【クルマ人】「86(ハチロク)」開発の陰にはマツダエンジニアの助言があった トヨタのチーフエンジニア多田哲哉氏に直撃インタビュー
トヨタ自動車はスポーツ車「86(ハチロク)」を約4年ぶりに改良し、8月1日に発売する。エンジンの吸排気部品を改良し、低速域でも力強さを発揮するなど「走り」を追求。車体先端部(ノーズ)を下げるなど外装も変更している。チーフエンジニアを務めたスポーツ車両統括部長の多田哲哉氏に狙いを聞いた。
--従来モデルからの進化は
「一番大きいのは、より運転手の思い通りに動くようになったことだ。スポーツ車は操作に対して期待通りに動くことがポイントで、究極の姿はレーシングカーだ。(トヨタが挑戦してきた)独ニュルブルクリンク24時間耐久レースは長く、天候の変化も激しい。完走を目指して鍛えられたことが開発に生きた」
--主な購買層は
「プロジェクトが始まった平成19年は若者のクルマ離れといわれていた。トヨタもいろいろと手を打ったが長続きせず、スポーツ車というクルマの王道に戻る決意をした。24年の発売当初は40~50代が中心だったが、販売店での試乗などが話題を呼び20代などに広がった。いまは20代、30代、40代、50代とほぼ均等で、20代がトップになることもある」
--改良モデルからテレビCMを始めた
「顧客層を広げるためだ。24年の発売時はスポーツ車を使ってどう遊ぶかを伝えるイベントを重視した。ファンが定着し、改良モデルは乗り心地が飛躍的に良くなり通勤など日常の足としても使えるので顧客層を広げるタイミングになったと判断した」
--改良で中古車の流通が増える
「そこは期待している。名前の由来になったAE86(カローラレビン)は発売当初は販売がぱっとしなかったが、中古車で伸びた。現在の86は発売から調子が良く、中古車が増えて価格が下がればもっともっと広がる」
--為替変動など経営の「潮目」が変わる中、スポーツ車を継続するのに必要なことは
「そのクルマで収益を上げることだ。スポーツ車は利幅は薄いが、赤字でなければ景気変動があっても意義やブランドへの貢献を説明できる。トヨタは平成19年にスポーツ車に再参入を決めたが、長く開発していなかったので先輩もいない。一人で悩み、マツダがどうして『ロードスター』を続けられるかをエンジニアに聞きに行った。そこで『景気変動でつくったりやめたりするのは、ファンへの裏切りだ』といわれ、ロードスターが黒字だと知った。いろいろと開発のヒントももらい、心を入れ替えた。86は赤字ではない、これは大事なことだ」
--好きなスポーツ車は
「86以外のスポーツ車を買うならポルシェしかない。純粋にエンジニアとしてみて完成度が断然高い。細部まで手間をかけて毎年変わり、当初はこんなところまで変えてどうするんだと思うが、数年すると理由が分かる。911のみならず、ケイマンやボクスターも思想がしっかり伝わってくる」(会田聡)
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