●宿泊実績調査、増大する業務と動員の果てに
自己点検表のB4横版の厚さ5センチほどのファイルは、所属単位を基本に編綴されていたから、おそらく300冊ほどにはなっていたと思われる。4月早々はガランとして寂しかった広い会議室は、壁際4辺にわたりずらり並べられた会議用テーブルの上にギッシリと配架された膨大なファイル群のため、閉塞感さえもたらすように様変わりしていた。
日を追う毎に書類に埋もれていくような環境の中で、連日所属長を呼び出してのヒアリングも進み、全庁的に不適正支出が隠し立て無くあぶり出されている様相であり、あとは調査結果の公表に向けて淡々と集計作業を進めればフィニッシュだな…と考えていた頃、業務の負担的には次なるハイライトが待ち受けていた。
「調査の信頼性確保のために宿泊先への確認照会調査を行う」のだと言う。ここまでの作業で外部委員から相当な心証を得られたとは思うが、基になっているのはあくまでも自己点検結果。特定の犯人探しをするのではなく職員全員が一斉に素直に報告しようとする再調査のスタンスにおいて、この期に及んで嘘や隠蔽は考えにくいが、自己点検はあくまでも自己点検であり、真偽についての客観性ある信頼性担保策が必要とされたのだ。
特に宿泊旅費は単価が高く、また、日帰り旅行を宿泊と称して水増し支給すれば、旅行事実を出張報告書等で疎明できつつ宿泊費分を浮かせられるので、流用財源に使われがちであったことも調査の中で明らかになっている。そこで、「宿泊出張」と同様に金額が大きい「日帰りでも県外への出張」に注目して、宿泊先施設の支配人や旅行先の面談相手方などから「確かに新潟県職員が宿泊ないし来訪しましたよ」という確認を求めることにしたのだ。
思わず「ちょっとまってくれ」だ。対象となる宿泊出張は10万件以上、日帰り県外出張も3万件以上はあったのではないか。現代のようにネットのメールによるオンラインでの照会回答などが普及していない当時、手法は当然に書面による照会文書を郵送して回答を返送してもらうということになる。ボリュームと手間暇を考えると呆然となる。
さすがに全件に対する郵送調査が現実的ではないということについて調査委員会でも御理解を頂き、結果して先ずは宿泊出張の10%、日帰り県外出張の5%の抽出調査を行い、自己点検と異なる事実関係等の発覚具合により、更に対象を拡大するかなど、その後の対応を判断するということになった。
私などは事務量が大きく軽減されることからホッとしたものだが、調査班の主査は「それでもそんな甘く考えてはいられない大変なものだ」という。「照会文の発送は出張者である職員自身にさせれば良いので事務分散できるが、回答は記載内容の守秘のためにも返信用封筒に入れてもらうこととし、送付先は我々調査班充てにする必要がある。万が一の職員による改ざんを防ぐためだ。想像してみなよ。総数で約1万通以上の封書が短期間でこの会議室に押し寄せることになる。迅速な調査結果の公表が求められている中で、我々だけで対処できると思うか?」。確かに実働4~5人の我々調査班では開封だけで一仕事であり、当然にしなければならない記載内容の点検なども考えるとゾッとする。
「さらに」と主査は続ける。「万一、宿泊先などからの回答が自己点検結果と違うことが続出したらどうなるか。抽出率10%を段階的に上げて…などという甘いことはできず、次は100%調査ということになる。抽出調査の結果如何では10数万件の全数について宿泊先等への照会を行うことになろうし、そもそも自己点検方式ではダメだということになる。第三者から職員全員を一人一人詰問したり、各職場はもとより場合によっては職員の自宅調査に及ぶ必要に至るかもしれない」。身震いするかのような最悪なシミュレーションだ。自己点検が誠実に行われており抽出調査の結果がそれと違わないことを天に祈るのみだ。
抽出調査とはいえ他の作業もある中で尋常ではない業務量になるという我々の悲鳴が伝わったようで、春先から増大するばかりの我々調査班の業務負担も勘案して、人事課は庁内各部署から作業支援者の動員を調達してくれた。会議室に若手を中心として数十人が参集し、抽出調査回答の封筒を次々と開封し、書類を整理していく。さながら選挙の開票場のように活気付く中で我々調査員も開封作業と共に彼らへの作業指示等に"汗を流した"。会議室内が大勢の体温で熱くなり本当に汗が出た。
果たして抽出調査の結果は、照会先のホテルなどから95%以上の回答を得られ、自己点検結果との齟齬は一部にあったものの、大抵が宿泊先や日にちの勘違いなどで、自己点検内容を補正か補完すれば足りるものてあり、最終的に事実関係の裏付けが取れなかったものは十数件のみであり比率にして0.07%程だった。証拠が揃わないがクロとしきれるものでもなく、調査委員会からも「自己点検の実施状況としてほぼ正確に行われた」との評価を得て、事なきを得たのだ。
(「人事課行革班7「宿泊実績調査、増大する業務と動員の果てに」編」終わり。「人事課行革班8「"食糧費チーム"追加。更なるタコ部屋化」編」に続きます。)
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