新潟久紀ブログ版retrospective

新行政推進室13「仕上げは使い捨てでない「県民参加化型ガイドブック」作成」編

●仕上げは使い捨てでない「県民参加化型ガイドブック」作成

 目標を決めて年次的な改善の進捗を取りまとめた「行政手続簡素化計画」や仕事の進め方の品質を仕組みとして恒常的に確保していけるようにするための「県民サービスの質の向上のためのチェック項目」の作成と普及推進…。私は最年少でありながら、スタッフ制の下、大きな裁量を任せてもらえる中で、自らのアイデアや工夫をほぼ存分に発揮して仕事を進めてこれていた。新行政推進室発足と同時にメンバーとなって3年。私の年齢や経歴だと来年は異動かも知れない。
 この職場に居る間に更にやれることは何だろう。在任中の総仕上げを意識した時に、浮かび上がったのが、できるだけ長い間手にして業務の改善や工夫に繋げてもらえるようなツールを作れないかということだった。県民起点(本位)の仕事の進め方のシステムづくりの手順は"チェック項目"として整理したが、仕事の中身そのものを県民起点(本意)で考えていけるようなガイドラインみたいなものはどうだろうか。
 経済成長が鈍化安定し民主主義が成熟していく中で、幅広く生活に行政の関与を求める"大きな政府"への要請が強まっている。規制改革で許認可事務の簡素化や軽減が進む一方で、政策的に推進する事業が大きくなっているのだ。それらの内容や進め方は、則るべき法令がなく行政機関の企画立案と判断に委ねられている。県庁としての裁量の下で企画され展開される業務が、より県民本位のものに近づいていくような手引きを作ることを、私の密かな"卒業制作"にすることとした。
 全くの白紙から企画立案したり、有識者を招いて研究会を開いたり助言を得ながら作成…というには、時間もお金も無い。一方で何事にも先駆者というものが居るもので、自前のパソコンでダイヤルアップしたネットから他の自治体の先進事例を探ってみる。ある意味悔しいところではあるが、他者が金と労を掛けて仕上げたものを参考にさせて戴こうというのだ。私はあまりブライドは高くないし省エネ派だ。
 そんなわけで「県民参加型手法推進ガイドブック」は、参考とした資料の出典元や情報提供者等からの了解を取り付けたりしながら、私単独で最初から最後までまとめ上げようと考えていた。あくまでも仕事を進める上での参考図書としての位置づけという気楽さがあった。そうはいっても公務で制作する以上は何らかのオーソライズは必要だろう、という直属の上司である行政調査員の指導を受け、委託したり助言を得るための予算は無いので、職員によるワーキングチームを作り、そこでの意見交換を踏まえて成案化しようということにした。
 考えてみれば、県の裁量による事業の推進を県民本位のものとしていけるようにするためのツールを検討するワーキングチームは、金を掛けずに県職員自身が当事者意識を持って発意と知恵をひねり出す方法が理解を得やすいかもしれない。図らずも、新行政推進室の3年間を通じて、企画立案とオーソライズのプロセスにおいて、外部有識者を活用するか県職員自身によるかなど、県としての判断に足る合意形成に向けた仕事の進め方のバリエーションを経験的に学ぶことができた。これは後々の仕事を展開するための貴重な"勘どころ"となるのだ。
 ワーキングチームのメンバーは、県民からより多く参画や理解していたたくことが望ましい事業を所管する部署から参集する事にした。人選にあたっては、本音に基づいて実践的な内容のための意見を出してもらうために、管理監督的立場の係長よりも下にいて実務に一番汗をかいている主任や主査といった人を推薦していただくように関係部署にお願いした。役所が作るガイドブック等にありがちな、建前のみで小奇麗にまとめ上げられ、書棚に飾って置かれるだけのシロモノにしたくなかったのだ。
 地域政策課の地域づくり班、文化振興課の文化事業係、女性政策課の事業推進係、環境企画課の自然保護係、福祉保健課の看護介護人材係、治山課の緑化係、農村環境課の企画調査係、河川課の企画調査係、都市計画課の都市政策班の各々から主査又は主任が一人づつと、新行政推進室から統括者として係長格の行政調査員、そして主任に成りたての私で、11人で構成するワーキングチームが編成された。
 ガイドブックの構成は、県民参加を実践するための手法を体系化して一覧化したものを示し、次に各々の長所や短所、実際の展開にあたっての論点や工夫例などをワーキングチームメンバーの経験談などから臨場感を持って論述し、最後に、県庁内各部署で実際に取り組んでいる県民参加型の事業展開の事例情報を予算規模なども併せて一覧的データベースのように示す…そんな3部構成のものにすることとなった。
 ただ、コンテンツを調製していくと、活字や表のみで視覚的に堅苦しい。柔らかい発想や視点での県民参加を促すガイドブックとしては目に留めて手に取ってもらえるようなインパクトが無い。そこで、"またしても"という感じではあるが、表紙に私の自作イラストを描いてアイキャッチとなるようにし、巻頭に冊子の本編へと導くための"導入マンガ"を6ページ入れることとした
 今まで制作してきたリーフレットや広報誌と異なり、今回のガイドブックは、各職場に備えおいて比較的長く活用してもらおうという目的があったので、数十万円の予算を付けていただけた。成果品となった本編65ページ、厚さ4ミリ程度の冊子は、県庁が県民参加型の事業手法を展開するというその趣旨から、地元新聞でも好意的に取材してくれた。表紙にマンガイラストもあってそれなりの見栄えもしたので、冊子の装丁の写真入りで新聞記事に掲載してもらえた。
 報道で取り上げてもらう"パブリシティ"は、職員や関係者へ役所言葉の通知文で紹介するよりもよほど効果的だ。新聞掲載以降、暫くの間、県職員はもとより他県の自治体職員などからも問い合わせがあり、求めに応じてガイドブックを送付していった。20数年を経た今、本家の新潟県庁においてはガイドブックは見る影もない。そこに示した考え方や手法は既にガイドに拠らずとも職員の内心に備えられたということなのかも知れない。ただ、あの当時、問い合わせを受けて郵送した先の、遠く離れた日本国内のどこかの県や市町村の書棚の中で、私たちが丹精込めて制作したガイドブックが息をひそめているかもしれない。少しでも活用されることがあれば有難いものだ。

(「新行政推進室13「仕上げは使い捨てでない「県民参加化型ガイドブック」作成」編」終わり。「新行政推進室14「足跡を残せて満を持しての異動内示は…」編」に続きます。)
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