新潟久紀ブログ版retrospective

新行政推進室12「恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~」編(その5)

●恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~(その5)

 かくして、現場職員を交えた意見交換会とアドバイザー達からの"金言"を受けつつ、私は素案のブラッシュアップを重ね、「県民サービスの質の向上のためのチェック項目」を取りまとめた。その体系は「1.00サービスの質についての認識と目標」が2項目、「2.00体制整備、マニュアル化、記録管理」が21項目、「3.00アフターサービス」が2項目、「4.00意見や要望への対応」が4項目、「5.00教育訓練や環境整備」が2項目、「6.00県民満足度の客観的な分析」が2項目の、6本柱の33項目だ。
 仕事の進め方そのものに係る点検の視点はどうしても多くなるので、マニュアル化や記録管理の項目が多いが、"アフターサービス"や"教育訓練"、"県民満足度の客観的な分析"といった項目は、口ではPDCA(プラン、ドゥ、チェック、アクション)サイクルと言いがちだが、実践されることがあまり見られない仕事の進め方の検証と構造的な改善のための仕組み作りを明確に促すものとして画期的であったと思う。また、柱建てや項目には"0.00"というように、今後の増設や見直しに備えてカンマ以下2桁が用意されているところも当時としては斬新で、完成時には現場との意見交換に基づき不要とされた点検項目の幾つかが既に"欠番"となっていた。無用な負荷につながる点検項目は整理したという点検項目そのものに改善の履歴が見えることは、現場の意見交換を尊重して精査してきたものであるということの証にも通じたのだ。
 そうはいっても、33もの点検項目の羅列は、日常業務の実施そのものに追われる職員にとっては面倒くさくてとっつきにくいものと移りそうだ。
本庁と出先で数百ある県庁の職場に対して一方的な文書で活用を依頼しても、仕事の内容に直接関わらないものなので、右から左へと読み捨てられてしまいそうだ。また、人事財政を統括する総務部長の名で組織系統を活用して上意下達としても、表向き形式的に点検項目に即した改善計画を作成するばかりで何の実効も上がらなければ、それこそお役所仕事の極みだ。さりとて神通力あらたかなアドバイザーに県内各職場を丁寧に説いて回ってもらうような予算も無い。
 そこで、農政企画課時代の二番煎じではあるが、自作のマンガで制度を普及するか…と考えた。新行政推進室では発足直後、新設職場の取り組み内容を職員に定期的に紹介する庁内向け広報誌を制作していた。A3判用紙を折った4ページ程度のものを毎月発行というものだったが、これの番外編として、柔らかくて目にもとまりやすいマンガ形式での普及広報を作成してはどうかと室長に伺ってみた。
 法令に基づかない任意の取り組みとは言え、新行政推進室が旗振る「21世紀の県行政創造運動」の一つの打ち出しとなっている「サービス向上」の取り組みにあたり、自作のマンガで普及というのはふざけすぎと却下されるかも…と心配してみたが、室長は仕事として取り組んでもらうための公文書での依頼は必要とした上で、室広報誌の場でユルくマンガづかいで補助的に発信するのはいいよとご了解。前職時代のリーフレットをサンプルとしてお見せしたので、マンガの上手い下手とかどんな内容にしろとか具体の指図も賜りたかったのだが…、言うほどのレベルに無いということだったのかも…。
 やってもいいよとは言われたものの、羅針盤となる中身の水準については室長の意向を得られず終いという"しるべ無き旅"に出るかのような心細い思いのまま、日に2時間ほど、マンガのコマ割りと作画のために独り狭い会議室に閉じこもること数日後、「県民サービス向上運動読本」と銘打ち、8ページの3部作が完成した。3部作としたのは、一回限りだと、送付された職場で他の文書等に埋没してそれっきりになってしまいそうだが、複数回配布されると目にとまり関心を持ってもらう確率も高くなるだろうし、1回分にでも関心を持ってもらえれば、続きものとして埋没した他の回も掘り出してもらえるかも知れない。また「連載」形式は、この取り組みが単発ではなく続けていくものであるというダイナミズムを示すと思えた。
 ※「県民サービス向上運動読本」はこちら→第1号第2号第3号
 かくして、平成12年8月から9月末にかけて全職場にマンガパンフレット3部作を配布して取り組みの認知度や話題性を高めた上で、「県民サービスの質の向上のためのチェック項目」の活用の伝道師として、私は県内の出先機関を行脚して回っていった。下手くそとは言え、やはりマンガ入りの配布物は珍しくてキャッチーだったようで、行く先々でそれをアイスブレーキング的に話題にしながら、一見して難しい文言が並んだ点検項目への抵抗感を和らげつつ普及推進のための意見交換を進めることができた。
 それから20年ほどが過ぎて、トップの交代や大災害の頻発、社会経済情勢の動向など県庁を取り巻く環境が激変していく中で、サービス指針なりチェック項目はそのままの形で目にすることは無くなった。ほんの一時のはやり病でしかなかったのか…とも思えるが、顧客満足の考え方や説明責任を果たすと言う意識、体系的で構造的な仕事の進め方など、昔から見れば県庁の仕事の進め方は大きく様変わりしていることに気付かされる。いまや当然のように認識していることへの変化の過程に、新行政推進室時代の私の仕事も少しは寄与してきたものと信じたい。

(「新行政推進室12「恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~」編(その5)」終わり。「新行政推進室13「仕上げは使い捨てでない「県民参加化型ガイドブック」作成」編」に続きます。)
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