続きです。
密談のカフェで羽蟻をつぶす音 宙虫
○(泉)まるでミステリー小説の様な俳句です。
〇(卯平)句としての詩情は乏しいが、シニカルな句。今の世相への反発。
◎(めたもん)「羽蟻をつぶす音」から視覚、聴覚、触覚、嗅覚に不気味さが伝わります。コーヒーの味覚もあり、心理ミステリーのような不安な感じが広がります。
夏の灯や甘味に誘わるグレーテル 藤三彩
人に倦み雨に倦み酒涼しけり あちゃこ
○(敏)「人に倦み雨に倦み」に今年の梅雨時の世相が端的に読み取れる。
◎(仙翁)今年の梅雨は長かったですね。コロナ籠りで酒ですね。
〇(春生)今年の夏は、こんな感じでした。「酒涼しけり」がうまいですが、文法的に誤りかも。
(選外)(道人)「酒涼しけり」が微妙ですが、今年の夏の雰囲気はよく伝わって来ます。この酒はビール?カクテル?
鉈彫りの梁剥き出しに夏館 アネモネ
○(餡子) あの梁は一番に目に付きました。熊本の宙虫さん行きつけの喫茶店?
○(敏)「鉈彫りの梁」にこの館の歴史が刻まれているようだ。確かな写生の目を感じた。
〇(春生)写生のしっかりした雰囲気のある句です。
銀の壺なぞれば処暑のきて座る 楊子
◎(あちゃこ)銀の壺と処暑の取り合わせが絶妙。巧みな一句。
◎(珠子)私の世界にはない取り合わせの上品な句。猛暑が始まったばかりでゲンナリしているときに、さらりと「処暑」を使う余裕には恐れ入ります。
◎(道人)おしゃれな句。銀の壺には涼気がピッタリ。「処暑のきて座る」この季語の擬人化は中々云えないフレーズ。
〇(めたもん)季節が移ろうなかで、区切りのひと時に浸る感じが快く伝わります。「銀の壺」の骨董品のような手触りもいいと思います。
〇(宙虫)なぞる・・なでる・・少し言葉の意味にひっかかるが、処暑との取り合わせがいい。
梁太き茶房別れの氷菓溶け 餡子
○(幹夫)レトロな喫茶店にまたひとつの別れがある。
(選外)(卯平)全体しては一七文字で纏めている。七、七、三の流れで自由律の句として読みたい。但し諄さが先行し読後感が今一つ明確にならない。
サイフォンの音ぽこぽこと梅雨明ける めたもん
○(あちゃこ)珈琲の香りが満ちてくる穏やかな時間。中七がいい。
○(泉)ノンビリとした雰囲気が良いと思います。
○(仙翁)音が聞こえ、景色も見えます。
◯(道人)何気ない日常詠とはいえ、背景にちりばめられた長い梅雨籠り生活での疲労や暗鬱感が読み取れる。ようやく梅雨が明けた、という感慨。
〇(まきえっと)ぽこぽこがいいですね。それにしてもいい香り。
◯ (アゼリア) 明るい夏がやって来ると良いのですが。
夏空に囚われている熱気球 あちゃこ
〇(珠子)熱気球は、夏空を制覇しているのではなく「囚われて」いる姿ととる逆転の発想が面白くて。
○(敏)梁に下がったランプを熱気球に見立てての作。「夏空に囚われている」が作者の心象のようにも取れる。
○(ルカ)とらえ方がいいですね。
〇(めたもん)中七が、意外に重苦しい熱気球の動きをうまく表現し、「夏空」と響き合っていると思います。
〇(ちせい)季語は「夏空」。想像力が飛翔して居ます。
〇(宙虫)熱気球が青空に気持ちいい。
隣席は向こうの世界苺パフェ 楊子
○(あちゃこ)そうかもしれません。ファンタジーというより、時空の歪みを感じます。
◎(敏)「向こうの世界」が反世界のように思えてぎょっとさせられた。「苺パフェ」が何の謂か単なる季語としての斡旋かは解きかねているが…。
◯(道人)中七はソーシャルディスタンスでもあり、人間関係の壁でもあるのでしょう。コロナ禍の句と読まなくても現代社会の一端が淡々と表出されている。
〇 (多実生) 隣は隣の世界、お互いそう思っている筈。
〇(卯平)この句が成り立つのは季語である「苺」を含んだ「苺パフェ」の措辞。無季の句として鑑賞した。結界の手前にいる詠み手の位置に安住している予定調和の世界。
新婚は裸電球冷奴 泉
○(幹夫)あの頃二人のアパートは裸電球まぶしくて・・・♪昔かぐや姫が歌った「赤ちょうちん」のような世界。
コーヒーカップ揃へて待つや秋ぐもり メイ
雷雨急明り消えては点りては アネモネ
〇(藤三彩)電柱が台風で倒れたり、先日は緊急地震速報が慌しく鳴って鼠一匹出ずの誤報でありました。
◎(春生)雷雨がすさまじく、不安な心が出ました。
○(ルカ)風雲急を告げる風景。
〇 (多実生) 雷の本場で育った私は雷に停電は付き物でした。
〇(宙虫)風雲急を告げる。そのままなところが臨場感に。
逢えぬ日の窓の明るさ梅雨明ける 珠子
〇(楊子)暗い心と対比させて明るく詠んであります。そう深刻でもなさそう。
◯(アネモネ)「逢えぬ日の窓の明るさ」が面白い。
◯(道人)「明」のリフレインがいいですね。「逢えぬ」は色んな「あえぬ」に読めます。
〇(メイ)今は切ないけれど、先は明るいのでしょう。
〇(宙虫)梅雨明けのいきなりの光が逆にさみしいものになる日がある。
(選外)(幹夫)切ないね。だけど、朝の来ない夜はないと言われるように。
来客は昭和レトロのサングラス 幹夫
◯(アネモネ)懐かしさ横溢。
○(仙翁)昭和レトロのサングラス、何となく分かるような。
〇(メイ)「昭和」と「レトロ」をお店でなく、来客としたのが新鮮です。
〇(卯平)一読した後心を動かせる句ではある。が、中七から下五の詠みをどう鑑賞するかが課題。サングラスそのものがが昭和レトロなのか、昭和レトロ風のサングラスなのか。その曖昧さが詩情へと繋がらない。そこの焦点化が必要では。しかし、どちらにしても予定調和範囲を脱してはいないと思うが。。。。
〇(めたもん)石原軍団は解散しましたが、あのような昔は若かった方の姿が浮かんできます。
◯ (アゼリア) このお店に似合いそうです。
木の色がやさしい喫茶梅雨晴れ間 泉
八月の女の去りしカウンター ルカ
○(餡子)この女は?何かドラマの一齣を見ているようです。
◎(藤三彩)八月は恋の生まれる月の予感がするのだが、今夏はその出逢いも難しそう。
〇 (多実生) カウンターは一人、寂しさが漂います。
◎(卯平)夏の恋は終わった。少々未練が残る男心が伏せるのは場末の酒場のカウンター。簡単な措辞で詠み手の心情を吐露している。佳吟。
◯ (アゼリア) 本当にそんな感じの哀愁が漂っています。
悲しみの眼で夕凪をすくう匙 宙虫
◎(楊子)繊細な心象描写がなんとも素敵。少し甘すぎる気もしますが。
○(幹夫)匙が夕凪を掬うという擬人化がいいですね。
〇(藤三彩)自然の猛威の後では立て直す気力体力の回復に時間がかかる。大変な夏だ。
◯(道人)俳句的ではないけれど、とても詩情豊かです。
〇(めたもん)「夕凪をすくう匙」に鬱屈とした気分があります。匙ですくうのがコロナの世の空気とも(普遍的な)個人の悲しみともとれて味わい深いです。
照明を落とす店内日の盛り まきえっと
〇(春生)灯りをうまく利用して、味のある句になりました。
◎(ルカ)対比がいいですね。
〇(メイ)薄暗い店内が外の日盛りを際立たせています。
三伏の卓に置きたるパフェかな 卯平
通夜の帰途オンザロックのカウンター 仙翁
◎(泉)いろいろと想像を刺激する俳句だと思います。
〇(メイ)すぐに家に帰らず、ひと休みしたい気持ちが伝わってきました。
◯ (アゼリア) 大切なお友達のお通夜だったのかなと推察致しました。
氷菓子溶ける窓辺や君を待つ 敏
○(幹夫)待てど暮らせど来ぬ人を・・・♪竹久夢二が詠んだ「宵待草」の心境になりそうだ。
○(餡子)これもまた、失恋ドラマでしょうか?
〇 (多実生) “こんな昔があったね”と。
ユーミンの流るるカフェに苺パフェ アゼリア
〇(珠子)そうか、あの喫茶にはユーミンが流れているのね。
〇(藤三彩)ユーミンにはスキー・ゲレンデの古き定形感があります。
(選外)(卯平)説明の範囲を脱していない。下五を季語と読んでもこの位置が安易で曖昧。ここからさらに踏み込んでいけば一行詩として成り立ちがもう少しは明確になるのでは。
逝く夏の茶房の椅子の背の孤独 餡子
〇(楊子)椅子の背に焦点を絞ったところが見つけ。孤独は言わなくてもいいかも。
〇(藤三彩)昔ながらの格調の在るお店の椅子は味わいがあるのです。椅子を買い替え変えよう。
◯(アネモネ)得心です。
○(仙翁)誰も座らない椅子は、寂しいかも。
〇(まきえっと)一人ではこういうお店には入れません。いろいろと考えることがあるんですね。
◎ (アゼリア) 三枚の写真で一番気になったのがこのレトロな椅子でした。
〇(宙虫)夏の終りの光が見える。
(選外)(道人)「背の孤独」がいいですね。「の」の4音が少し気になります。
(選外)(幹夫)ニヒルに葉巻をぷかり、てな感じがいいですね。
ひと味の氷菓ひと日の無事終わる 藤三彩
○(餡子) 今日も、取り敢えずコロナに捕まらずに済みそう。怖いです。
〇(珠子)これが庶民の小さな幸せです。ひと口ではなくひと味なのですね。苺?めろん?
◯(アネモネ)「ひと日の無事終わる」の安堵感!
〇(春生)この繰り返しが日常ですね。自然体で好感が持てます。
○(ルカ)ささやかな大切な気持ちが伝わります。
〇(まきえっと)溶けないうちに。
◎(ちせい)季語は「氷菓」。ほっとした感じとひと味の氷菓。かき氷と推察しました。
◎(宙虫)安堵の瞬間が届く。
椅子に蚊が店員呼んで処理させる ちせい
○(泉)ユーモラスな俳句だと思います。
盆芝居旧街道の宿場町 春生
○(ルカ)古き良き時代の空気感があります。
(選外)(卯平)句材が余りにも揃っている。つまり、立体感もないし、平面でもどこを焦点にして鑑賞すればいいのか、読み手の迷いを誘発する。そのことが詩情を弱めている。
飄々と歌論俳論氷菓舐め 道人
〇(楊子)若い頃のように喧々諤々とではなく、飄々とに納得しました。「舐め」もいいです。
〇(まきえっと) いいですね。早くこんな日が来ることを願います。
〇(ちせい)季語は「氷菓」。結構本格的だったのかもしれません。
○(あちゃこ)過去に戻される一句。そんな日々がありました。
屋外はコロナ・水害梅雨末期 多実生
(選外)(幹夫)コロナ禍という大事に、半夏水というべきか、今年は球磨川、最上川の洪水のダブルパンチ!
♪では、次回の句会告知をお待ちください。
広島は梅雨が明けると、猛烈な暑さになりました。しかし、今年の夏は雨が多かったので、秋は早くなりそうです。それにしても、新型コロナはますます拡大していますから、特別な夏ではありますね。何とか乗り切りたいものです。