貧者の一灯 ブログ

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妄想劇場・韓信シリーズ

2021年11月01日 | 流れ雲のブログ



















楚の西側に位置する城父じょうほという都市の守備隊長である
奮揚ふんようのもとに奇妙な指示がもたらされたのは、
今上の王が即位してから五年めのことであった。

守備隊長の官名は「司馬」であったが、これは地方の城に
あっては貴職であった。

しかし、直接王から指示を受けるほどの地位ではない。
通常であれば、中央からの指示はすべて城主を通じて
もたらされるものなのである。

奮揚は、国都である郢えいからの使者が直々に自分の
ところにやってきたことに戸惑ったが、それ以上に
不信感を抱いたのは、その指示の内容であった。

「城父公没有忠誠度。因此、殺了這(城父の主には忠誠が
認められないため、これを殺すことを命ず)」  

竹簡に記された文字には王の意思を形にしたような
力があり、それを目にした司馬奮揚を激しく動揺させた。

このとき、彼は傍らにいた部下の子仲しちゅうに向かって
尋ねた。おそらく、彼の心に浮かんだ不安がそうさせた
のだろう。

「子仲よ。たしかうちの城主は太子であったはずだが……、
私の記憶に間違いはないだろうか」  

司馬奮揚は答えのわかりきった質問をした。
「間違いございません。

わが城主は王様のご長子にございまして、かつ跡取りとして
の地位を約束された方です」

「うむ。その通りだ。あの方は、この楚国の惣領だ。
それがなぜこのような……。

いったいあの父子の間になにがあったというのか。
子仲、お前なにか聞いていないか」

「どうして、あなた様を差し置いて私のような者が」  
確かに、子仲は何も聞かされていなかった。

しかし考えられることはある。そもそも太子という地位に
ある者が、このような辺境の城主として派遣されてくること
自体がおかしいことではある。

しかも派遣されてきたのは、ほんの二か月ほど前のこと
だったのだ。このことを考えると、派遣された時にはすでに
親子の間になんらかの問題があり、

派遣自体が左遷の意味を含んでいたものであったと
推測される。

「太子は……まだ若いが落ち着いたお方で、私としては
好意をもってここにお迎えしたつもりだ。

だが若干表情に影があることが気になっていたのだが、
もしかしたら王様との間に長く深刻な問題を抱えていた
のかもしれない」

奮揚は、鼻下の髭をこすりながらそう言った。

それは、彼がなにかを決断する前に必ず行なう仕草
であった。
「指示書の通りに、太子に死を賜るのですか」

子仲の発した質問は、やや性急なものであった。
奮揚はしばらくの間、沈黙した。 「…………」  

依然として彼は髭をこすることをやめない。しかし、
ふいに腰の剣に手をやると、一気にそれを引き抜いて
みせた。

「この剣で太子を……我が城主を斬ってみせるか。
……まさかな。そんなことをしてどうなるというのだ」  

奮揚は引き抜いた剣を日にかざし、それをしばらく眺めやる
と鞘に納めた。

「骨肉の争いに首を突っ込むとあとで面倒なことになる。

そもそも確たる理由もなしに人を斬ることは、虫が好かぬ」  
奮揚はため息まじりにそのようなことを言った。

馬鹿馬鹿しい、と思ったのだろう。
「ですが、れっきとした王命でございます。

これは、立派な理由ではないでしょうか」
子仲は、このとき王命に背くことに怯えを感じていたよう
であった。

かといって奮揚の言うことがわからないということはない。
太子という高貴な人物を誅するには、自分を納得させる
確かな理由が必要であった。

「理由なら、もちろんあるだろうさ。隠された理由という
やつがな。

だが、太子を殺すということは、恐ろしく大それたことだ。
たとえ王命であったとしても、その理由に万人が納得する
ような正当性がなければ、私は行動をためらう」

「では、どうするというのです。命令に背けば、貴方様は
罰せられてしまいますぞ」  

ここで司馬奮揚は、周囲に誰もいないのにも関わらず、
小声で子仲に耳打ちした。

「……いちはやく太子のもとへ行き、危機が訪れていること
をお教えしろ。

そして、太子を国外に逃がせ。

私は、その後で命令を実行することにする」  
このとき、奮揚はすでに髭をこすることをやめていた。

江南から興った楚は、一時期実質的に黄河流域をも支配
する覇者であったが、近年はその地位を失い、主に新興国
である呉から圧迫を受けている。

呉は楚と同じく江南にある国家であり、周王室の分家を
その開祖としていた。

これに対し、楚は純然な江南の民族によって構成された
国家であったため、長らく黄河流域の中原諸国から
蛮族扱いを受けてきた経緯がある。

よって、呉は楚に対して民族的優位性を持ち、江南のみ
ならず中原をも支配する正当性も所持している、
と主張してきた。

が、それが詭弁であることはいうまでもない。

いくら開祖が周王室の分家に由来するといっても、
その血を受け継いでいるのは王族だけの話であり、
国民の大多数は楚と同じく江南の人種なのである。

が、楚の人々はそれを知っていながら、呉の勢力を
慮って反論できずにいる。

彼らは呉に対して国境を固め、その軍の侵入を阻む意図
を示すことしか対抗策をとることが出来ずにいた。

子仲や上官である司馬奮揚が駐在する城父城も、
そのための要衝であった。

しかし防衛拠点であるはずの城郭は、内部から崩壊しよう
としている。

だが、彼や奮揚に出来ることは、とても少ない。

奮揚の命を受けた子仲は、すぐさま城主である太子建の
もとを訪れた。

国都である郢の宮殿の意思が太子を陥れることにあること
を伝え、その国外逃亡を促さねばならない。

それで太子の命は救われるかもしれないが、その先のこと
を思うと、気が重くなる任務であった。

自分や上官の奮揚は、城主が逃亡した事実を中央に対して
どう取り繕えばよいのか、そして国境防衛の責任をこの先
誰が担うのか…

…などのことを考えれば、あるいは自分も太子とともに逃亡
した方が賢明なのではないか、と考えてしまう。

しかし考えても答えは見つからないことはわかっていた。

時流に乗り、運命に身を任せて行動するしか、子仲に
道は残されていなかった。

「城主様に会いたい。急用なのだ」  
城の奥にある太子の居室を守る衛士たちを押しのけ、
勢いよく部屋に入った。

使命感に燃えていたとはいえ、このときの子仲の態度は、
礼儀をわきまえぬものだったといえよう。

「何ごとだ。もしや、呉軍の侵入を許したのではあるまいな」  

太子建は荒々しく室内に入り込んだ子仲を見ようともせず、
そのようにだけ言った。

彼は、机に向かってなにか書き物をしていた。
「一刻も早く、お耳に入れたいことがございます」  
太子建の字を書く手が止まった。

彼は物憂げな態度で子仲の方に向き直り、
「呉軍のことではないのか?」とだけ聞いた。
その表情は暗く、目の下には隈ができていた。

「御身に危険が迫っています。太子様、急いで御出立の
ご準備を。さもなければ、殺されてしまいます」

子仲は単刀直入にそう告げたが、太子の反応は期待した
ほど激しくなかった。

「いずれ殺される運命であることはすでにわかっている。
そうである以上、私は呉と戦って死にたかった。……

しかし、そうではないというのか」

本来なら国の前途の象徴ともいうべき存在の太子が、
このような悲壮な考え方をしてよいものか……

子仲は不安に感じたが、それよりもなぜ太子がこのような
思いに至ったか、そのことの方が重要だろう。

しかし、それを探る時間的余裕は、このときの彼にはなかった。
・・・














2児の母です。下の子には障害があり、今年は就学問題
を控えています。

今年に入ってすぐ、上の子が「来年はMくんも1年生だね~。
一緒に学校行くんだ!」とニコニコ顔で話しかけてきました。

下の子は言葉もほとんど話せず、身辺自立もままなら
ないため、上の子が通う小学校の特学(特別支援学級)に
上がるのは非常に難しい状態です。

上の子の楽しみを摘み取るようで心が痛みましたが、
遅かれ早かれ言わなければならないことです。

心を鬼にして、直面している現実を
上の子に分かる言葉で伝えました。

みるみる泣き顔になる上の子。

「登校時には危なくないように手をつなぐから…」
「休み時間のたびに様子を見に行くから…」
「Мくんがいじめられないように守るから…」

泣きながら一緒の学校にしてくれと頼む上の子に、
私も泣きながら「ごめんね」と謝ることしか出来ませんでした。

とうとう上の子は「Мくんと一緒に行くんだもん!」
と言い残して部屋にこもってしまいました。

まだ小学二年生の息子に、下の子を気遣う発言をさせた上、
深く傷つけてしまったことに、ひどく自己嫌悪しました。

それから数十分後…

上の子が部屋から出てくると、真剣な顔で私の前に座って
言いました。

その言葉は、とても小学二年生が言ったものとは
思えませんでした。

まさかその言葉によって、夫まで動かされるとは思いも
しませんでした

上の子が言った言葉です。

「…本当はМくんと一緒の学校がいいけど、もし絶対に
無理だったら我慢するよ。

その代わり、Мくんが楽しく通えて、いじめの無い学校を
探してね。約束してね」

こんな小さな子供が一生懸命考えて出した答えなんだ。

…そう思うとまた泣けてきて、2人で泣きながら
指切りをしました。

夫の帰宅後、この話をしたら夫も号泣。

今まで就学問題については、「よく分からないから、
任せるよ」と頼りないことを言っていた夫ですが、
この日を境に一緒に考えてくれるようになりました。

お兄ちゃん、ありがとう。

お母さんは、2人が生きやすく、幸せになれるよう頑張ります。