猫寺」で禅問答いかが? 福井・御誕生寺
「猫寺」の愛称で知られる福井県越前市の御誕生寺。テレビや雑誌、SNS等のインターネットを通じて、今や全国的に注目を集めている曹洞宗の寺院だ。
昨秋、弊サイトで取材した際にも大きな反響があり、その人気に驚かされたが、今年に入ってその〝猫寺ぶり〟に拍車がかかっていると耳にして、再訪の運びとなった。
◇前回取材の記事はこちら→【人と猫との縁を結ぶ 福井の猫寺「御誕生寺」】
霧雨が静かに舞うあいにくの空模様だったが、早朝の境内に鎮座する猫たちは濡れるのを気にもしていない様子。それどころか駐車場に車が入るたびに駆け寄っていく警戒心の無さときたら…。これ以上ない程の徐行運転で車を駐車してドアを開けるや否や、1匹のキジトラが運転席へ飛び乗ってきた。狭い額を撫でながら〝取材申し込み〟の挨拶をすると、しっとりと湿った体をまるでこちらのシャツで拭うように擦りつけてきた。猫にとっては少々肌寒いのか?ほんのり暖かいボンネットの上に座り込む猫も1匹、2匹と集まってくる。
寺務所に入ると猪苗代昭順(しょうじゅん)副住職(41)が出迎えてくれた。近況を訪ねたところ「残念な出来事が多いです」という返事。注目度の上昇とともに、寺を悩ませている「捨て猫」が増加の一途なのだという。
命を大切にする心を育む
監視カメラで車種はおろか車両ナンバーまで確認出来るため、寺では警察へ届けるなど、毅然とした姿勢はとりつつも、「(猫たちの)命はかけがえの無いもの。それを軽い気持ちで、まるでゴミの不法投棄のように放り出していく事が許せない」「子供の頃に、命を預かる事の一番重要な部分を、親御さんから教えられていないのでしょう」。副住職は、子供たちの未来のためにも、命の大切さを訴えていきたいと強い口調で話した。
それでも「御誕生寺の猫」に会いに来るファンの中には譲渡会などを通じて、捨て猫の里親に名乗りをあげる人も多く「捨てる神有れば拾う神あり」を実感する。願わくば、子供たちの心には「拾う神」が不要な、命を大切にする気持ちの種を蒔いていきたい。
人間があれこれ考えているのをよそに、当の猫たちは相変わらず自由気ままな「猫寺ライフ」を満喫している。取材当日、寺では水回りの工事が行われていたのだが、作業員の車両に飛び乗ってすみずみまでくまなく点検する猫、重機の運転席を占拠する猫、立ち入り禁止エリアを全く守らない猫…。あまりにもいつも通りの光景に、御誕生寺の猫たちが本当に大切にされていることを改めて感じさせられた。
悩み事を抱えた際には、ここへ来て、猫たちを相手に「禅問答」を繰り広げれば元気を取り戻せるに違いない・・・。そんな気になる今回の御誕生寺詣でとなった。(写真報道局 尾崎修二