●いたずらをごまかして(その2)
ストーブの天板の上に置くとマッチが着火することを知った悪童3人衆は、その炎の煌めきに魅せられて、マッチの頭だけを沢山置いたらどれほど綺麗に燃えるか、花火のようになるのではないか、と盛り上がってしまった。夏に興じる市販の家庭用花火ではなくて自分たちで独自の花火が造れるのてはないかのように思い立ったのだ。本当に純粋に理科の実験でもやって何かを発明できないかという感じだったのだ。
マッチの頭を10個くらいもぎ取ってまとめてストーブの天板に置くと、着火の瞬間こそ花火のようなスパーク感があるが、さすがに市販の花火のような煌びやかさはあるはずもない。上がる炎も大きくはなったがマッチの軸棒を除いてあるので瞬時に消えてしまう。軸棒は焦げた匂いとむせぶ煙を皆が嫌がってそれを付けたままでというトライアルには至らなかった。
それで終わりにすればよかったのに、マッチの頭を並べて形にして着火してみようぜとか、こうすればどうなるとか、好奇心旺盛な男児達はエスカレーションしてしまった。マッチ箱にあったうちの随分の本数を”実験”に消費してしまったところで、さすがにやり過ぎだというよりも行為そのものに飽きてしまったので自然に打ち止めという感じになった。
我々は真摯な実験のつもりでも、多数のマッチ棒の燃えカスの小山を傍から見れば何事かと思われるだろう。しかしながら我々は何かを取り繕うための後始末というものの感覚が残念ながら備わっていなかった。冬の日没の早い中でいい加減遅い時間になっていたこともあり、楽器の後かたずけと帰宅のための身支度に夢中になってしまい、ストーブについては給油ダイヤルを消火の位置に合わせて小窓から炎が見えなくなるや早々に音楽室を引き上げてしまったのだ。
翌日の授業の合間に校内放送が流れ聞きなれた音楽担当教諭の声で「五年○組の○○と○○は昼休みに教務室に来なさい」と響き渡った。名指しされた私は本当に「何だろう」と全く見当もつかなかった。何か音楽班関係の個別の伝達かなあ程度に思ったのだ。
教務室の引き戸を開けて中に入ると、音楽教諭と我がクラスの担任教諭が鬼の形相で仁王立ちして待ち構えていた。放送で呼ばれなかった一人が既に先生たちの傍らにいてげんなりとしょげている。呼び出されたもう一人を合わせれは昨日のマッチ実験チーム3人衆になる。その事のお咎めに違いない。これはマズイ事だなと察している私の後ろから呼び出されたもう一人が入ってきたところで、先生方は強めの口調で話し始めた。
「大変な火遊びをしてくれたな。学校が火事になったらお前たちどうするんだ。これは本当に大問題なんたぞ分かっているのか」とガンガンと叱り続けられた。誰かの通報で最初に呼ばれていた気の弱い彼が”犯行を吐いて””仲間を売り”、我ら共犯者の呼び出しに至ったらしい。マッチの着火が中々上手くいかずに浪費してしまい処理に困ってストーブの天板に置いたとか言い訳はできなかったのか、と思っても後の祭りだ。
学校側はこの事案を相当深刻に捉えたらしく、担任教諭は「各々の親も呼び出して直接注意するので予め親に伝えておけ」と言って休み時間一杯の長い説教から我々を開放した。私自身が叱られるよりも親が怒られることが非常にマズイと思った。我が家の特に父親はザ昭和のような人で子供を叱る時は殴り飛ばしもする。私は先生に叱られた上に痛い思いもさせられるのかと奈落の底までのように落ち込んだのだ。
その日に自宅に帰ると、既に母親には呼び出しの電話連絡が担任教諭から届いていた。悪童である私達が正直に親に伝達するか信用ならなかったのだろう。母親は私に「理由は子供から聞いてください」と言っていたけどどうしたのかと問うてきた。
「ストーブを点ける時にマッチをいたずら半分で沢山使い過ぎて怒られた…」などと蚊が泣くような声で応答した。「その程度で親が呼び出されるのか」といぶかっていたが、夕食の準備に追われる母親から掘り下げるような追求はなく、私はこの”ごまかし”が効くのも僅かだなと思いながら喉を通らない食事を最後の晩餐のように口に運んでいた。
呼び出されて知らされた火事も危ぶまれた火遊びの真実と、私がそれをごまかそうとした態度も含め、元々当たりがキツめの母親と手が先に出るタイプの父親に私がどのような目に遭わされたかは、とても活字には出来ない悲惨さなのでした。
(「柏崎こども時代38「いたずらをごまかして(その2)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代39「校外学習は県都新潟市」」に続きます。)
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