ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』1月23日(日)-2-

2011年01月30日 | Weblog

Nさんからの寄稿の続きです。

山本さんのソロルもまた、登場シーンから魅せられた。
颯爽とした精悍な戦士で、数々の武勲をたてたのであろうと思わせる。
「王子」ではなく「戦士」であることは一目瞭然
眼光が鋭く、力強さが漲っていた。
 
仲間達が去り1人でニキヤに思いを馳せるときになると
一変して優しい表情になり、神殿にニキヤがいることを表現したときの
ニキヤのポーズがまた綺麗で巧い。
心の中はニキヤ一色、愛おしさで一杯であることが伝わる一幕であった。
2人の女性の板挟みになって苦悩する姿は
難しい立場に置かれた心情が痛いほど伝わり、胸に突き刺さる思いであった。
中でも3幕冒頭のソロではやりきれない思いが全身から漂い、
水煙草に走ってしまうまでの過程に説得力を持たせていた。
ジゼルのアルブレヒトやカルミナ・ブラーナの神学生3、ロメオやカレーニンなど
バレエの男性主人公には過ちの後悔や苦悩は付き物だが、
特にこれらの表現で右に出る人にはなかなかお目にかかれないであろう。
 
最期はニキヤに許しを請いつつも思いが届かず
彼女のベールが手から離れて息絶えるが、
光に照らされたその姿もいたく美しかった。
ソロルが1人倒れ込んでから幕が下りるまでしばし時間があった為
命尽きる姿をしっかりと刻まれ、悲劇の余韻が色濃く残った。
 
寺田さんと山本さんは恐らくは初めて組んだと思うが、
観ていて心和む良いペアであった。
逢瀬のパ・ド・ドゥは束の間の幸せをじっくりと味わう2人の愛情に溢れ、
丹念に愛を確かめ合っていた。
ニキヤの慈悲深さとソロルの包容力が交わって
穏やかな雰囲気が舞台に広がっていた。
 
長田さんのガムザッティは貫禄、威厳があり、
いずれはラジャーの後継者として
藩を治めていくであろう頼もしい姫君であった。
身分の低いニキヤに対して怒涛の如く斬り込み、
震え上がるほどの怖さだった。
 
女帝にも見えるガムザッティだが、
繊細な心の持ち主と感じる箇所がいくつかあった。
まず呼び出したニキヤを隣に座らせ、
顎に手を当て顔を上に向かせたとき、
ニキヤの清らかさに一瞬戸惑う表情である。
順風満帆だった我が身を案ずる心情が表れていた。
 
奉納の踊りを披露するニキヤを前にしたときには
ただソロルを威圧するのではなく、心配そうな顔も垣間見せていた。
1幕での対決の恐ろしさからすると少々意外であったが、
ガムザッティの多面性が見え、物語をより奥深いものにさせていた。
婚約披露宴でのヴァリエーションは勝利を謳いあげているかのような
堂々たる踊りであった。
 
影の場のヴァリエーションでは、
寺島まゆみさんの軽やかで高い跳躍が印象深かった。
 
さて、今シーズン唯一のプティパ作品だったが、
豪華な衣装や装置、そして個性豊かなキャストによる濃密なドラマを
全日程心から堪能できた。
群舞の水準は相変わらず高く、特に影の王国の32人のダンサー達全員を讃えたい。
次回公演は3月、20世紀以降の三作品を集めた『ダイナミック ダンス!』で、
バレエ団にとっては初演作品ばかりである。
ダンサー達の新たな魅力を発見できることを期待したい



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