収穫祭のあとで無性に釣りをしたくなった。腹ごなしに太田川放水路の河口で釣り糸を垂れてみることにした。正月の雑煮にハゼを焼いて干したのを出汁にすると美味しい。
エサにするゴカイを買った釣具店で聞いてみた。
「大田川のハゼはどうなんね?」
「さっぱりらしいですよ...。」
「なんでね、今がシーズンじゃろ?数年前の大雨のせいかいね?」
「河口で鳥が食い尽くしよるらしいんです。」
最近、河口で県鳥アビを見かけることが多いにしても、湧いてくるハゼをアビが殆ど食べてしまう姿は想像できない。
高速を飛ばして二十数分、潮が引き始めた太田川放水路の河口岸に立った。なんと、河口の中央には獰猛そうな数百羽のアビが黒く屯している。暫く糸をたれてみた。絶好の潮だというのに、ハゼの天麩羅と雑煮の出汁の夢が瀬戸の島々のかなたへ飛んで行った。