに移住したほうがいい
ジム:本日はこの場に来れて、本当に光栄です。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、日本というのは私が最も好きな国のひとつですし、そしてここ東京は特に好きな場所のひとつです。改めまして光栄です。サチンさんにご招待頂きました。ありがとうございます。
サチン:私こそ大変光栄です。お越し頂きありがとうございます。
——早速ですが、ジムさんが考えていらっしゃる世界経済の未来について、ぜひお聞かせ頂きたいと思います。いま様々なことが世界で起こっております。今後、世界はどうなっていくのでしょうか?
ジム:ビッグピクチャーからお話しますと、中国がこれからますます重要な国になるのではないかと考えています。私の子どもたちには中国語(マンダリン)を教えています。ご存知の通り、子どもたちの教育のためにシンガポールに移住してきました。なぜなら21世紀は中国の時代になると思っているからです。
中国が21世紀の覇者になるという意見には懐疑的な人もいるかもしれません。20世紀はアメリカが最大のパワーを持った国でしたが、戦争もありましたし、15回の恐慌もありました。そのように問題はありましたけれども20世紀最大の国になりました。なので中国に問題があったとしても、それを大きな障害と捉えないで欲しいと思います。
例えば中国の債務が大きくなっています。大気汚染がひどく、環境問題は深刻です。そして今、P2Pレンディングが急速に拡大しています。そのようなことが急激に拡大していく、もしくは修正させていく過程で、何かしらの問題が起こる可能性はあります。ただ何か問題があったときは「じゃあそこはチャンスだから、もうちょっと買おうかな」とも思っています。
20世紀の覇者アメリカだって、これまで15回の大恐慌があったわけですね。そのうちの1回でも急落時に買っていれば、すごくお金が稼げたと思うんですよ。いま「そこで買っておけばよかった」と振り返るのは簡単ですが、実際のそのチャンスをモノにできるか、そこで買えるかは、やはり知識と勇気が必要です。
——これからの日本に関してはいかがでしょうか?
ジム:私は日本の株も持ってます。個別銘柄ではなくETFですけどね。史上最高値に比べたら、まだ日本株は安いです。安倍首相が日本経済や株式市場を助けるために、より良くするために色々変えようとはしていると思いますが、なかなか難しいんではないかと思うところもあります。長期的に見れば、日本には問題があります。本当に素晴らしい国のひとつだと思うんですけどね。
でも事実も見なければならない。人口は減少。借金はうなぎ登りですよね。いま10歳の子が日本にいたとしたら、もうどこかに移住したほうがいいと思います。その子が40歳になる頃には、借金はさらに増えているでしょうし、人口はすごく減って、誰が借金を払うんですかという話です。日本は大好きなので、こういうことは言いたくないですけれども、でも事実はやはり見なければなりません。
成功者に共通していることは「情熱、パッション」
——ジムさんやサチンさんのように成功するためには何が必要なのでしょうか?
サチン:「情熱を、パッションを持って生きる」ということですね。お金持ちになった人、ビジネスに成功した人……。そうした人たちに間違いなく共通していることはこれです。ジムさんもそうだと思いますが、成功者に「成功の秘訣はなんですか?」と聞くと決まって返ってくるのが「情熱、パッション」なのです。
「人任せにするのではなく自分でやっていくんだ」と気づくだけで人生は変わる、私はそう思っています。私のアカデミーではよくこんな話をします。「電車の乗客として生きたいですか?それとも電車の運転手として生きたいですか?」と。乗客になってしまったら、誰かに連れていかれてしまうだけです。しかもどこに連れていかれるのか、どこに停車するのか、何キロで走るのかも分からない。
そうすると「こんなはずじゃなかったのに」といった後悔が生まれてしまうはずです。まずは「自分の人生の運転手になる」と意識すること。本気で「お金持ちになる、成功する」と思うこと。少しずつで良いのでイメージし続けることが大事です。おすすめは寝る前に2分だけ瞑想すること。たった2分ですが人生を変えていく大切な時間になると思います。
ネバーギブアップの精神を持って、ずっとやっていく人が成功する
——投資家として成功するためにはどうすればいいのでしょうか?
ジム:成功する投資家になるためには、色々なことを深く理解しておくことが必要です。簡単だと思ってる人が多すぎるんですよ。テレビやネットを見て「ああ、これだったら俺にもできるな」と。私は投資家ですけれども、簡単だったことなんて一度もありません。リサーチをしっかりとやって、ひとつの銘柄だけではなく、業界の動向、政治情勢、株価だけでなく金利も通貨もコモディティも理解しないといけない。
なので簡単だとは決して思わないで下さい。少なくとも私にとって簡単だったことはありません。何か簡単になる魔法の薬を差し上げたいです。「この本のこの章を読めばいいよ」と言えたらいいなと思います。でもそうではなくて、やっぱり自分でいろいろ調べていかなければいけません。理解するためにできることは全てやって、そこで初めて前に進んでいいということだと思います。
上がると思ったのに下がったときどうするか。それってよくある話ですよね。そういうときに、例えばストップロスする友人もいます。例えば20ドルで株を買いました。そしたらブローカーに先に言っておくんですね。「何があったとしても、とにかく17ドルになったら絶対売れ」と。それをストップロスといいます。
でも、私はストップロスしない。予想と反対に動いたら、そこでもっとリサーチをしますね。なぜ予想と反対に動いてしまったのか。最初に買ったとき、何か重要なことを見落としていたのか。もっと注視して、もっと調査するんですよ。その結果、買い増すときもありますし、予想を間違ったと売ってしまうときもあります。
大きな危機というのは大きな機会になり得ると考えています。中国では「災害と機会は同じ」ということわざがあります。私の長い投資経験から、災害などの悪いことが起こったときに、そこからどんな良いことが起きるだろうと考えるんですね。ほとんどの人は悪いことが起こったとき、災害が起こったとき、危機が起こったとき、そこで止まってしまって、悪いほうばかりに目を向けてしまうんですけども、そこでぜひ前を見て頂きたいと思います。
これは単なる資本主義的な、強欲な考えではなくて、悲劇が起こったときこそ、人々はやはりサポートが必要になってくるんです。個人的な問題、国の危機、自然災害、すべて共通していることです。そして覚えておいてほしいことは時が解決してくれる、時がすべて改善してくれるということなんです。絶対に諦めない、ネバーギブアップの精神を持って、ずっとやっていく人が成功します。どんなに悲しいことがあっても、どんなに悲劇的なことがあっても、どんなに大変なことがあっても、諦めないでください。
サチン:儲けの原則は「安く買って、高く売る」です。多くの人が逆の行動をしてしまうのですが、バブルは売りの時期、暴落した時期はバーゲンセールで絶好の買い場です。不動産も同じです。リーマン・ショックで不動産価格は暴落しましたが、このとき買った人たちは軒並み大金持ちになっています。そのような人はアメリカにもたくさんいますし、日本にもいます。
資産価格が下落しているときに買うのは「もっと下がるかもしれない」という怖さがあるかもしれません。重要なことは「焦らない」ということです。価格が上昇するまでは時間がかかります。例えばリーマン・ショック当時、私が1000万円ほどで買ったインドの不動産は今、1億2000万円ほどの価値になっています。長期的な視野を持てば、このような利益を手にすることができます。
若い人には「君は本当は何が一番好きなの?」ということを聞きたい
——日本の若者や資産形成層に、どんな言葉を投げかけますか?
ジム:私はイェール大学にいたとき、あまり自分自身のこと知らなかったんですね。ほかの生徒と同じように、ロースクールにいこうか、医学部にいこうか、弁護士になろうか、ビジネススクールにいこうかみたいな感じだったんですよ。自分が何者なのか、何がしたいのか、全くノーアイデアだったんですね。何となく生きていた。
なので若い人には「君は本当は何が一番好きなの?」ということを聞きたいですね。それをやるべきだと思うんですよ。私はラッキーなことに、投資の世界に出会ったんですね。ウォールストリートのことは全然知らなかったですし、「1929年には何かひどいことが起こったらしいぞ」ぐらいしか知らなかった。株式と債券の違いも知らなかった。
でもすぐに気づいたんですよ。もしかして投資ってすごくないかと。自分にぴったりじゃないかと。ここにいれば、自分の大好きなことをやってお金をもらえる。しかもうまくやれば、めちゃめちゃお金がもらえる。こんなすばらしい場所はないと。もうこんな楽しいんだったら給料なくてもやりたいよと。給料ないと食べていけないんで、それはないですけど、でもそういうノリでした。
例えば、あなたが「庭師になりたい」と思ったとしましょう。そうしたら庭師になるべきなんですよ。お父さんはこう言うでしょうね。「なんだって?高いカネを払って大学まで卒業させたのは庭師にするためではない」と。先生たちも「ちょっと待って、庭師だって?」と。友達も笑うんです。「えー、何か庭師になるとか言ってるよ」と。
でもガーデニングが大好きで、毎朝うきうきして目覚めるのであれば、いつの日か皇居の庭師になれますよ。そして庭師ネットワークとか作って、日本中を網羅して、そのうち東証一部に上場したときに初めてお父さんはこう言うんですよ。「分かってたんだよ。我が息子がすばらしい庭師になるのは。子どもの頃から知っていたよ」と。先生たちは言うんですよ。「昔から才能はあったんだよね」と。友達は言うんですよ。「上場するらしいね。仕事をくれないかな」と。
自分の情熱は何か。私は幸運にも21歳のときに知ったんです。それを見定めて、それを追求し続けることです。みんなに笑われてもね。「おまえ頭おかしい」とか笑われたら、特に、ですよ。ビル・ゲイツもハーバードを途中で退学して、コンピュータを始めたわけですよね。最初は「あいつは頭がおかしい」ってみんなに思われたわけです。しかし、今日の皆さんにとってビル・ゲイツはどんな存在でしょうか?そういうことです。
サチン:若いということはそれだけ時間資本があるということです。時間だけは誰に対しても平等です。若者や資産形成層の方には、ぜひ時間の有効活用を意識して頂きたいと思います。例えば、ジムさんも私もほとんどテレビは見ません。
見ない理由は「無駄な時間を過ごしてしまうから」です。特にネガティブなニュース、人の不幸に関わるようなニュース、「芸能人がどうしたこうした」といった下世話なニュース、このような自分の人生の役に立たない情報をインプットして何の意味があるのでしょうか。すでに色々な調査があるようですが、裕福でない人の習慣で最も多くの時間を占めているのがテレビだそうです。
もちろんテレビの中にも良い番組はあります。私も出演させてもらった「カンブリア宮殿」などビジネス系で優れた番組もたくさんあります。見る番組を決める。終わったらテレビを消す。重要なことは「時間は有限」ということです。どんなお金持ちでも1日は24時間ですし1年は365日です。であれば、自分の成し遂げたいことに時間を集中させる技術を学ばなければなりません。
人的資本は一族の永続的な発展に重要な要素
——ジムさんは娘さんのことを「一番の投資対象」と仰ってますね。サチンさんも小さなお子様がいらっしゃいます。子息子女の教育、人的資本(ヒューマンキャピタル)への重要性について教えて下さい。
ジム:私には2人の娘がいて、今15歳と10歳なんですけど、2人とも女優になりたいって言うんですね。正直「ちょっと待て、勘弁してよ。今この瞬間、世界中のティーンネイジャーで女優志望の子が何億人もいる。そのうちの成功するのは4人だけ。女優になりたいという夢を持っていても、その多くはロサンゼルスのレストランのウェイトレスとか、上海のレストランのウェイトレスになる。それがいいところだよ」と思うわけです。そう言いたいんですけれども、そこはちょっと我慢をして「そうか、頑張れよ」と伝えました。庭師の話はさっきしましたね(笑)
サチン:私もまだ学校にも行っていない幼い息子がいますが、彼に教えたいと思っているのは「会計学」です。つまり、数学に強くなるということです。まだ5歳ですが「公文」にも通わせていますし、ソロバンも教えてもらおうと思っています。もう少し大きくなれば、利回りや投資のことも教えていきたいと思います。それこそ株式投資をやってみてもいいでしょう。自分の能力でお金を作ることができれば、自分が欲しいものを手にすることができる。親に頼まなくても、買うことができる。そんな経験をしてもらいたいと思います。
贅沢をさせるつもりはありません。周囲のお金持ちや成功している人たちのお子さんを見ても、その印象を強く持っています。贅沢させることは、むしろ子どもを不幸にしかねないと理解しているからでしょう。ジムさんも最初にプレゼントしたのは貯金箱と仰っていました。お金を貯めていくこと、お金には利子がつくこと、お金は使ったらなくなってしまうことを子どもたちに伝えたかったからです。大きな資産を受け継いでも、人的資本、つまりマネーリテラシーがなければ一族の永続的な発展はありません。人的資本は非常に重要な要素です。
ジム・ロジャーズ
冒険投資家。1942年生まれ。イェール大学卒業後、兵役に服した後、ウォール街で働き始める。国際投資会社クォンタム・ファンドを共同で設立し、10年間で4000%以上のリターンを実現する。37歳で引退してからは、世界をバイクと車で六大陸を二度横断する。現在はシンガポールに在住。著書に『Investment Biker: Around the World with Jim Rogers Nov』など。
サチン・チョードリー
1973年、ニューデリー生まれ。法人/個人向けの経営コンサルティング、講演・セミナー事業を行なうAVS株式会社代表取締役会長。鳥取県の地域活性化をミッションとする株式会社ITTR代表取締役社長など、複数の会社を経営。上場企業を含む複数の企業コンサルタント、アドバイザーとして経営に参画。幼少時に父親に連れられて初来日、バブル期の東京で過ごす。帰国後も当時のきらびやかな印象が忘れられず、1996年に再来日。言葉の壁や差別など不遇の日々を送るが、印僑大富豪から「ジュガール」の教えを受けたことが大きな転機に。今では母国インドはもちろん、日本、アジアでも数多くの事業を成功に導く実業家。2012年からはセミナーや講演会にも出演。セミナーでは2000名以上が殺到するという人気講師となっている。新著に『これからの時代のお金に強い人、弱い人』(フォレスト出版)