建築とは・・・

2012-10-25 | 四国の建物風景

 

大人が足を踏み入れると、優しい気持ちになり「教育って何だろう」「子どもの幸せって何だろう」と考えさせられる建物。何より当の子どもたちにとって心地のいい居場所―。そんな豊かな空間を形作っている八幡浜市の日土小学校が、国の重要文化財に指定される見通しになった。
 1956~58年に完成した木造の2階建て校舎。市職員だった建築家の松村正恒さん(1913~93年)が、恩師らを通して体得した当時最先端のモダニズム建築の手法や要素を注ぎ込んで設計した。
 戦後の建造物としては愛媛ゆかりの丹下健三氏が設計した広島平和記念資料館(広島)、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館(東京)などに次いで4件目、学校建築では戦後初の国指定重文となる。
 特筆されるのは、これが現役の校舎であることだ。半世紀以上にわたり地域の中の学校として使い続けられ、現在も55人の子どもが学び、遊び、日々成長している。これからも普段通り現役校舎として大切に使い継いでいってほしい。それが校舎の価値を生かすことになるだろう。
 日土小校舎は、老朽化や台風被害を契機として、2004年ごろから保存か建て替えかをめぐり保護者・地域・行政・建築家で長い話し合いが持たれた。結果、完成当時の姿を尊重した修復や耐震補強が08~09年に施され、現役校舎として再び使い続けられるようになった経緯がある。
 今回の重文指定は、多くの人が関わった校舎再生活動なくしてはありえず、その取り組みに対する評価も含んでいると言える。本年度の日本建築学会賞や、米ワールド・モニュメント財団のモダニズム賞に選ばれていることも、意義ある再生であった証しだ。
 古くなった各地のモダニズム建築が次々と失われていく中、戦後の木造モダニズム建築である日土小校舎再生が相次いで高い公的評価を受けたことは、今後、優れた建築文化を生かすための先例にも後押しにもなるだろう。
 設計者の松村さんは著書「無級建築士自筆年譜」に書いている。「わたしは…かたちだけではない、こころとでもいっていいようなものを学校建築にこめたかったのです」「学校の主役は子供であり、先生です」
 高さ12センチの緩やかな勾配の階段、川にせり出したテラス、両面採光の明るい教室、出合い頭にぶつからないよう見通しを工夫した廊下の曲がり角…。校舎のいたるところに子どもへの配慮がちりばめられ、生命や自然への優しさがあふれている。
 国重文指定を機に、人を育てる学校という公共建築に松村さんが込めた思いを、あらためて引き継ぎたい。

                                            愛媛新聞:10/24社説

 

 

↑写真は、同じ建築家松村氏の設計された長谷小学校

 



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