リオデジャネイロ・パラリンピックの車椅子競技で、多くのメダルを獲得した米国。その背景には、BMWのエンジニアたちがサイエンスにもとづいてデザインした車椅子の存在があった。
2016年パラリンピックで次々に勝利を手にした米国のタチアナ・マクファデン選手が使った車椅子は、競技場で見られるほかの車椅子とよく似ているものの、微細だが重要ないくつかの点で異なっている。なかでも無視できないのは、設計したのがBMW(BMW Designworks)のエンジニアたちだということだ。
先天性の二分脊椎症によって下半身不随となったマクファデン選手は、リオデジャネイロ・パラリンピックで3つの金メダルを獲得し、女子のT54クラス5,000mレースで11分54.07秒のパラリンピック記録を打ち立てた。
マクファデン選手が使用したスマートな競技用車椅子は、ほかのすべての競技用車椅子と同様に、高速時の安定を保つために内側に傾斜した後輪と前方に長く伸びた前輪を備えた車体の低い三輪車だ。
カーボンファイバー製のフレームは、アルミニウムに比べて剛性が非常に高い(したがって効率も高くなる)。シャシーにも空気力学特性を向上させるいくつかの細かい工夫が施されている。さらに、操縦席からステアリングアーム、手にはめる手袋に至るまでのあらゆるものが、マクファデン選手の体形や座り方にもとづいて設計されている。
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BMW Designworksによると、これによって空力抵抗が10~15パーセント減少するという。
同社の副責任者を務めるブラッド・クラチオーラは、競技用車椅子の開発は、選手がトレーニングや競技を行う様子を観察することから始まると話す。クラチオーラのチームでは、選手の3Dスキャンを作成し、最も空力抵抗を受ける箇所をソフトウェアで特定した。そこから明らかになったのは、多くの空力抵抗が車椅子によるものではなく、選手の身体によるものだということだった。
選手は競技中に特定の姿勢を取る傾向がある。チームでは、選手の身体に合わせた型を作成してそれぞれに専用の操縦席をつくった。それによって快適性が向上し、姿勢による空力抵抗が少なくなった。
「選手たちは、人間工学的に無理のある姿勢を取らないようにする必要があります。また、競技中に身体の位置がずれることによって力を無駄にしないために、下半身をできるだけ車椅子にしっかりと固定し続ける必要があります」とクラチオーラは説明する。
Designworksでは、一般的に利用されているアルミニウムではなく、カーボンファイバーを使うことにした。これによって剛性が6倍も向上するからだ。フレームの剛性が低いとエネルギーが吸収され、効率が悪くなる。
「選手たちから聞いたひとつの嬉しい話は、BMWの車椅子の後ろではドラフティング(後方で生じる空気抵抗を利用した抜き去り)がとても難しいということです。われわれの競技用車椅子の周囲では空気が効率よく流れるので、背後にいる選手は、その空気まで押し分けなければなりません」
BMWが設計した競技用車椅子を使った選手たちは、金メダルを3個、銀メダルを3個、銅メダルを1個獲得。計2つのパラリンピック記録を打ち立てている。